433.ミンコフ領主
ーーー港町ミンコフ、領主邸。
「そんなに緊張せんでも良い」
「は、はあ」
いやいや、いきなり領主邸に連れて来られて緊張するなって方が無理な話でしょ。
「改めて、ワシはここミンコフの領主をやっとるウル・バートンだ。元辺境伯とも言う」
「とも言うって……」
「まあ、今は息子に代替わりをして飛地のミンコフで悠々自適の領主様ってわけだ。ガッハッハハハ」
あー、ウチのお祖父様と同じ感じかぁ〜。
「えーっと、俺はエグザリア王国で冒険者をやってるショウです」
「料理人かと思いきや冒険者なぁ……。その割には、肝が据わっているな。俺がずっと威圧を出しているのに、平然な顔だ。見てみろ、後ろのヤツを」
顎で促され、後ろを振り向くと扉前に立つ護衛の青年の顔は真っ青になっている。どうりで応接室に通されてから、威圧を感じたわけだ。
「い、いや、あの一応Bランカーなんで。その、俺を警戒して威圧を出されているのかと思いまして……」
「ほお、なるほどなぁ。……で、お前はアニア国に何をしに来たんだ?」
「えっと学院の冬季休みなので、知り合いを訪ねに」
「ほお、知り合いとな?それは誰だ?」
マジか、そこ聞く?
あー、なんで男装しちゃったかな〜。ミンコフを出てからすれば良かった。いや、そもそもスープなんて作らなきゃこんなことにはならなかったかも。この際だ、男装だってこと言っちゃう?それとも言わないでおく?
と、考えていると領主様がその様子をずっと見ていることに気付いた。
「ん?言えぬのか?……エグザリア王国のどこぞのお嬢さん?」
「っ!?」
領主様の言葉に私は驚き、言葉を失った。
「あのな〜、獣人は鼻が効くんだよ。いくら香水で誤魔化してもな。何で男の格好をしている?」
「その、祖母とその友人からの薦めで、女性の1人旅は危険だからと……」
「あー、なるほどな。だけど、それはアニア国では通用しねぇなぁ。」
「そのようですね。……失礼しました。改めて、エグザリア王国、ランペイル辺境伯家が長女、ジョアン・ランペイルと申します」
と、ドレスを着ていないので紳士的な礼をとる。
「ランペイル……エグザリア王国の "王国の盾” か。では、ウィル殿の?」
「祖父をご存知ですか?」
「ああ、武闘会で何度かお会いしたことも、対戦したこともある。勝てたことはないがな。ウィル殿はお変わりないか?」
「ええ、元気に過ごしております」
「そうか、それは良かった」
その後、お祖父様の話や武闘会の話をしていると、家令さんがランチの準備が出来たと言う。ランチは、魚をメインにした料理でとても美味しかった。食後のお茶を飲みながら領主が私に聞く。
「ところでジョアン嬢は、宿はもう決めたのか?まだなら、ここに滞在すれば良い。なに、部屋は余っているんだ遠慮せんでも良い」
「ありがとうございます。でも、実は私には契約獣がおりまして……」
「ほお、ジョアン嬢はテイマーであったか。して、今、その契約獣は?」
「えっと近くにいます。でも、紹介するにあたって人払いをお願いしたいのですが……」
「わかった。だが、家令とそこの私兵団長だけはかまわんか?」
「はい」
ディメンションルームから、皆んなを出すと領主様だけではなく家令さんも私兵団長も目を丸くしていた。
「ジョ、ジョアン嬢、どこから彼らを……」
「えっと、ストレージから……。あの!紹介します。こちらからパール、ロッソ、メテオ……あれ?ベルデ?」
一緒に出たはずなのに見当たらないベルデ。キョロキョロと見渡すと、いつの間にか私の肩の上にいた。
「皆んな、こちらは領主のウル・バートン様。ご挨拶を」
『ジョアンの契約獣、フェンリルのパールです』
『僕は、同じくジョアンの契約獣、カーバンクルのロッソだよ』
『俺は、姐さんの舎弟兼契約獣のホワイトデーモンオウルのメテオっす。宜しくっす』
そして、私の肩から飛び立ち人型になったベルデ。
『ジョアン様の契約獣、緑の精霊、ベルデと申します』
「あと、厩舎にいる白馬はペガサスのスノーです」
「「「………」」」
領主様達がフリーズした。
「あの〜、領主様?」
「はっ!す、すまん。驚きが強く頭が停止しておった。」
そう言うと、領主様は私達に片膝をついて頭を下げた。それに倣って家令さんと私兵団長も。
「フェンリル様と生きている間にお会いできるとは、恐悦至極に存じます。わたくしめは、アニア国、ウル・バートンと申します。後ろにおりますのは、家令のチャガラ、私兵団長のザルツにございます」
あー、やっぱりこうなったか〜。
アニア国はフェンリルを崇めているからな〜。
「……パール」
『はぁ〜。……私はジョアンに命を助けられた一契約獣、あなた方に頭を下げられるような者ではありません。頭を上げて下さい、我が主が困っております』
そうパールが言うと、恐る恐る頭を上げてくれる。そして、先程のように振る舞って欲しいとのパールの願いを渋々納得してくれた。
「いやいや、まさかフェンリル様と契約しているとは……」
額の汗を拭きながら領主様が言う。家令さんは、パール達に希望の飲み物を聞き取りに行った。
「これから、王都まで行くのにパールは外に出さない方が良いのでしょうか?」
「いや、それは大丈夫だろう。パール殿は、サイズを変えられるから成犬サイズでおれば」
「良かった〜」
ホットミルクを飲むのを止めこちらを見ていたパールもホッとしたようで、また飲みだした。
「ところで、ジョアン嬢の本来の目的は?」
「春季に行われる武闘会の招待状を届ける為です」
「なんと!!10年ぶりかのぉ、武闘会の開催は。では、先程の知り合いに会いにと言うのは?」
「それも本当ですよ。知り合いは、ティガー公爵家の四男、トニー君です。あと、シア様」
イデアさんのハイロー侯爵家も知り合いだけど……そこは、まぁいいでしょ。
「もしや……あの誘拐事件の?」
「ご存知でしたか?」
「ああ、中央から離れてはいるが情報は入ってくるのでな。確かあの時事件解決に尽力したのは……おぉランペイル辺境伯家でしたな」
「はい。その時、使者の方が来るまでの間、トニー君が我が家に滞在した縁です」
詳細を聞きたいと言うので、あの事件の事を私の言える中で話した。途中、領主様達が顔を顰めることもあったが、最後には
「ジョアン嬢のスキルのお陰で、皆が無事に其々帰国出来たのは神のご意志じゃろうな。ジョアン嬢、我が国民を救ってくれたこと感謝する」
「いえ、私がしたことなんて【サーチ】しただけで……でも、皆様が無事だったことは本当に喜ばしいことです」
獣人の嗅覚、侮るなかれ……。
ミンコフ領主は、気のいいお爺さんでした。
そして、やっぱりフェンリルのパールを見て膝をつく。
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