461.好々爺
夕食は私の歓迎会として、いつもよりほんの少しだけ豪華らしい。ただ豪華と言っても、パン、豆スープ、薄切り肉のソテー(塩味)だけ。豪華というのは、豆のスープにいつもは入っていない小さく切られたソーセージが入っている事をいうのだと食後に聞いた。
食後、私が談話室で子供達と本を読んでいると、シスターメアルがやって来て私達を見ると静かに頷いた。それを合図に、私達は立ち上がり食堂へ向かう。先程まで、酒を飲んで談笑していたと思われるテーブルには、酒瓶が転がってつまみのナッツ類が散らばっていた。司祭と助祭は泥酔し机に突っ伏して眠っている。
「うっわ、酒臭っ」
「「「「「くっさーい」」」」」
「くっしゃ〜いね〜」
「げっ、ヨダレ垂らしてるし」
「「「「「汚ーーい!!」」」」」
「ちたな〜いね〜」
「「「「「あっはははは」」」」」
私の言葉に、子供達が良いリアクションを取ってくれる。それに、私と大人達は笑ってしまう。言葉が拙いのは、まだ3才の孤児の女の子。今のブームは、皆んなの真似っこ。両親は冒険者だったが、魔獣討伐の際に亡くなったらしい。
こんなに騒いでいても、司祭達は起きる気配がない。
「ねぇ、シュウコさん。このお酒って、どんだけ強いの?この人達、強かったはずだけど……」
司祭達が飲んで潰れたお酒は私が提供したもの。エグザリア王国の有名なお酒だと言って、プレゼントしました。
「えーっと、ちょっとだけ高め?」
今回のお酒は、『レッド・バード』。基本レシピはウォッカ、トメットジュース、エールを 1:2:2 で作ったもの。だけど、今回はとーっても優しい私が、特別にとっておきのお酒で作りました〜。
「美味しくなるように、ウォッカの代わりにスピリタスで作ったから、アルコール度数90ぐらいかな?」
「うわっ、スピリタスってエグッ」
「普通のウォッカでも40ぐらいでしょ?」
2人の侍者は、厨房も任されているだけあってお酒にも詳しかった。それを聞いていたシスター達も、若干引き気味で私を見ていた。
「じゃあ、ベルデお願い」
『かしこまりました。皆、いくぞ』
「「「「「わーっ!!」」」」」
「ようせいしゃん、いっぱいね〜」
ベルデが他の下位精霊と共に、司祭達を蔦でグルグルに縛っていく。中には司祭達の顔などに石炭や草や花の汁でイタズラをしている子達もいた。ちなみに、精霊王の計らいで私も下位精霊が見えるようになりました。それによって水の精霊達は水色の服、火の精霊達は赤い服、風の精霊達は黄色の服、地の精霊達は緑の服を着ている事がわかった。
しばらくして……。
『精霊王達が参りました』
ベルデが言うと、4人の精霊王達が姿を現した。精霊王達の登場に、大人しくなる下位精霊達。その様子を見て何かを察したシスターと侍者達は跪き頭を下げる。そして子供達も次々とそれに倣う。私と1人を除いては……。
「わぁ〜きれいなせいれいしゃん。かっこいいせいれいしゃん。かわいいせいれいしゃん。……じぃじのせいれいしゃん」
『『『ぶっ、クックックッ』』』
『……』
と、精霊王達を指を刺しながら言う女の子。
『素直な子は可愛いわ。ね?グノーム?』
『お主は……名前は何という?』
「サエちゃん。サエルミナだから、みんなサエちゃんっていうの」
『そうか。サエ、こっちへおいで』
グノーム様がサエちゃんを呼ぶ姿は、好々爺にしか見えない。呼ばれたサエちゃんは、トテトテトテとグノーム様に近寄ると手を広げた。サエちゃんの抱っこの合図だ。それを下位精霊に聞いたのか、グノーム様は何の躊躇いもなくサエちゃんを抱っこして椅子に座ると、サエちゃんの腕輪を手で覆う。その瞬間、パキッという音がしグノーム様が手を離すと壊れた腕輪を持っていた。
『サエ、これでお主は自由じゃ』
そう言うのと同時に、私達の腕輪もポロッと外れる。腕輪が外れると、今まで頭の中のモヤがかかった感じがなくなる。それを同じように感じたシスター達は涙を溢しながら抱き合っている。侍者の2人も、目を腕で隠したり上を向いて涙が溢れないようにしている。もちろん子供達も、きゃっきゃっと喜び合っていた。
「グノーム様、契約魔法の方は?」
抱っこしたサエちゃんに髭を触られ微笑んでいるグノーム様に聞くと、それに答えてくれたのはサラマンダー様だった。
『今からだ。契約書類をこうして……よし、これで契約は解除されたぞ』
サラマンダー様は、懐から出した契約書類を一瞬で燃やし跡形もなく消し去った。
「えっ?でも、契約書を燃やしても契約魔法は解けないんじゃ?」
と侍者の1人が聞くので、私が説明する。
「あー、あれ契約魔法じゃなかったよ。ただの書類。皆んなが司祭達に逆らえなかった原因はその腕輪。その腕輪『隷従の腕輪』だから」
「「「「「えっ!?」」」」」
「だから、その腕輪が壊れた今は自由よ」
皆んなが喜びあっていても、未だに酔い潰れていた司祭と助祭は精霊王達に連れて行かれてその後はわからない。どうしたのか聞いても、精霊王達は声を揃えて『この世界には、知らなくても良いこともある』としか言わない。
教会は、グノーム様の一振りで更地となり、ウィンディーネ様がその場所に泉を作った。一夜にして出来た泉は、その後国王が整備を指示し周りに花や木を植え、後に『精霊の泉』としてエルファ国民の憩いの場所となった。




