496.お祖母様からのプレゼント
「あっ、そうそう。言い忘れていたわ。王立学院騎士科はスタートは一緒だけれど、ペナルティは学年ごとのグループよ。……では、始めましょうか」ヒュ〜、パン。
レティおば様が、スターター係の生徒に指示を出すと乾いた音が演習場に響き渡る。それを合図に、まずは剣術グループが走り出す。5分程の間隔を空けて次のグループが走り出す。私達の順番が来る間に、念入りに準備運動をする。
「まさか、俺達までとは思ってなかったよ」
「知ってたのか?ジョアン」
「いやいや、知らないよ。私ぐらいには言って欲しかった」
「もしかしたら、今日になって決まったのかもな」
「でも、リンジー様なら言わない気もする……」
「「「「確かに……」」」」
そんな話をしながら、既にスタートした騎士達を見るとやはり魔術科の生徒達とお祖父様達が疾走している騎士達を妨害していた。それを、スタートを待っている私達は、「うっわっ」「エゲツな」「マジか」などと呟きながら見ていた。
そして最初のグループから30分後、私達、王立学院の騎士科グループの順番がやってきた。
うぅー、ヤバい。めちゃくちゃ緊張してきた。
こんな緊張、前世から考えてもいつぶりだったか思い出せないわ。アレかしら?旦那の両親に会いに行った以来かしら?
そんな私がどうでも良い事を考えていると、パンッとスターターの合図があり、急に現実に戻された。
最初の障害物は、ネット潜り。その後に、シンプルな2mぐらいの壁登り、そして、壁登りの着地点には水が張られた小さな水濠があった。深さは私の膝ぐらいだけど、その後は濡れた状態で走らなければならない。
「ゲッ!!嘘だろ!?」
「靴の中まで水きたぞ」
「しょーがねー、このまま走らなきゃ先生達が来るぞ」
誰しもが濡れた靴で走りにくいが、ここで止まっているわけにはいかず走り出す。
その後に待ち構えていたのは、飛び石エリアが続く。飛び石が置いてあるのは泥の中。中には足を滑らせ、泥に頭から突っ込んでいる人もいた。そこを抜けると、火の玉エリア。左右から火の玉が飛んでくる。
「あっつ!!」
「うっわ!!」
「危なっ!!」
もー、結界張りたい!!
そしたら、楽に行けるのにぃ〜!!
その後も、ボルダリングような壁を登ったり、火の輪トンネルを潜ったりと大体100mに1つの間隔である様々な障害物を超えて1周目が終わった。ゴールしたら、次に待ち受けるのは腕立て100回、スクワット100回、ジャンプ100回。それが、終わる頃には、誰もが休憩ポイントで倒れ込んでいた。
「ハァハァ……」
「きっつ……」
「インターバル、10分とかって短くね?」
「俺、火の玉直撃しそうになった。あと数ミリズレてたら、危なかったわ」
「私はボルダリングかな。握力鍛えなきゃ」
クラスメイトと休憩していると、そこへお祖母様からの文ーー【火属性】のお祖母様の文は、レッドドラゴンーーが飛んできた。
「ん?……っしゃ!皆んな、アレ外して良いって!」
「「「マジか!?っしゃー!!」」」
「良かった〜。動きにくかったのよね」
私達が喜んでいる中、教師陣でいち早くゴールし腕立て伏せ等を終わらせたブライアン先生とヘクタール先生が近寄って来た。
「ハァハァ…‥何を……喜んでいるんだ?」
「ハァハァ…‥お前ら元気……だな」
「あっ、先生!大丈夫……じゃないですね。……はい、どうぞ」
既にグッタリしている2人にスポーツドリンクを渡して、お祖母様から文が届いたことを教える。
「文には、何て?もう、参加しなくて良いとかか?」
「いやいや、それはないですよ。コレを外して良いってだけですよ」
「コレ?あー、その腕輪ってお前らが夏合宿の時に、リンジー様に貰ってからずっと付けてるものだろ?それが何だ?」
不思議そうにスポーツドリンクを飲みながら聞いてくる先生の前で、両手両脚に付けているバングルとアンクレットを外す。そして、バングルを1つブライアン先生に渡してみる。
「ん?おっも!何だ、コレ!?」
「重りですよ。あの夏合宿終了後にお祖母様から貰ったんです。入浴以外付けるようにと」
お祖母様から貰ったバングルとアンクレットは、魔石がついており重量加重がされてある。重さは1つ、ソウヤ達男性陣は2kg、私とベルは1.5kg。つまりアンクルウェイトを計6〜8kg付けて生活をしていたということ。ちなみに、製作者はドワーフ族の細工師ガンダルさん。
「……お前達、いつもコレを付けて授業受けたり、冒険者活動していたのか?試験も?」
「ジョアンは、コレを付けて各国行っていたのか?」
「あー、さすがに謁見とかのドレスアップした時だけは外しましたよ」
「「リンジー様……エグいな」」
そうこうしている間に、2周目がスタートする。スタート直前に、お祖母様と目があったのでサムズアップをすると、お祖母様はニコッと笑い、すぐ元の表情に戻ってトラックを走っている騎士達に視線を向けた。
2周目の障害物は、先程と全て異なっていた。
土嚢を持って走ったり、微弱の雷に打たれないように走り抜けたり、土壁が急に地面から出てきたり、暴風雨のような水量と強風の中を突き進んだりと様々な障害物があったが、私達は1周目と違い身体が軽くなった為に、どんどんと前グループに追いついて行った。まずは、4年生達を追い抜き、次に各国の騎士学校グループを次々と追い抜いて行った。そして、2周目が終わる頃、前には決勝進出の騎士の各種目グループと騎士団長グループだけとなった。
3周目には、早々に騎士団長グループを捉えた。3周目にもなると、決勝進出の騎士達でさえもグループ内で遅れてくる人も増えて来た。だから、私達以外はペナルティの腕立て、スクワット、ジャンプをしていた。
「あのね……私、そろそろ限界かも……」
ストレッチをしていると、ベルが申し訳なさそうに言う。それに続いてソウヤも手を挙げ「俺もヤバい」と言う。ということで、もうペナルティを受けなくて済む私達は、コレからは個人戦に移行しようと言うことになった。




