444.コッカー伯爵家
「作りましょうって、お母様そんな急に言われたらジョアン様が困るでしょう?ねえ?」
「ま、まあ。有難いお話ではありますが……」
「だって、先日の美味しい料理を国民にも味わって貰いたいもの。レシピを販売していたとしても、同じ味ではないでしょう?そこの料理人はジョアン様に腕を認められた人だけ。それなら、ジョアン様の味を再現できるでしょう?」
王妃様の考えもわかるけど、エグザリア王国でも私の味の直営店はジョウ商会で、あとはダッシャーさんの店のスイーツしかないし、でも直々に教えた店はあるっちゃあるけど……。
「ジョアン様、今すぐに答えを出さなくても良いのよ。ただ、前向きに考えてみて欲しいの」
「ありがとうございます、王妃様」
お茶会が終わり、王妃様が離席後残されたメンバーで先程の話をした。
「ごめんなさいね、ジョアン様。お母様って、考えたら実行にうつそうと、すぐ行動するから」
「いえ、私としては有難いお話でした。確かにレシピを販売しているだけでは、再現出来ていないのは私も気になっていたので。でも、私の料理には東の国の調味料が使われているものが多くて、そこをどうしようかと……」
私の料理には、セウユやメソなど東の国の調味料が多く使われる。もしアニア国で料理屋をするのであれば、直接仕入れてもらわなければならない。
「もし、本当に料理屋を考えているなら、その問題については私の方で受け持ちますよ。私もランペイル嬢の料理の虜になってしまいましたからね」
と、笑顔でレオパード公爵が言う。どうやら外務大臣のツテを頼るらしい。
「であれば、前向きに考えたいと思います。その際は、よろしくお願いします」
レオパード公爵夫妻が離席すると、リジャル殿下から話があると言われシアさんと共にリジャル殿下の執務室に向かう。
「シアからレティ・コッカーの事を聞いたのだが……」
そう話を切り出したリジャル殿下。
内容は、レティ・コッカーが関与しているだろうーーまだ確証はないけどーー事について。アムちゃん及びティガー公爵に対しての変な噂、バックス商会への横槍について。
「こちらで手を出そうにも相手が尻尾を出さなくてね。そこで聞いたところによると、レティ・コッカーがジョアン嬢の男装姿に懸想していると。ジョアン嬢にこんな事を頼むのは間違っているとは思うのは重々承知だが、これ以上アム嬢やバックス商会に手を出されては、シアが気に病んでしまう。どうか協力頂けないだろうか?」
「どこまで対処できるかわかりませんが、それでも良いのであれば」
リジャル殿下の頼みを受け最初にしたことは、相手を知ること。私はリジャル殿下とシアさんに、コッカー伯爵家のことを聞いた。
まずは、嫌がらせなどが始めた理由だと思われるリジャル殿下の婚約者候補だったレティ・コッカーのお姉さんについて聞いた。リジャル殿下にはシアさんとその伯爵令嬢のお姉さん、クラリス嬢以外にも候補者はいたようだが、候補期間の内にどんどん辞退していき最終的にはシアさんとクラリス嬢が残ったそうだ。婚約者を決める最後の手段としてリジャル殿下とのダンスがあり、そこでシアさんが【番い】だと判明。クラリス嬢はリジャル殿下と踊ることなく候補者から外されたそうだ。そして今、クラリス嬢は幼馴染だった伯爵令息と婚約を結んでいる。
ただ、これには裏話があった。
実は、元々クラリス嬢は幼馴染の伯爵令息と結婚を口約束していたようで、婚約者候補になりたくなかったらしい。そのことは最初の段階からリジャル殿下にも打ち明けていたそうだ。でも、何故候補から辞退出来なかったのかと言うと、父親が娘を王子妃にさせたいが為に無理強いをしたという。その事については、リジャル殿下だけではなくシアさんも相談を受けていた。ちなみに幼馴染の伯爵令息は、王宮で文官をして、クラリス嬢は婚約者候補として王子妃教育を受けに王宮へ通うのは、一瞬でも彼と会えるからという可愛らしい理由で頑張っていた。
「じゃあ、レティ嬢がどうして怒っているんです?クラリス嬢のことを思うなら、今が幸せじゃないですか」
「異母妹としては、姉のことを思っているというアピールなんだろう」
「は?」
「父親は入り婿なんだ。姉のクラリス嬢はコッカー伯爵夫妻の娘で間違いないのだが、レティ嬢は孤児を引き取ったと表向きにはなっている……が伯爵が外で作った子供だ。つまり庶子だな」
彼女達の父親は、輸入業を生業とする子爵家の出で商才があったのを先代コッカー伯爵に見初められ、娘であるコッカー伯爵夫人と結婚した。長女であるクラリス嬢も産まれ仕事も順調だったが、先代コッカー伯爵が亡くなると箍が外れたのか、仕事だと称して家に帰らなくなったそうだ。その後、心労からかコッカー伯爵夫人が倒れ領地で療養すると家に戻っては来たが、一緒にレティ嬢を連れて帰って来たそうだ。その時、父親はレティ嬢について縁戚の娘だが孤児になり引き取ったと説明したそうだ。ちなみにコッカー伯爵家は白鼠族で伯爵もクラリス嬢も白鼠族。そしてコッカー伯爵は栗鼠族。だからレティ嬢が父親の血筋なのは納得出来た。でも、父親が夜会に参加した際、酔った勢いで知人達に実の子だと告げたらしい。
「わかりました。では、私の方でも調べてみます。何か分かりましたら報告致します。あと、一点お願いがあります。クラリス嬢とその幼馴染の伯爵令息との面会は出来ますでしょうか?」
「わかった、そこは私の方で調整しよう。予定が決まり次第連絡する」
その後、シアさんと共に公爵家に戻った。
戻るとアムちゃんが話をしたいと言うので、そのまま応接室に向かう事にした。
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