500.希望する褒美は
それから、私は色々と考えたけれどやはりお父様の真意はわからない。ただ、今はひたすら武闘会のサポートをすることに徹することにした。何も考えないで済むように。
そして、頑張ってサポートしていた国を挙げた一大イベントの武闘会が終わった。表彰式は、開会式を行なった学院のコロッセウム。開会式同様に、多くの観客が来場した。
優勝者で私の知り合いだったのは、剣術部門のアラン兄様、槍術部門のツヴェルク国第一騎士団の副団長レギンさん、魔術部門のアルバート殿下だった。各部門の優勝者には、メダルと副賞として望みを叶えてもらえる。副賞に関しては、その場で願いでても良いし、後ほど告げても良いらしくアラン兄様とアルバート殿下は、その場では願いでなかった。体術部門の優勝したアニア国の騎士は、婚約者に公開プロポーズをして帰国したら即式を挙げるそうだ。弓術部門のエルファ国の騎士は、来月産まれる予定の子供の名付けをエルファ国王に願っていた。そして、槍術部門で優勝したレギンさんは、各国の銘酒を願っていた。さすが、ドワーフ族。
武闘会の閉会式が終わると、その日の夕方から王宮の広間で打ち上げが行われた。参加者は、各部門の上位5名と各国の王族もしくはその代理。各部門の上位5名の中には、お兄様2人だけではなくカズール先輩、ノア先輩などがいた。そして、先日行われたスパルタンレースの上位5名。そして、そのパートナーだったり親族が一緒で、私にはお父様が保護者として参加していた。
打ち上げは、王宮料理人が腕によりをかけた料理が出されてバイキングスタイルの立食パーティーだった。王宮料理の割には、唐揚げやナポリタン、カレーなど私の教えた料理が並んでいることに疑問を感じたが、みんなが我先にと料理を取りに行くのを見て苦笑するしかなかった。
打ち上げもたけなわになった頃、宰相様からスパルタンレースの上位5名が呼ばれて、褒美の授与となった。希望する褒美は、この日の午前中に宰相様から尋ねられそれぞれ答えていた。
ーー遡ること10刻前。
「で、ジョアン嬢の希望するものは何だい?」
宰相様の執務室で、褒美について聞かれた。スパルタンレースの褒美を聞くのは、私で最後らしく労いも兼ねて私のストレージから緑茶と草餅とバターどら焼きを食べながらの個人面談。
「それなんですけど、もらうのは個人でないといけませんか?」
「ん?と言うと?」
「えっと、個人で欲しいものはあるんですけど……。ちょっと、お父様に反対されるかな?と思って」
「スタンに?なぜ?」
「個人的には、第二騎士団の内定が欲しいんですけど……」
「あー、スタンが第二の入団を反対しているからか」
「でも、何で反対か教えてくれなくて、先日は『近衛隊に入団することを命令』とまで言われて……」
「理由を説明しないで命令とは……スタンの馬鹿が……。申し訳ないが、スタンが言わないことを私が言える立場ではない。ともかく、一度しっかり話し合ってみる事だな」
「はい、そうしてみます。だから、今回の褒美は学院の私のクラスの職業体験をお願いします」
「職業体験!?」
私が宰相様に説明したのは、前世に公立中学で行われている職業体験。学生のうちから世の中の様々な職業を知り、職場での社会体験を通して働く大人と接し、働くことの厳しさや楽しさ、やりがいなどを学んでもらうことを目的としたもの。スーパーや幼稚園だけでなく、地域によっては消防署や自衛隊でも受け入れているらしい。
そういえば、低年齢向けの有料職業体験の所に、何度か孫達を連れて行ったわねぇ。
「なるほど。それだと、学生のうちに仕事を体験して卒業後の進路を決める参考にもなるのか……」
「ホルガー様、今後、騎士科だけではなく文官科や魔術科なども職業体験を行い、上手くいけば早いうちから優秀な者を確保出来るのでは?」
そう提案するのは、先程まで宰相様の隣で静かに草餅を咀嚼していた宰相秘書官のフロンタさん。よく見ると、既に草餅もバターどら焼きも食べ終わっていた。
「確かに。学生のうちだと平民もいる。平民でも優秀な者も多くなっているし、先に目を付けておけば他に流れることもないな。よし!ジョアン嬢の希望を受理しよう」
「ありがとうございます!」
そして、褒美は陛下が授与してくれた。褒美の授与は、珍しく着順の遅い者からと言う事で、私からだった。
「ジョアン・ランペイル殿、褒美として『騎士科3年の12日間の職業体験』を授与する」
「はい!」
周囲では、初めて聞く職業体験という言葉にざわついている。それを予想していたのか、宰相様が職業体験についての説明をしていた。
アラン兄様とカズール先輩が希望したのは、有名錬金術師のイジョクさんの剣。私が作って貰った時は、カニ料理のお礼だったけれど、通常であれば依頼金も高額で、しかも依頼人と会ってその人となりを見てイジョクさんが決めるために、誰にでも作るわけではないらしい。そんなに凄い職人だったのか、イジョクさん。
そして驚いたのは、ラギール様の希望の『“食の女神” にアニア国で料理教室を依頼出来る事』、ジャンヌ様の『各国の騎士科の女子学生をアニア国に招待&鍛練ツアー』。
「という事で……ジョアン嬢、ぜひアニア国の食文化の改革をお願いしたい!もちろん滞在中は、こちらが全て取り仕切るし不自由なことがないことを約束する!もちろん無理であれば、断っても構わない。褒美は、依頼出来る事だからな」
誰が、アニア国の王子に言われて断ることが出来るだろうか?助けを求めるように、陛下達を見ても「行ってこい」とばかりに頷いている。
「は、はい。喜んで」
居酒屋入りたての気弱な新人バイトのような返事をすると、周囲はーー特にアニア国の方々ーー歓喜の声を挙げながらハイタッチや握手をしている。それを見たお父様は苦笑いで私を見ていた。
職業体験を、3日→12日にしました。
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