451.離婚成立
ちょっとバタバタして投稿が遅くなりました。
ーーー3日後。
「お帰りなさいませ、旦那様」
「ああ。先生はどうした?連絡が、つかないのだが?」
「先生でしたら急用が出来たとかで、先日王都に向かわれましたが?」
「何?では、入れ違いになったというわけか。まあ、良い。ジュディーはどうだ」
「はい……。以前と変わらなく……」
「そうか。ところで、見ない顔の使用人が多いようだが?」
「はい。何人か急に辞めてしまったので、新しく雇ったところです」
コッカー伯爵とクラリスさん、レティ嬢を家令さんと新しい侍女達が迎え、応接室へ向かう。それを確認した私は侍女長と共にコッカー伯爵夫人の寝室へ向かう。中に入るとすぐに【結界】を張る。
「ジュディー様、具合はいかがですか?」
「ええ、気分爽快よ。本当にジョアン様には、感謝してもしきれないですわ」
寝室の机で領地の仕事をしていたコッカー伯爵夫人は、私の声に振り向きとても良い笑顔で言った。
「はぁ〜あの頃のわたくしったら、本当にどうかしていたのね。お父様が亡くなり喪失感から体調を崩したのと、夫があまりに「自分が当主だ」と自信満々で言うから、その言葉を信じ込んでしまって。更には、あの娼婦の愛人と愛人との子供を屋敷に住まわせてしまって、クラリスには本当に悪い事をしたわ」
先日まで寝たきりで骨と皮だけのようだったコッカー伯爵夫人は【キャリー】のお陰もあり、以前のように普通に生活出来るようになった。今も頬に手を当てて話すコッカー伯爵夫人は、とてもクラリスさんのような年齢の子供がいるように見えないぐらい、若々しく可愛らしい。クラリスさんと並んでいると母娘というより姉妹のように見えた。
トントントン『ジョアン様、準備整いました』
「了解。……では、ジュディー様。後ほど」
「ええ。宜しくお願いしますね」
私はあとは侍女長に任せて、寝室を出た。すると階下では、何やら騒いでいる人がいた。まあ、もちろん騒いでいるのは2人しか考えられない。それはコッカー伯爵代行と平民レティ。
「ど、どういうことだ!」
「そ、そうよ、どうしてよ!!」
そっと応接室に入ると、コッカー伯爵代行とレティが立ち上がり対面に座っているクラリスさんとクラリスさんの婚約者で羊人族のオリバーさん。その後ろには、目つきの鋭い男性が立っており、その両脇には屈強な騎士様が。
「はぁ〜。……ですから、先程もご説明致しましたように、貴殿とジュディー・コッカー様との離婚が成立致しました。そして、貴殿にはコッカー伯爵家当主への殺人教唆、横領、その他諸々の罪で逮捕状がでております」
目つきの鋭い男性は、王宮からの使者だった。
「誰が私とジュディーの離婚の手続きをしたんだ!ジュディーが出来るはずはない!!アイツは、もう動けないのだからな!それに、どうやって私が自分を殺すようなことができる!」
「は?何を仰っているのです?」
「何をって、貴様が言ったのであろう!」
「そうよ!何で伯爵家当主のお父様が自分の殺人を依頼出来るのよ!それに横領って何よ!!」
元コッカー伯爵代行とレティが使者に、的外れな文句を言っている。そこへ応接室の扉が開き、誰もがそちらに視線をやる。
「離婚申立てをしたのは、わたくしですわ」
「ジュ、ジュディー!?ど、ど、どうして……」
「お、お母様!?な、な、なんで……」
ジュディー様は、クラリスさんの真後ろに立ち元コッカー伯爵代行とレティを見据える。元コッカー伯爵代行は、驚きのあまり口をパクパクしていた。
「ふふふ、どうして驚いてらっしゃるの?わたくしが回復したことを喜んでは頂けないの?」
「い、いや、う、嬉しいが……。だ、だが、せ、先生はもうーー」
「もう死ぬと?ふふふ、残念でしたわね」
「い、いや君が回復して嬉しいよ。しかし、どうして離婚など?」
「あら?離婚される理由に心当たりはない?」
「ああ。それに、どうして私が逮捕されねばならない?」
元コッカー伯爵代行とジュディー様が話している間も、レティはずっと口が開きっぱなし。口、乾くよ?
「それは、わたくしがあなたの引き入れた人間によって毒を盛られ臥せっている間に、あなたが愛人と愛人の娘を引き入れ、我が伯爵家の資産を勝手に使ったからじゃありませんか」
「な、な、なーー」
「何故知っているか?知らないわけないでしょう?」
「し、資産は私がどう使っても構わないだろうが!」
「あら?どうして?」
「ど、どうしてって私はこの家の当主だぞ!」
「まあ?いつから?」
「いつだと?」
ジュディー様は、王宮の使者に目をやると使者はため息を吐き説明をし始めた。
「コッカー伯爵家の当主は、こちらにいらっしゃいますジュディー・コッカー様でございます。貴殿は、コッカー伯爵家の入婿でしょう?どうして当主になれるのです?」
「「っ!?」」
「貴族ならば貴族法はご存知でしょう?当主の妻になった所で当主になりえない様に、夫になったところで当主にはなりえません。それに、貴殿は当主のジュディー様が病にて臥せっていた間の伯爵代行ではありませんか。もし、万が一ジュディー様が儚くなったとしても、血縁による相続により次期当主は娘のクラリス様でございます」
「で、でも娘ならわたくしも権利がありますわよね?」
「フッ、何を言うの?あなたは、わたくしの娘ではないでしょう?わたくしの血の繋がった娘はクラリスだけでしてよ」
そう使者とジュディー様の説明を聞いて、元コッカー伯爵代行とレティは膝から崩れ落ちた。
「何を驚いているのですか?御父上殿が伯爵家を乗っ取ろうとしていたのですから、罪は軽くないですよ?」
「……の、乗っ取ろうなどと」
オリバーさんに言われた事の重大性に気付いたのか、今頃になって元コッカー伯爵代行はガタガタと震えていた。金を渡しジュディー様に毒を盛り、愛人を使用人と称して住まわせていたことが、バレるとは思わなかったらしい。
「なら、どういうつもりでいたんです?御母上様に毒を盛り、正式な後継者のクラリスを蔑ろにし、外で作った女と子を住まわせた。あなたはただの代行でしょう?一体何の権限があって、コッカー家と関係のない人物を屋敷に引き入れ、この家の金を使っていたんです?まず、コッカー家と関係のない女子供を、どうして住まわせたのか、その理由から説明して頂きましょうか?」
穏やかそうに見えた羊人族のオリバーさんは、見た目と反して穏やかではなかった様子。羊の皮を被った狼だったのかも知れない。




