470.ダンスタイム
会場では、殿様と奥方様達が一度奥で休憩する為に会場を辞し、和装の方が壁側のテーブル席や椅子に座ると曲調がパッと変わりダンスの時間となる。ダンスタイムは若殿が采配するようだ。ファーストダンスは、若殿と婚約者候補の公爵家令嬢。他の人が踊り出すのは婚約者候補3人が踊った後の4曲目から。
「では、お嬢様私と一曲お付き合い頂けますか?」
「ええ、もちろんですわ」
タイキさんの差し出された手にそっと手を置き、顔を見合わせて笑い合う。どうやら私達には合わないフレーズらしい。
「じゃあ、行っときますか」
「っしゃ、かましますか」
それを見ていたシラヌイ様、リッカ様、さっちゃんは呆れ顔からの溜息。
ホールまでエスコートして貰うため、タイキさんが私の腰に手を添えるとピタッと動きが止まった。
「ん?どうしたの?」
「あのさ、ジョアンちゃん?……もしかしてコルセットしてないの?」
「うん。日々鍛えてるからね。脱ぎ着も楽ちん」
そう言うとタイキさんは顔を真っ赤にしながらため息をつき、静かな声での為になるお話という名の説教が始めた。
「あのさ、ジョアンちゃんもいい年の令嬢なんだから、脱ぎ着が楽とか言わない!コルセットしないぐらいに鍛えてるのは、凄い事だと思うけど、普通そんな事言われたら良からぬ事を考えるのが男なんだから、もう少し気をつけないと!」
「は〜い。すいませんでした〜」
「……悪いと思ってないな」
「思ってますぅー」
「あー、これは旦那さんと奥様に報こーー」
「申し訳ありません!!以後気をつけます!!」
ようやく為になるお話が終わり、エスコートをされホールに向かう。もちろんここでも、視線を感じるが無視しておく。
「……凄い視線感じるな」
「うん。中には殺気もあるんですけど……」
「あー、確かに。どっちに向けてだろ?」
「それは、私じゃない?だって若殿の政略結婚の相手と思われているとか、公爵家の令息と踊っているとか嫉妬されまくってるでしょ。タイキさんが婚約者決めないのは、仕事のせい?」
「まぁね。なかなか理解してもらえないでしょ。ジョアンちゃんも言ってたように、側から見たら二重スパイだからねぇ」
「難儀な仕事だね〜」
「それにさ、大っぴらに出来ないから周りから仕事してなくてフラフラしてるように見えるんだろうな。 “穀潰しの次男坊” って言われてるから、俺みたいな奴に嫁いで来たくないだろ」
「ふ〜ん、そうかなぁ〜」
現に入って来てからずっとタイキさんを気にしている人いるんだけど……。タイキさんが、そう思っているから気付いてないのかな?いや、まさかね。
タイキさんとのダンスが終わり、その後にケイさんと踊る。踊りながらする会話は、色気もない商売の話。これ以上話していると白熱してダンスどころではなくなりそうなので、後日話そうということになった。その後は、若殿と踊るも話す内容は、エグザリア王国の従兄弟ーーアルバート殿下とフレッド殿下ーーのことだったりで、旅の話も聞きたいがそれはまた改めて茶会を開くのでそこで聞かせて欲しいと言われ面倒だと思いながらも了承した。そして他にも何人かの令息達と踊るが、誰も彼も歯の浮くようなお世辞を並べ立てるので、愛想笑いで私の表情筋が悲鳴を上げた。それを見ていたタイキさんが、助け出してくれてようやくホールから出る。
「飲み物持ってくるからココで待ってて」
「うん。ありがとう」
タイキさんが離れると、何人かの色とりどりのドレスを着た令嬢達から囲まれる。中には殺気を隠そうとしない令嬢もいて、私は苦笑しかない。
「ランペイル嬢でしたわよね?」
「ええ、そうですけど……」
「貴女、少々度が過ぎるのではありませんこと?」
「は?仰っている意味がわかりませんけれど」
「あら?エグザリアで侯爵令息の側室になる予定を蹴って、こちらで男探しなんでしょう?」
「その為に使者の任を賜るなんて、エグザリアはよっぽど貴女の事で手を焼いているのね」
「そりゃそうでしょう?正室ならまだしも、最初から側室にしようと思うぐらいですから」
「まぁ、そうよね。その身体であればどんな殿方も夢中でしょうよ。いっそのこと、それで商売なされば宜しいですのに」
「あら、嫌だ。はしたないわ」
「「「「うふふふふ」」」」
令嬢達は、だいぶ前の情報しか知らない様子でピグレート侯爵家での一件を持ち出して来たけれど、私には何のダメージもない。タイキさんがこちらに気づいて駆け寄りそうだったが、アイコンタクトで離れていて貰う。若殿やさっちゃん達サナダ家の皆さんも、こちらの事を確認してはいるが近くにタイキさんもいるので動く気配はない。周りの人達も、令嬢達の声に反応し私達の会話に興味深々なのか、徐々にこちらを見る人が増えている。
「で?わたくしにどうしろと言うのです?」
「ですから、若殿の婚約者になろうなどどいう戯言は止め、さっさと帰国するようわたくし達からのアドバイスですわ」
「そうですわ。若殿には、既に立派な婚約者候補様方がいらっしゃるのですよ。それなのに他国との政略結婚だなんて」
「何か功績があればまだしも、ただの側室のなり損ないが……」
「入れ替わり立ち替わり、高位貴族令息とダンスなどと娼婦同然ですわね」
「そうそう、ダンスばかりで喉が渇いたでしょう?こちらをどうぞ」
そう言うと令嬢の1人が、私の頭からシャンパンを浴びせた。私が呆然としているうちに令嬢達は離れて行ったが、タイキさんが指示をした人達が捕まえたようだった。
あー、やっぱりあのペンダント忘れなきゃ良かった。
自業自得だな。ベルデがいたら良かったけど、こっちの精霊達との情報交換に行ってるからなぁ〜。
うん、まぁしょうがない。
「ジョアンちゃん、大丈夫?」
「あっ、タイキさん。あははは。大丈夫、冷たいけど」
「大丈夫じゃないよ。着替えなきゃ風邪ひくよ」
そう言って、私にジャケットを掛けてくれようとしたけど濡らしたら申し訳ないから断っていると、若殿の婚約者候補の侯爵令嬢と伯爵令嬢が近寄って来た。
「ランペイル嬢、申し訳ありません。あの者達は、わたくしの友であった者です」
伯爵令嬢のカリン様が私に謝ってきた。私が婚約者になるかもと不安になったカリン様の元友人の令嬢達は、自分達が推すカリン様の為にと思って勝手に行動したらしい。
「わたくしので宜しければ、着替えがあります。……ただ着物ですが」
一緒に来た侯爵令嬢のワカナ様は、私に着替えを勧めようと来てくれたらしい。私はその提案をありがたく受け入れた。
「では、わたくしの侍女に案内させますわ」
「ありがとうございます。じゃ、タイキさん行って来ます」
「いやいや、途中まで一緒行くから」
濡れたドレスが歩き難くタイキさんに支えられながら控え室に向かっている私達を寂しそうな目で見ている人物がいるとは、この時の私は気付いてもいなかった。
シャンパン1杯でクシャミはしないというご指摘がありましたので、文書を一部変更致しました。
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