498.借り物競走
私が1番苦戦したのは、これまた魔術科の魔道具コースが材料として飼っていたのか不明だが、爬虫類&両生類がウヨウヨといるエリア。前世から見るのも嫌なのに、大きな子供プールの中に泳ぐヤツら達。そこを、突き進まなければならない苦行。
「いやー!!気持ち悪っ!!こっち来んな!!ギャーー」
「落ち着けジョアン!叫べば、更に寄ってくる」
「アラン兄様、もー無理かも」
「お前な……第二に行きたいなら、これぐらいの試練クリアしなければ伯父上も許可してくれないぞ」
「あっ……」
私は、アラン兄様の言葉を聞いてパンッと自分の両手で両頬を打った。
「ありがとう、アラン兄様。私、やる!!」
「おう!じゃ、俺は先に行く」ドンッ。
「えっ、うわっ」バシャンッ。
アラン兄様は、先に行くと言いつつ私をヤツらの巣窟へ突き落とした。私が落ちて尻餅をついたのを振り向きざまに確認したアラン兄様は、ニヤッと笑って走って行く。呆然としていると、ゲコゲコとヤツらが近づいて来た。
「ギャーー!!アランドルフー!こんのっ、待ちやがれー!!」
私は火事場の馬鹿力で、ヤツらをはたき落としながら池の中を突き進み、アラン兄様を追いかけた。
アラン兄様に追いついたのは、3台並んだ平均台の様な障害物を渡っている所だった。平均台の高さは大体1m。下にはクッションとして藁が敷き詰められていたが、確実に厩舎から持って来ただろうと思われる芳しい臭いがする。私はアラン兄様の隣の平均台を迷わず突き進み並走すると、その場で跳躍しアラン兄様の平均台へと飛び移った。アラン兄様は、ギョッとしグラッとバランスを崩すもなんとか落ちるほどではなかった。
「アラン兄様?先程は、叱咤激励ありがとうございました〜。私、ちゃんと追い付きましたよ。だから……」ドンッ。
「うわっ。クッサ!!」
「あら、アラン兄様ってば藁にまみれても格好良いですわ〜。じゃあ、お先でーす」
私は躊躇いもなく、アラン兄様の足をはらって平均台の下へと突き落とした。アラン兄様は、馬糞香る藁まみれだ。それを見ながら、私は平均台を渡り切った。
「ジョアンちゃん、中々エゲツないね」
「あっ、カズール先輩。見てました?でも、アレは先に仕掛けられたので正当防衛です!」
「あっははは。まぁ、そういう事にしておくよ。残りは堂々と勝負しよう!」
「はい!」
「じゃあ、お先に」
「えっ!?早っ」
平均台を後からクリアしたはずのカズール先輩は、私と話すとスピードを上げて一気に差を離されてしまった。残る障害物は、きっと王妃様に聞いたであろう、前世の運動会でも見た事のある借り物競争。
えっ?今までの頑張りって何?
ただ、スパルタンコースの借り物競走は一味違った。先に引いたカズール先輩は「マジかよ。どこにあるんだよ王宮料理人の砥石って」と叫びながら、王宮の方へ走って行った。私が引いたのは、見たことのある文字で『あなたの好きな異性』とあった。
「コレって絶対、王妃様でしょ!んなもん、連れて行けるかー!!」
そうは言っても連れてゴールしなければ、失格になってしまう。私は辺りを見回し、目的の人物を探した。その人は、観客席で他の人達とお酒を飲みながらコチラを見ていた。私は観客席に走り寄り叫んだ。
「お父様ーー!!一緒に来て下さい!!」
「ん?どうした、ジョアン。まだ、競技中だろう?」
「良いから、早くこちらへ」
「いや、今、酒を注文したところーー」
「もう、良いです!!」
私は、早々にお父様を諦めて未だトラックで参加者達に雷を浴びせているお祖父様の元に走った。
「お祖父様、一緒に来て下さい!」
「ん?どうした?……あー、借り物か。よし!ジョアン、走るぞ!付いて来るんじゃ!」
「はい!」
何とかお祖父様を連れてゴールしたものの、着順はジャンヌ様、カズール先輩、ラギール様、アラン兄様、私。その後に、ジーン兄様、ノア先輩が続いた。なんとか5位に入れたものの……あの時、お父様がさっさと来てくれたらもっと上に行っていたのに!
「あー、マジか。ジョーに負けたなんて……。借り物が『騎士団旗』なんて、倉庫まで行ったのがタイムロスだった」
「副団長は良い方ですよ。俺なんか『高位貴族の靴』ですよ?」
「いやいや、ノア。それって自分の靴で良かったろ?」
「えっ!?あーーっ。俺も高位貴族だったーー」
私の隣で、ジーン兄様とノア先輩がボヤいている。ちなみに1位になったジャンヌ様の借り物は『王宮の使用人』という事で、観覧席で給仕をしていた侍女をお姫様抱っこでゴールしていた。男装の麗人からお姫様抱っこされた侍女は、未だにポーッとジャンヌ様を見ている。
あー、あれは惚れたな。
まぁ、わからないわけではない。ジャンヌ様、格好良いもの。
「では、上位5名こちらへ」
「「「「「はい」」」」」
宰相様に呼ばれて、私達は宰相様がいる壇の前に並んだ。
「上位5名には、褒美として希望する物を贈ろうと思う。もちろん、決勝にて優勝しなくてもだ。武闘会が終わるまで、それぞれ考えておくように」
「「「「「はい」」」」」
こうして終了した、スパルタンレースは良い経験になったと思う。通常であれば、武闘会の決勝進出した騎士達だけが参加するはずが、お祖母様のお陰で学生達も参加出来る様になった。お祖父様達のトラップに挑む事で、臨機応変に対応する力が鍛えられた。
「それにしても、欲しい物か〜。どうしよう?」
「何か必要な物とかないのか?」
「剣とか武具とかは?」
「ってか、本当に何でも良いのか?金額関係なく?」
「いやいや、さすがに高額な物は無理なんじゃーー」
「大丈夫よ」
声のする方をみんなで見ると、そこにはお祖父様とお祖母様がいた。
これから、また忙しくなりそうなので、また更新の間隔が開くかもしれません。
気長に待って頂けたら、嬉しいです。
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