459.迷える子羊
ーーー奪還当日。
私はエデーン侯爵家で与えられた客室のベランダから、夜明けの空を見ていた。夜の濃紺から、青、紫、橙のグラデーションの美しさを早速もらったカッカオの実から作ったホットココアを飲みながら堪能していると後ろから声がかかる。
『眠れないの?』
「パール……。なんか寝ていられないって感じでさ……」
『……心配なの?』
心配そうに声を掛けてくれるパールには、本当に申し訳ない。
「いや、寧ろ楽しみで興奮して寝てられない!!旅行の日みたいで、ワックワクしてるー!!」
『あっ、そっちね。まあ、その方がジョアンらしいわ』
しばらくして日が上り、かの教会では……
ビシッ「ほら、さっさと起きて掃除だ!!お前とお前はトイレだ。便器は手で洗うんだぞ、舐めれるぐらいにな!!で、残りは礼拝堂を隅々まで掃除しろ!精霊が使えるなら手伝わせろ!!」
「「「「「「は、はぃ……」」」」」」
「「「「「「………」」」」」」
ビシッビシッ「よそ見してんじゃねーぞ!お前らは厨房だ。昨日みたいにトロトロやってたら、ただじゃ済まさねぇぞ!」
「「「「「「はぃ……」」」」」」
*****
ーーー王宮の国王の執務室にて。
「ーーでは皆の者、各自予定通りによろしく頼む。精霊王様方も、よろしくお願い致します」
「「「「「「「「「「はっ」」」」」」」」」」
『任せて〜』
『行くぞ野郎共!』
『はーい。シルフも頑張る〜』
『どれどれ行くかのぉ』
教会派の貴族が何処に潜んでいるかもわからないし、王族が大っぴらに教会に喧嘩を売るのは外聞が悪い。だから、今回は少数精鋭で任務を行う。選び抜かれたのは腕もたち魔術にも精通している人達。王族の暗部組織の人達で、その中には精霊が見える者もいるらしい。ちなみに声はするものの姿は誰も見えていない。あっ、ベルデは精霊王達を目で追っていたから見えているかも知れないけど。
「頼んだ私が言うのもなんだが、ジョアン嬢もくれぐれも無理はしないでくれ」
「はい。大丈夫です!やる気満々ですから!!」
「いや、その、やる気が『殺る気』に聞こえるんだが……。ともかく穏便にだ、穏便に」
「あー、はい。穏便にやってきます!!」
「……ベルデ殿、色々と頼む」
『御意に』
なんか国王様が疲れているように見えるし、隣で王妃様がクスクスと笑っているような気がするけど……まっ、いっか。
計画は、こうだ。
まず、私がエグザリア出身の平民として教会を訪ねる。訪ねた理由は、精霊が見えるなら教会に行った方が良いと聞いたから。そこで、子供達と同じように契約魔法で契約される。ここで、契約しないと子供達の元に行けず安否を確認出来ないから。子供達を確認した後、隙をついてベルデと共に子供達を確保。それと同時に精霊王達が契約魔法を解除する。解除出来たら私と子供達はベルデの転移で教会から消える。その後は、精霊王達が任せろというので、詳しくは知らない。
目的地に到着すると、その建物を見上げる。真っ白な壁が薄汚れ、窓ガラスも霞んでいる。ただ、教会前の階段や手摺りなどは綺麗に掃き掃除や拭き掃除をしているようできれいになっている。どうやら子供達だけが掃除をしているようだ。通常、手の届かないような所は【水】属性や【風】属性を持ち、制御方法も知っている大人がやるらしいが、ここでは違うようだ。
ーーさっ、行きますか。
ーーええ。各属性の下位精霊達も今か今かと待っているようですよ。
ーーそう?じゃあ、It's Show Time!!
肩の上のベルデと念話をしながら、教会の扉を開く。扉を開けると、何かの作業をしていた男性が顔を上げる。エルフ族らしくイケメンの男性は、貼り付けたような笑顔をしている。その証拠に目は値踏みをするような視線を私に向けていた。
「おや?人族の方が珍しい。ここは、精霊新興宗教会。私は、司祭のウサン・クーサイです。どうしました?迷える子羊よ」
「……はい。あの、私、最近エルファの国に来たんですけど、こちらに来てから……その、あの、せ、精霊が見えるんです。それを話したら、ここを教えて貰って……。あの、ほ、本当にせ、精霊っていますよね?し、司祭様は見えるんですよね?」
「それはそれは、あなたはとても幸運の持ち主ですよ。もちろん精霊様はいますよ。私にも見えます。ほら、ちょうど今あなたの肩の上に座っていますよ」
「か、肩の上?」
「ええ、そうですよ。左肩に、それは……水の精霊様ですね」
あー、残念。ベルデは、左肩じゃなく右肩。それに、地の派生の緑の精霊だし。
やっぱ、コイツ見えてねーな。さすが名前が、胡散臭いだけあるわ。
「エグザリア王国ではどうかわかりませんが……精霊様が見えると言うと嘘つき呼ばわりをされたり虐げられる事があるのです。私達、教会ではそういうお子さんを引き取って、守ってあげ一緒に生活をしているんですよ。もちろん、貴族の中にも精霊様を信仰されている方はいらっしゃいます。縁があれば、そこの養子や婚姻関係も結べますよ」
「ほ、本当ですか?で、でも私、エグザリア王国では平民で両親が事故で亡くなって……何もする気が起きなく、何も考えずに旅をしていたらエルファ国まで来てしまったんです。そんな私でも、また家族が出来ますか?」
「ほぉ〜ご両親が亡くなったと……それは、ご冥福をお祈りします。こちらで生活すれば、また生きる活力が見出せるでしょう。早速、契約を致しましょう」
「お、お願いします」
ーーアイツ、私が孤児だってわかった瞬間にニヤッとした。
ーーええ、我も確認しました。
司祭の後について行くと、執務室に案内された。執務室は、無駄に煌びやかで教会の金がどこに使われているか一目瞭然だった。司祭が書類を準備している間に、ベルデが飛び回り部屋を確認する。
ーージョアン様、書類棚の鍵付きの引き出しに対盗難の防御魔法が施されております。
ーーじゃあ、そこが1番怪しいね。精霊王達に連絡を。
ーー既に連絡済みです。
ーーさすが、ベルデ。
さあ、あとは子供達を見つけるだけだわ。




