466.東の国で謁見
ようやく賑やかだった宴が終わり、皆んなは満足そうに自室に戻って行った。1人は酔い潰れ家令さんに横抱きにされながら。そんな中、タイキさんはツッコミ過ぎて疲れたのか縁側に寝転んでいた。私も与えられた客室へ向かおうとしたが、そんなタイキさんを労いたくて声を掛けた。
「お疲れ様。隣、いい?」
「ん?あっ、ジョアンちゃん部屋に戻ったんじゃなかったの?」
起き上がったタイキさんから座布団を勧められて隣に座る。
「あれ?パールちゃん達は?」
「あー、パールはさっちゃんがもう少し話したいって言うから連れてって、ロッソは客室に、メテオとベルデは散歩」
「主が自由人だと、契約獣も自由だな」
「まあ、それでも私を優先してくれるから良いかなと思って。あっ、そうだココア飲む?」
「ココア?」
「うん。エルファでカッカオの実を貰ったの。それでカッカオの実を加工したんだ。はい」
「ありがと。……うまっ!いつもならこの甘さはキツイけど、今は落ち着くわ」
ココアを飲みながら、ふぅ〜と溜息をつくタイキさん。月夜に照らされた疲れた横顔が少し緩んだ。
「その……ごめんな。騙し討ちみたいな感じになって」
「もう謝罪は受け取ったから大丈夫だって。まあ、確かにビックリはしたけど。まさか公爵家の人だなんてね〜」
「あはは、見えないだろ?俺もばあちゃんも」
「うん。てっきり平民だとばかり」
「まあ、俺にとったら褒め言葉だな」
確かに諜報機関に属しているタイキさんにとっては、平民と区別がつかないことは褒め言葉になるよね。
でも、溺愛する妹の為に他国と諜報部員を共有するウチの陛下ってどうなの?
「ところで、ウチの陛下が溺愛する妹さんってどんな人?明日、会うのに情報が欲しい」
「まあ、一言で言えば……姉御」
「へっ!?姉御?」
えっ、だって溺愛するぐらいだから華奢で気弱とかじゃないの!?
「東の国は王族だけが一夫多妻制なんだ。リリー様は、正室なんだけど側室の方々とも友好的な関係で、側室の方が困っていると率先して助けに行くような人だよ。相手が殿様でも、自分の考えははっきり言うし、時には城下町に下りて平民に混ざって炊き出しやったり、かなりの行動派だよ」
「マジか……陛下が溺愛する妹さんがそんな勝気な方なんだ」
「きっとジョアンちゃんと気が合うと思うよ」
「そうかな?でも、そう聞いたらちょっと安心した」
*****
翌日、案の定二日酔いだったサイウン様に【アクア】の水を差し上げて、何とか公爵家を出発した。
「いやー、ジョアンちゃんのスキルは凄いな。あんなに割れそうなぐらい辛かった頭痛と吐き気がスッと消えたからな。ジョアンちゃんがいる間なら、飲み過ぎても安心だな。はっはははは」
「ったく、父上はもう少しご自分の身体の事を考えて下さい。もう若くないのですから」
「はいはい」
「はいはいって……父上、子供ですか」
サイウン様……本当に宰相様なんだよね?いつの間にか、ちゃん付けで呼ばれているし……。大丈夫か?東の国。
公爵家から城までは、15分程だった。
東の国の王城は、前世で見たこともあるようなTHE 城。石垣で守られた城の周りはお堀があり、入門するには土橋を渡って行くようだ。ちなみに城の周りが内堀、貴族街と平民街の間に外堀がある。入門してしばらく馬車で進んだところの馬車寄せで下りる。
「ここは二の丸御殿と言いまして、政務を行う所ですよ。まずは、謁見致しますのでジョアン様はこちらでお待ち下さいね」
シラヌイ様に案内された部屋は、もちろん畳敷きで襖にはドドンと尻尾が蛇の亀の絵が描いてあった。それを見ていると、シラヌイ様から説明がはいる。
「その絵は、天之四霊の玄武様ですよ」
確かに言われてみれば、前世で見たことがあるようなないような。でも天之四霊って中国の四神だったような?
東の国って、前世の日本と中国のミックス?
そんなどうでも良いことを考えていると、シラヌイ様ではない方が呼びに来てくれた。その人について行くと、一際煌びやかな襖の前で止まる。
「エグザリア王国使者、ジョアン・ランペイル様でございます」
その声を合図に、襖の両脇に控えていた騎士というより武士達が襖を開けてくれた。襖が開くと、謁見会場はだだっ広い大広間で、奥には御簾が垂れ下がった高座がある。まだ、高座には誰もいないようだ。その場所を上段とし、中段にはサイウン様をはじめとした何人かが両脇に座っている。私は指示された下段に座り待っていると
「上様のおなーりー」
と、呼び声と共に高座に誰か座る気配がする。私は、頭を下げて声がかかるのを待つ。御簾が上がるような音が止むと
「ランペイル嬢、頭をお上げ下さい」
仕事モードのサイウン様から声がかかり、頭を上げると高座には黒髪に茶色の瞳で袴姿のお父様よりも少し若い男性が座って、こちらを見ながらニコニコしていた。
「こちらは、我が東の国の王、ヒデン・シノノメ様で御座います」
「お初にお目にかかります。エグザリア王国ランペイル辺境伯家が長女、ジョアン・ランペイルでございます。この度はお忙しい中、お時間をいただき誠にありがとうございます」
「うむ、くるしゅうない。楽になされよ」
「ありがとうございます」
三つ指をついて挨拶をした私は、王様の声で姿勢を正す。楽にしても良いと言われても、足は崩さず正座のままだ。
「殿、こちらを」
「うむ」
先にサイウン様に渡していた武闘会の招待状が、王様に手渡される。その招待状を確認すると、王様はひとつ頷くと周囲の人に言う。
「来月末に、10年ぶりとなる武闘会が行われる。皆の者、心して鍛錬せよ」
「「「「「「ははーっ」」」」」」
「ランペイル嬢、この度は東の国まで遠路はるばるよくお越し頂いた。しばらくサイウンの元で滞在すると聞いた。我が国を楽しんでくれ。後ほど、我が妻君が会いたいと言っておった、時間をくれるかの?」
「はい。ありがとうございます」
こうして無事に最後の招待状を渡し、皇太后様からのミッションは完遂した。
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