460.証の腕輪
司祭が契約書類を準備している間に、部屋を見回すのを装い司祭を【サーチ】する。
[ウサン・クーサイ]
精霊新興宗教会、司祭。エルファ族。
契約魔法で人を縛り付け、自分の思い通りにしている。
無類の酒好き、女好き、博打好き。
「お待たせしましたね。さ、こちらが契約書類になります。こちらにサインを。ちなみにあり得ないとは思いますが……偽名では契約できませんからね?」
「……偽名ですか?」
「ええ。たまに反教会派が送り込んだスパイが、偽名で契約して内部に入ろうとするのですよ。その防御策として、偽名では契約出来ないようにしてあるのですよ。まあ、契約して弾かれればわかりますけどね」
「……そうなんですね。えっと、ここにサインで良いですか?」
「はい。……シュウコさんですね?おや、東の国の名前に似ていますね。」
「は、はい。父が東の国出身だったので……」
さすがに本名は書けないけど、前世の名前なら偽名ではないでしょ。
どうか弾かれませんように!!
ホワンッ「……はい。契約完了ですよ」
サインをした契約書類が鈍く光ると同時に、心の奥底でカチリと鍵がしまったような感覚を覚える。
「では、私達のファミリーの証としてこちらの証の腕輪を付けましょう」
腕輪を見た瞬間に、嫌な雰囲気を感じ取った私は証の腕輪を【サーチ】した。
[証の腕輪]
正式名称:隷属の腕輪
装着者を主とし、隷属させる腕輪。
自力脱着不可能。
備考:命令されていない事であれば、自分の意思で動けるし話せます。
うっわ、なんつー物を。
でも、ここで付けないと怪しまれるよな〜。
ーーベルデ、アレ付けても大丈夫かな?
ーーええ、精霊王曰く『あんなガラクタ、なんの問題もない』と。それでも、ジョアン様を害する場合は我が護ります。
「……ウコさん?シュウコさん?大丈夫ですか?」
「あっ、すみません。大丈夫です」
「では、利き腕の逆を出して下さい」
そう言われて、左腕を前へ出すと手首に腕輪を着けられる。一瞬ヒヤリとしたが、すぐに何かの魔力が身体の中に入ってきたかのように腕輪の周りがほんのり温かい。
「声を出すな!!」
そう司祭に言われると声が出なくなる。私のその様子を見ると司祭は笑い出した。
「……ふふふ、ふぁははは。娘が来るのは久しぶりだ。しかも良く見ると、なかなか整った顔だ。年頃の娘を抱くのは久しぶりだ、ふふふ、夜が楽しみだな。試してみて具合が良ければ、伯爵様に献上するのも良いだろう。まあ、俺が飽きればの話だがな。はっははは」
「……」
腕輪の呪いの効果なのか、司祭を見るとこの人に従わないといけないと思ってしまう。隣にきた司祭に頬を撫でられるのも、拒む事が出来ない。だけど、チートなのか精神的に強いからなのか、意識だけはハッキリとしていた。
ゲッ、ちょっ、触んなや!あーもー、身体が動けない。
何が具合が良ければだ!その前にボッコボコにしてやる!!
パンパン。
司祭が手を叩くと、修道服を着たお姉さんが執務室に入って来た。そのお姉さんの腕にも同じ腕輪がしてある。
「シュウコさん、もう話しても良いですよ。こちらは、シスターメアル。自己紹介しなさい」
「……エ、エグザリア出身のシュウコです」
「シスターメアル、ここでの生活のことを教えなさい」
「はい、旦那様」
「あーそうそう、シュウコさん、私のことは外以外では旦那様と呼びなさい」
「……はい、旦那様」
シスターメアルに、私の居室となる部屋に案内された。大きさはだいたい4畳ほどで、はめ殺しの窓には鉄格子が備え付けられている。部屋の中にはベッドだけで、机も椅子もない。
「……では、説明します。起床は6刻。朝食前に掃除とお祈りをします。朝食は7刻。その後は、洗濯や教会周りの掃除などの雑務を行います。その都度やることは、私達シスターや助祭が指示をします」
「シスターは何人いるんですか?」
「私を含めて、3人です。助祭は2人、侍者ーー教会でいう従者ーーが2人です」
「皆さん、この腕輪を?」
「っ!!」
シスターメアルは、目を見開いて私をじっと見ている。
「腕輪に関しての説明は、出来ないんですね?司祭に逆らえないようにされてるんですよね?」
「……ど、どうしてあなたは話せるの?」
「私は……その前に、この部屋に【結界】と盗聴防止を施しました。普通に話しても大丈夫ですよ」
「【結界】に盗聴防止……あなたは一体」
私は、シスターメアルに今回の説明をした。もちろん既に彼女を【サーチ】をしている。
[シスターメアル]
精霊新興宗教会、シスター。エルファ族。元孤児。
本名:メルロス。21才。
状態:証の腕輪により教会に都合の悪い事は話せない。
司祭からの性被害者。
「話せないことはわかっています。答えられない場合は、頷くことで返答してくれますか?」
私の質問にイエスなら頷き、ノーなら横に首を振って貰い教会内のことや子供達のことを聞いた。
シスターメアルは、精霊が見えることで10才の時に教会に連れて来られたそうだ。何度も死のうと考えたが、今も生きていけるのは精霊達との交流があったからだそうだ。他の2人のシスターも似たような境遇だと。
助祭は、司祭と同様に精霊を見る事が出来ない。侍者の2人も子供の頃からいる、精霊を見える人達で同じように腕輪を装着されているそうだ。そして、子供達は助祭達によって虐げられているらしい。
「もう少しだけ我慢して下さい。必ず助けますから」
「は、はい……。ほ、他の人にこのことは?」
「私やシスターメアルが動けば、相手にバレる可能性があります。ですので、説明は……ベルデ」
『はい、ここに。お初にお目にかかります。メルロス嬢、我はジョアン様の契約獣、緑の精霊のベルデと言います。皆さんには、我から説明致しましょう』
「まあ、精霊さんと契約してるんですか?本当に、あなたは一体……」
「ふふふ、全部終わったらお答えしますね」
他のシスターや侍者、子供達に説明はベルデだけではなくその人達が良く会話をしている下位精霊達も手伝ってくれて、全員に説明が終わったのは夕食前だった。
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