439.試食会
ーーーティガー公爵家、応接室。
「……てことになっちゃって」
あの後、そのまま王宮の厨房へ連れて行かれそうになったけど、準備とかもあるからと理由をつけて一旦ティガー公爵家に戻ってきた。そして、帰宅した私を迎えてくれた公爵夫人とシアさん、アムちゃんーー年下だから「さん」付けは止めてと言われたーーにお茶に誘われたので、ここぞとばかりに愚痴ってみた。
「あらあら」
「……もう、リジャル殿下ったら」
「ジョアン様が、あの “食の女神様” だったなんて……」
公爵夫人とシアさんは王族の方の行動が目に浮かぶようで、呆れ顔になっている。アムちゃんは私の二つ名を知っていたようで驚いていた。
「それでトニーが食べたという【お子様ランチ】とは、どのようなものだったのかしら?」
公爵夫人達に、あの時作った【お子様ランチ】を説明する。
・小さめに作ったメンチカツ
・照り焼き味にしたルフバードのステーキ
・トメットソースのスパゲッティ
・小さいオムレツ
・キャロジンのねじり梅のグラッセ
・ミニトメットとミランジの飾り切り
「……それらを、ワンプレートにのせたのです」
「まあ、確かにそれなら子供でも色々な物が食べられて良いわね」
「あら、お母様?食の細い女性や年配の方にも宜しいんじゃありませんこと?」
「何より、ワンプレートに色々な物がのっているなんて素敵だわ。目移りしそう」
それから、3人に相談をして王族の方に喜ばれる【大人様ランチ】を考えた。私が提案する料理は、想像もつかないという事だったので実際に食べてもらった方が良いかと思い、公爵家の厨房をお借りして作ることにした。
*****
「こちらが、試作品になります」
夕食を【大人様ランチ】の試作発表会にしてもらい、公爵家の皆様に忌憚のない意見を言ってもらうことにした。
【お子様ランチ】と同じようにワンプレートではあるが、内容と量が違っている。獣人はやはり肉が好きということで……
・オムライスのジェットブルシチューがけ
・キノコとベーコンのグラタン
・ジェノベーゼパスタ
・メンチカツ
・唐揚げ
・ジャガトフライ
・キャロジンのねじり梅のグラッセ
・ミニトメットとミランジの飾り切り
ジェノベーゼに使ったハーブは、トム爺とコアが育ててくれたバジルで作ったもの。
ゴクリ「おお、これが……。よし、皆、頂こう」
生唾を飲み込んだ公爵様の声で、皆さん食べ始める。
「美味い!!」
「やはりジョアン嬢の料理は美味しい」
「うっま!!店で食べる唐揚げより美味い!!」
「うん、ヤッベ!!止まらない」
「このオムライス?これ、僕好き!」
「まあ、この緑色のパスタでした?鼻に抜ける香りがいいわ」
「こちらのメンチカツのジューシーなこと」
「わたくし、キャロジン嫌いだけどこれなら食べれるわ」
ふぅ〜良かった。皆んな気に入ってくれたみたい。
まあ、手伝ってくれた料理人達もつまみ食いが止まらなかったからな〜。
ちなみに男性陣は、大盛りにしたにも関わらずおかわりをしていた。
食後は、応接室に移動してカクテルのテイスティング。未成年のアムちゃんとトニー君には、ノンアルコールカクテルをベルデが人型になり、シェイカーを振り私が配っていく。
まずは、シャンパンとミランジジュースのミモザ。
「美味いな」
「ええ。これならお酒の弱い女性でも飲みやすいわ」
「これが……幻の酒」
公爵夫妻とシアさんが感想を言う中
「コレも飲みやすいが、私はもう少し強めの酒が好みだ」
「ああ。これはジュースのようだ」
「俺もガツンと強いのが良いな」
公爵3兄弟は度数が強いのが好みらしい。
「では、こちらをどうぞ」
琥珀色のカクテルを3人の前に出す。
コクッと一口飲むと……
「クッ……」
「クハッ」
「クゥーッ」
3人が悶絶している。
それもそのはず、そのカクテルはウイスキーとドランブイを軽く混ぜ合わせた、ラスティネイル。アルコール度数40%以上はあるカクテルだ。
ちなみにドランブイは、ツヴェルク国を出る時にモズパパから頂いたもの。代わりにどぶろくを渡したので、物々交換ともいう。
「お気に召しました?」
私の問いかけに涙目で首を縦に振る3兄弟。それを呆れた目でみるノンアル組のアムちゃんとトニー君。公爵夫妻とシアさんは苦笑している。
私が以前飲んでいた『火酒』は90%以上なので、このカクテルでもっと強いものをと言われたら、『火酒』を使って作るつもりだった。
こうして公爵家での試食会は無事に終わった。
3兄弟はあの後口直しにと、他のカクテルをベルデに頼み最終的に潰れた……。
宰相補佐でのガドラさんしか知らなかったから、屋敷で兄弟達と共に笑い合ってるのは意外だった。酔い覚ましにベランダに共に出たシアさんに話したら、ふふふと笑っていた。
「お兄様は、仕事で気を張り詰めている分、屋敷に戻るとあーなりますわ。休みの日など、引きこもって寝続けていたりですわ」
へぇ〜、見た目は自分にも他人にも厳しい人なんだけどね〜。
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