480.理解してくれて
目を覚ますと、カズール先輩のいた所にはシェルトンさんが寝ていた。起きてすぐカズール先輩がいたら、恥ずか死ねる自信があるので良かった。カズール先輩とヘイデンさんは、私が熟睡している間に見張りの交代をしたらしい。時計を見ると6刻前。首元のスカーフがズレていないのを確認するとシェルトンさんとマットさんを起こさないように、テントの外に出る。
「おっ、ショウ。早いな」
「おはようございます、ヘイデンさん。あれ?班長さんは?」
「あー、明るくなったから周辺を見回りに行った」
「えっ?1人で大丈夫なんすか?」
「あー大丈夫、大丈夫。アホみたいに強い奴だから」
まぁ、カズール先輩なら大丈夫だとは思うけど……。
ーーベルデ、いる?
ーーはい、こちらに。
ーーカズール先輩のこと探して、危なかったら呼んで。
ーーかしこまりました。
昨日、野営準備が終わると他の精霊に会ってくると出掛けていたベルデにカズール先輩のことをお願いした。ベルデが離れると、私は朝食の準備に取り掛かる。
今日の朝食は、フレンチトーストとソーセージ、野菜スープ。フレンチトーストとソーセージは焼けた物から、ストレージに入れていく。途中で、ロッソから念話で「ズルい!食べたい!!」と言われたので、ロッソ達の分も焼いてストレージに入れていく。
次は野菜スープ。昨夜の夜食がミネストローネだったので、今朝はシンプルにベーコンとタマオンのコンソメスープ。辺りにいい匂いが漂う頃、カズール先輩が戻って来た。そして、タイミングを計ったようにテントからシェルトンさんとマットさんが起きてきた。
「おはようございます」
「おはよう。もしかして朝食まで作ってくれたのか?」
「はい。まぁ、自分の分のついでなんで」
「ついでの方が多いけど……ありがとう。シェルトンとマット、顔洗ったら頂こう」
シェルトンさんとマットさんは、川に顔を洗いに行ったが早々に帰って来た。春だとはいえ、早朝だと川の水は冷たかったと。だから、マットさんは寝癖が直っていない。
「うっま!!あー、ショウが俺らの班にいてくれたら野営の食事も楽しめるのになぁー」
「そんなに辛いもんですか?」
「そりゃそーだよ。料理が上手くない男達が、焼くだけ茹でるだけでは味は足りないし。焼いても生焼けだったり、焦げまくっていたりで、携帯食料を食ってた方がまし」
携帯食料とは、前世のブロック型の栄養補助食品とカタパンの間のような食べ物。ただし、栄養はとれるが美味しくはないらしい。
「第二騎士団には、女性はいないんですか?」
「今はいない。むさ苦しい男世帯だ」
「今年卒業に、エレーナとクロエがいるけど第二には来ないだろ。エレーナは、近衛隊でしかも王子妃だしな。クロエは第一に入るのか、どこかの私兵団に入るのかだろうな」
「再来年のジョアンちゃんが第二に入ってくれたらなぁ〜」
「ジョアンちゃんの料理、食べ放題じゃね?」
「マジか。それ、最高だな」
私も第二に入りたい!
それに私の料理で良ければいくらでも作るよ!!
「でもさ〜、副隊長が納得すっかな?」
「あー、確かに。しかもランペイル辺境伯も、OBだけど娘は入れたくないって言ってるらしいぞ」
「あれか?この前の一件で、過保護が悪化したってやつか?」
「そうそう。あのボクちゃんがいる第一騎士団も、災難だよなぁ。あのまま辞めるかと思いきや、下男としてまだいるんだろ?」
あーコブちゃん、まだ第一騎士団にいるんだ。まぁ、辞めたら路頭に迷うからなぁ〜。
それよりお父様、私が魔獣討伐団に入るの反対なんだ……。
「らしいな。でもよ、1番怖いのはランペイル辺境伯夫人だろ。あの元侯爵夫人の取り巻きだった家は、商人が寄り付かなくなったってよ。特にジョアンちゃんのお陰で爵位を貰ったダッシャー商会やオートクチュールのマダムは、入店禁止にしているらしいぞ」
「何で、それが辺境伯夫人が怖いになるんだ?」
「ヘイデンは、わかってねーな。辺境伯夫人は今や王国一の商売人だぞ。辺境伯夫人を敵に回したくないだろ。しかも俺の家の店もそうだけど、あのオートクチュールのマダムに睨まれた客に商品を売ってみろ、今度はこっちの店が睨まれるぞ」
「は?シェルトンの家は、平民の服屋だろ?」
「あのマダムは、服飾業界のドンなんだよ」
ってか、マダムって服飾業界のドンなんだ……。うん、何となくわかってた。
「ショウ、大丈夫か?顔色悪いぞ」
私が、お父様の発言のことや件の侯爵家のことを色々と考えていたらカズール先輩が心配して声をかけてくれた。他の人達は、他の話をしているのでこちらには気づいてない。
「あっ、いや貴族の方って大変そうだな〜って思って」
「あー、まぁ。でも、元侯爵夫人や侯爵令息がやった事は許せる事ではないからな。ジョアンちゃんの尊厳を傷つけたんだから、これぐらいで済んで良かった方だ。俺だって、王都を離れていなければ……」
「そのご令嬢は、幸せですね。こんなにもご家族や班長さん達に心配してもらって。でも、そのご令嬢が第二騎士団に入れてもらえないのは……」
「いや、ジョアンちゃんなら大丈夫だ。あの子ならきっと自分の希望通りにするよ」
カズール先輩が私を理解してくれるのが嬉しい。
私も第二騎士団に入るために、頑張らなきゃな。
朝食が終わると、私にお礼を言いカズール先輩達は再びホワイトオウルベアの捜索に向かった。久々に会えて、色々と話せて良かった。
そして、私達もジェネラルに向かって出発した。
帰宅したらお父様に真意を確認して、今後どうするか決めよう。やれる事をやらなきゃ絶対後悔する。やらずに後悔ならやって後悔の方が良い。




