449.コッカー伯爵夫人
ティガー公爵家に戻ると、公爵夫妻、シアさん、ゴールダー、アムちゃんが応接室で待っていてくれた。
「ただいま戻りました」
「おお、2人ともお疲れ。で、どうだった?」
応接室に入ると矢継ぎ早にゴールダーが聞いてくる。
「ゴールダー、落ち着きなさい。ごめんなさいね、まずは2人共我が家のためにありがとう。お座りになって」
「「ありがとうございます」」
公爵夫人に言われ座ると、侍女さんがお茶を淹れてくれて応接室を出て行った。
「ふぅ〜。結論から言わせて頂きますと、黒です。真っ黒々です」
「そうか……。詳細を聞かせて貰って良いか?」
「はい。では、こちらをご覧下さい」
そう言って、胸元のブローチを外し壁に向かって録画した動画を再生する。前世のプロジェクターのように。
「「「「「………」」」」」
映像を見終わっても誰1人として話さなかったが、ようやく公爵が話し出す。
「……ここまでして、我が家に喧嘩を売りたいか」
「うふふふ。では買ってあげましょう、旦那様」
「ああ、そうだな。クソネズミの駆除などあっという間に終わるだろう」
「「「「「えっ?」」」」」
公爵夫妻の不穏な言葉に、聞いていた私達は耳を疑う。
「お父様、お母様!この案件はリジャル殿下がーー」
「安心しろ、シア。すぐだよ、すぐ」
「父上!!姉上の話を聞いて下さい!!」
「お父様、落ち着いて下さい!お母様も止めて下さいませ!」
「あら?アムったら、どうして止めるの?害獣は早いうちに処理した方が良いのよ?」
シアさん達が止めるのも全く聞かない公爵夫妻。私は溜息をつきパールにお願いをする。
『グゥオオオオーッ』
成獣体パールの雄叫びに、私以外が動きを止める。
パンパンパン「公爵様もティガー夫人も落ち着いて下さい。この案件は、既にリジャル殿下が動いています。こうして私が視察に行ったのもリジャル殿下の指示の元です。それにティガー公爵家が動いてしまえば、何の関係もないコッカー夫人やクラリスさんまで巻き込んでしまいます。あの2人も被害者です。依頼を受けた私にも考えがあります。ここは、私に任せては頂けませんか?」
「しかし、それでは……」
「もちろん、コッカー夫人とクラリスさんから許可を頂ければ、獲物は公爵様にお渡し致します」
「……わかった。ジョアン嬢に任せよう」
*****
ーーー翌日、リジャル殿下の執務室。
「……これがコッカー伯爵の実態とはな。私達に見せていたのは偽りの姿ということか」
リジャル殿下は、昨日録画した映像を見て悔しそうに拳を握っている。
コッカー伯爵は、伯爵領の孤児院だけではなく王都の孤児院にも寄付をし、時にはスラム街で炊き出しを行うとして周囲からは人格者と評判だったらしい。だが、平民服の私をリコリス商会の支配人だけではなくコッカー伯爵本人までも見下していた。
「で、ジョアン嬢はどうかたをつけるつもりなんだい?何か考えがあるんだろう?」
「はい。その為には1度、コッカー伯爵家当主に会う必要があります」
「コッカー伯爵夫人にかい?だが病状が思わしくないのではないか?」
「そこなのですよ、リジャル殿下。確証はないのですが……コッカー伯爵夫人の病気は故意的なものかもしれません」
「何?どうしてそう思う?」
私は、昨日リコリス商会で見た事を話した。
「リコリス商会の名前の由来になったであろうリコリスの花が商会の至る所に飾られていました」
「それが?」
「私の記憶が確かならば、リコリスは花、葉、茎、根と全ての部分に毒性物質が含まれている全草有毒植物です」
「な、何!?」
「特に球根には多く毒があり、摂取してしまうと、嘔吐、下痢、呼吸困難を引き起こし最悪死に至ることも」
「それが本当であれば大変なことだぞ?」
「ええ。ですから、私にコッカー伯爵夫人を【サーチ】させて下さい。私は【サーチS】ですので人物鑑定も出来ます」
リジャル殿下に許可とコッカー伯爵夫人へ紹介状を書いてもらい早速その足でコッカー伯爵領に向かうことにした。ちょうど王宮内でクラリスさんもいたので、一緒に行くことにした。
シュン「はい、到着。大丈夫ですか?クラリスさん」
「は、はい。なんとか……。まあ!本当にコッカー領ですわ」
ベルデの【転移】で一瞬でコッカー領の近くまで来た。初めての【転移】にクラリスさんは驚きのあまり、私にしがみついていた。私より年上でも、私より少し背の低いクラリスさんが可愛い!!
クラリスさんの案内で、屋敷へ向かうと急な帰宅にも家令さんや侍女さんは大喜びで迎えてくれた。応接室で、昔からいる家令さんと侍女長だけ残ってもらい部屋全体に【結界】を張り、バングルの盗聴防止を施す。そしてクラリスさんにも話していなかった中毒の可能性を話す。
「えっ!?そんな……」
「まさか……」
「そんなことが……」
3人が落ち着いた後、コッカー伯爵夫人の寝室へ向かうと、そこには主治医だという鼬人族男性。
「えっ!?クラリスお嬢様?ど、どうしてここに?」
「あら?私がお母様を見舞うのにどうして驚くの?」
「あっ、いえ、そういうわけでは……」
「まあ、良いわ。お母様とお話ししたいから、ちょっと外してくれるかしら?」
「あっ、はい」
主治医が出て行くと先程と同じように、寝室に【結界】を張り、バングルの盗聴防止を施す。コッカー伯爵夫人の顔は青白く頬は痩せこけていた。クラリスさんは、ベッドに近づき跪くとコッカー伯爵夫人の手を握る。
「……お母様、クラリスです」
コッカー伯爵夫人は、クラリスさんの声に反応して薄らと目を開け、何か話そうと口を開けるが声が出ないようで何も聞こえない。よく見ると、クラリスさんの握るコッカー伯爵夫人の手も細くて青白いがしっかりとクラリスさんの手を握っていた。
良かった。
まだ、意思ははっきりとしているみたいで。これで植物状態だったら、危なかった……。
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