445.コッカー伯爵家の事情
応接室には既にゴールダーがいた。ソファーに座り、侍女がお茶を出すとアムちゃんが話し出した。
「帰宅したばかりなのにごめんなさい。2人に早めに話しておきたくて……。今日、授業終わりにバックス商会に行って来たの。そしたら、難癖をつける客が店の前で大声を出していて私達怖くて、ゴル兄様にすぐ文を飛ばして追い払ってもらったの。もしかしたら、アレもリコリス商会がやったのではないかと思って」
「まあ、それであなたやラビィーさん、商会の方に怪我はなかったの?」
「ええ。ゴル兄様がちょうど近くにいたから誰も怪我はしていないわ。扉のガラスが割れたぐらい」
「俺も授業が終わって、ちょうどバックス商会の近くの武器屋にガロンといたんだ」
詳しく聞くと、その男2人はアムちゃんたちが来る前は店内にいて、店に対してのクレームを大声で騒ぎ立てた為に退店させたところ、店前で騒いでいたそうだ。そこに、ちょうど帰って来たラビィーちゃんとアムちゃんは、ゴールダーに文を飛ばし応援を求めたということらしい。ちなみに、ゴールダーと一緒にいたガロンとは、イデアラーさんの弟のガロン・ハイローでゴールダーとは騎士学校の同級生らしい。
私は、すぐにベルデ達と共にバックス商会に向かい、マーシィさんに許可をもらって、イジョクさんのお姉さんの店にも張った悪意の人間だけ弾く【結界】を張った。
*****
「今日は、お時間を頂き申し訳ありません」
私はリジャル殿下の口添えで、コッカー伯爵家の長女のクラリス嬢と幼馴染の婚約者の伯爵令息と面会をしていた。伯爵令息が仕事の関係で時間をなかなか取れないということで、リジャル殿下の計らいでリジャル殿下の自室がある離宮のサンルームをお借りする事になった。もちろん立ち会いとしてリジャル殿下とシアさんもいる。
「いえ、こちらこそ私共までランチまでご馳走になって宜しいのですか、殿下?」
「ああ、それは構わない。限られた時間だからな。それに、こちらのジョアン嬢の料理は絶品だぞ」
「そうですよ、クラリス様。あのエグザリア王国の ”食の女神” のランチですのよ」
「「えっ!?あの?」」
ちなみに今回のランチは、バースト産トメットソースのスパゲッティとジャガトグラタンのハーフ&ハーフ。デザートには、ジェネラル産紅茶のシフォンケーキを準備している。
ランチを食べている間はたわいもない話をし、デザートと紅茶が運ばれ侍女達が下がると私は話を切り出した。
「今回、お2人との面会をお願いしたのは、異母妹さんのレティ嬢とリコリス商会のことについてお聞きしたい事がありまして」
「レティと我が家の商会の事ですか?」
「はい、実はーー」
私は、レティ嬢がティガー公爵家についての噂を流している件、バックス商会に対しての横槍と店頭で不行儀な振る舞いを起こさせた件について説明した。店頭で暴れていた輩は、私が【結界】を張った後にまた懲りずに閉店後の店内に入ろうとした際に【結界】に触れ、感電し失神したところを捕縛して回復させた後にベルデとロッソが尋問したところ、父親からの依頼だということを吐いた。しかも、ご丁寧にその時交わした契約書を持っていた。尋問後に、服がボロボロの輩達がベルデ達を見て怯えていたので何故か聞いたら、ロッソが黙秘を続けるのにイラつき《火矢》を放つ→火傷する→ベルデの【ヒール】のループを何度も繰り返したら心が折れたらしい。ちなみにベルデの緑属性で手足を蔦で縛っていた為に逃げる事も出来なかったらしい。……輩達、不憫。
「も、申し訳ありません。まさか、父と妹がそんな事をしていただなんて。このお詫びはわたくしがーー」
「あー、ちょっと待って下さい!……お話を遮って申し訳ありませんが、クラリス様が詫びるのは間違っています。詫びるべきなのは父親とレティ嬢ですよ。それに、今までのは質問をする為の説明にすぎませんから。質問というのはーー」
私は気になっていた事をクラリス様に聞いた。
・クラリス様は、今までの経緯を聞いて正直どう思ったのか
・父親とレティ嬢について妻であるコッカー伯爵はどう思っているのか
・クラリス様は、今幸せか
「わたくしは……父やレティがティガー公爵家やバックス商会にご迷惑をお掛けしているとは……本当になんて事を……。妹は引き取られた時は、本当に可愛らしい子でした。貴族としてもようやく馴染め、わたくしを本当の姉のように慕ってくれて無事学院に入学した時は本当によろこんだのですよ。でも、わたくしが殿下の婚約者候補から外れ、彼と婚約を結んだ頃からわたくしと顔を合わせないようにしているのがわかりました。父も同じように、婚約者候補の時は王子妃教育の事を労ってくれたのですが、今はわたくしを睨むだけで……母も未だに体調が芳しくなく領地から戻って来れず……このまま儚くなってしまうのではないかと心配で……」
そう言うと、クラリス様は俯いてしまった。それを慰めるように伯爵令息がクラリス様の背中を摩る。
「コッカー伯爵夫人の容態は、そこまで悪かったのか?あの勝気な人が……」
「リジャル殿下はお会いした事が?」
「もちろんだ。何せコッカー伯爵家当主だからな」
「えっ!?コッカー伯爵夫人がですか?」
「ああ。ジョアン嬢には話していなかったか?この国は血縁による相続をとっても重視するんだ。男性が全滅して女性しか継げる人がいなければ、女性当主もやむなしと認められるほどだ。仮に何かの理由で直系の継承者がいない場合は、法律で決まってる範囲の近しい血縁者が。それもいない場合、容赦なく家のお取り潰しが決まるんだ。そして、コッカー伯爵家の場合は先代当主にはクラリス嬢のお母上しかいなかったと言うことだ」
「ん?では、このままいけば次期当主はクラリス様?」
「まあ、そうだな」
ん?もしかして父親は自分が当主だと思ってる?
だからクラリス様を嫁がせて、レティ嬢に跡を継がせたい?
コッカー伯爵令嬢は腹違いの妹なので、義妹ではなく異母妹でした。ご指摘ありがとうございます。
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