504.近衛隊最終日
「皆、楽にして構わない」
アルバート殿下が私達をソファーに座るように促した後、そう言ってくれたがさすがに職業体験で近衛隊となっている為に、誰も姿勢を崩さない。……私以外は。
「……ジョアンは相変わらずだな」
「えっ?あ、アレ?」
しっかりソファーの背もたれに寄りかかっている私を見てアラン兄様は手を額にあて上を向いてしまい、他のみんなは苦笑している。
「ここに来てもらったのは君達にお願いがあってね」
そう言って切り出したアルバート殿下の話は、私達だけではなくアラン兄様達も驚くような話だった。
なんでも王太后様がお忍びで王都を散策と言う名の視察をするので、その警護にあたることだった。通常であれば、近衛隊の女性騎士もしくは男性騎士が侍女や従者に変装して警護にあたるらしいが、それでもやはり皇太后様だとバレて平民の普段の生活風景を見れない。そこで、騎士科の私達に警護にあたって欲しいと皇太后様からのたっての要望だという。それを聞いた私達は、お互いに顔を見合わせて困惑した。
「君達の率直な意見が聞きたい。発言を許す、もちろん不敬にはしない。もちろん近衛隊の君達もね」
「では、この要望を生徒達に話すと言うことは、既に隊長は了承していると言うことで宜しいでしょうか?」
「ああ、もちろんだ。このAチームにはあのスパルタンレースで現役騎士よりも成績が良かった者もいるからな」
「そうですか。それであれば、何も言うことはありません」
アラン兄様が納得するとリュークさんもチャッターさんも頷く。
「騎士科の君達からは何かないかい?」
「警護の際は、変装するのでしょうか?」
「そうなるね。今回の設定としては、ジョアン嬢とベル嬢は王太后様の孫として付き添ってもらいたい。その他は、従僕などだね」
「警護は完全に私達だけなのでしょうか?」
「さすがにそれは難しいだろうから、離れたところで近衛隊もしくは公安隊をつけさせるつもりだ」
カリム、エドが率先して質問するが、どうしても平民であるソウヤ達は聞いているだけだった。でも、何か聞きたいことがあるのかリキが私の方に視線を送ってきた。もちろんそれにアルバート殿下が気づかないはずもなく、リキに話をふると緊張しながらも質問をした。
「あの……王都ということですけど、どこを視察するんですか?」
「教会および孤児院、それからマーケット周辺だな」
「はい!はい!」
「なんだジョアン」
「孫の変装ってどんな感じですか?」
「それは王太后様が準備するということなので、こちらとしてはわからない。とりあえず、日程は三日後の午前中となる。着替え等があるので、いつもより早めに来てくれ。以上だ」
*****
ーーー三日後。
私達はいつもの出勤時間よりもだいぶ早く近衛隊兵舎に集合した。
ちなみに、この二日間は王宮内の巡回や近衛隊との鍛練などを行い、時には王妃様のお忍びに付き合わされたり、なぜか王宮の食堂で料理の手伝いをさせられたりと何だかんだ充実した日を送った。そして、今日は近衛隊での職業体験最終日で皇太后様とのお忍び視察だ。
「はい、出来ましたよ」
「「ありがとうございます……」」
いつもの侍女トリオのセーラさんとピアさんが私とベルの変装を手伝ってくれた。ちなみにスージーさんは只今産休に入っている。
準備が終わり近衛隊兵舎前に行くと、そこには既に変装を終えたクラスメイトが待っていた。カリムは孫1、エドは家令見習い、ソウヤとブラッドは御者、リキとダガーは従僕ということらしい。今日の行動予定を確認しているのか、みんなの所にはアルバート殿下と近衛隊の先輩達もいた。
「お待たせしました」
「「「「「「「「「「えっ!?」」」」」」」」」」
私が声を掛けるとみんな振り向いてくれたが、私とベルの変装を見て驚いていた。
本日の私の変装は、黒髪の短髪ウィッグに黒縁メガネ、首には変声機チョーカーで肌には褐色のファンデーションを塗っている。そして、ベルは黒髪のツインテールにワンピース、そして私と同じように褐色のファンデーションを塗っている。
「ジョアンとベル嬢のその格好は一体……」
「えっと、王太后様の指示書によると長男カリム、次男ジョウ、長女ベリーの三兄弟らしいです」
「まさかの次男なのか……」
「はい。王太后様も一度私の男装を見ているからだと思いますけど……」
「だからと言って、なぜ俺の兄弟……」
「あー、それは、私の黒髪姿を見てみたいからって書いてた」
「そんな理由?」
「うん。宜しくね、兄上」
「宜しくお願い致しますわ、お兄様?」
「……あぁ」
色々と諦めたカリムをエド達が苦笑しながらも慰め、アルバート殿下もアラン兄様達もそれを見て何とも言えないような顔をしていた。
そんな会話をしていると、近衛兵舎前の馬車停めに一台の馬車が停まった。
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