430.策士
「魔術はなしだ。いいな?……では、始め!」
レギンさんの声で、相手方が動き出す。メテオはすぐさま上空へ。
「パール!覚醒!!」
『ウワォォォォォォーーーン』
パールは、雄叫びと共に本来の大きさに戻る。
「「「なっ……」」」
信号機トリオが驚き動きを止めた瞬間に、メテオが急降下し鋭い爪で黄色信号の木刀を弾き飛ばし、その後容赦なく頭部を狙い攻撃する。黄色信号は、手で防ぐしかなく演習場を走り回る。
「うわっ!!やめ、止めてー!!」
パールは、跳躍し青信号を押し倒す。
青信号は、なす術もなくそのまま地面に叩きつけられて失神してしまった。
「くっそっ!!お前だけでもーー!!」
残った赤信号が私に向かって走って来た。
赤信号は、大上段からの右袈裟切りを繰り出すが、それを読んでいた私は木刀を縦に添え、上からの力を受け流す。そして、肩を入れ替えて木刀の持ち手側で打撃を繰り出す。
「ぅがっ!?」
顎先に当たり、赤信号の顔が天を見上げる。その瞬間に、懐に入り込み鳩尾に一発。赤信号は、身体を2つに折り曲げて倒れ込んだ。
「止め!!」
レギンさんの声で、私達は元位置に戻り一礼。
周りを見ると、先程まで信号機トリオに声援を送っていた一部野次馬の声も聞こえない。
「あれ?」
と、首を傾げると、観客席の方からの拍手。女王陛下と大臣`s だった。それにつられる様に、騎士団側からもようやく拍手が。
その後の演習は、騎士団の人達に質問攻めにあったりしたが、とても有意義なものとなった。
演習後、女王陛下と大臣's、が団長と共に姿が見えなくなると、赤信号が再び絡んで来た。
「おい、今度は体術で戦え!」
えー、面倒くさいと思いレギンさんに視線を送ると、笑顔で頷いていた。
やっぱり、レギンさんってば腹黒い。
演習場に直径15mの円が描かれ、その中で戦う。背中をついたり、円から出たら負け。ルールは、相撲と一緒だ。
赤信号は、早速円の中に入りニヤニヤと私を見ている。
「はあ〜」
私は溜息をつくと、両足首から黒いリストバンドの様なものを外す。次に両手首にあるものも外し下に落とすとドスッと音がする。それを見ていたギャラリーは首を傾げる。それを敢えて説明する義理もないので、スルーして手足首を軽く回し簡単にストレッチをする。
「おい!早くしろ!!」
「はい、はい」
円の中に入ると、笑顔のレギンさんが再び開始を告げる。
赤信号は先程と違い、私の出方を待っている。だとしたら、私は先手必勝、攻撃あるのみ!
赤信号に向かって走り、スライディングからのローキック。赤信号が下を向いた所で、しゃがみこんでいた私は顎に掌底を叩き込む。ふらついた赤信号は、私にミドルキックを繰り出すが、それを両手で受け止め足首を脇腹に押し付けるようにクラッチする。その体勢から素早く内側にきりもみ状態で倒れこむ。すると、赤信号は回転力で投げ飛ばれた。
決まった〜!ドラゴンスクリュー。
ありがとう、ドラゴンF波!
ドラゴンF波への感謝もそこそこに、うつ伏せに倒れている赤信号の背中に乗り、首から顎を掴んで相手の体を海老反り状に引き上げる。そう、ご存知キャメルクラッチです。漫画では、面長の顔にどじょう髭で、おでこに『中』と書いた中国の超人の得意技。
「ぐぅぅ……ギ……ブ……」
赤信号の言葉で、私は手を離して背中から降りる。元位置に戻ろうと背中を向けると、それを見た赤信号が私に掴みかかるが、それを予想していた私はしゃがみ込んで、足払いをし尻餅をつかせた。そして、立ち上がりサッカーボールキックで攻撃、避けようと背を倒したのを見て、起き上がる前に肩を踏みつけ地面に背中をつけさせた。
「止め!!勝者、ジョアン・ランペイル嬢」
レギンさんが私の名前をフルネームで呼ぶと、騎士団員達はザワザワとする。
「ランペイルって、あの?」
「エグザリア王国で、“王国の盾”と呼ばれる強者集団の?」
「スパルタンコースの生みの親である『獄炎の魔女』の血筋……」
「そりゃあ、アイツらがどうやったって勝てねーよ」
「それより、命があっただけ感謝だろうな」
「そうそう、手足あるしな」
いやいや、最終的に我が家の関係者が暗殺者みたいに言われてますけどー!?違いますからー!!
「「「すみませんでしたー!!」」」
私が、周囲の声にアタフタしていると、いつの間にか目の前に信号機トリオが綺麗な土下座をしていた。
「いやいや、あなた方の言い分もわかりますから、頭を上げて下さい。誰だって、どこの誰だかわからない奴と上司が砕けた感じなら変に疑いますって」
「優しいですね。ジョアン嬢が、こう温情をかけてくれるんだ……ほら、君達頭を上げなさい」
レギンさんに言われ、信号機トリオは恐る恐る頭を上げた。
後々、レギンさんに聞いた話では、伯爵家の令息トリオで3人でつるんでは格下の令息令嬢や平民に対して、横柄な態度や仕事を押し付けたりしていたらしい。だから今回、私に対して絡んでいるのを見て思ったそうだ。
「ちょうど良いから、心身共に叩き潰して貰おう」
と、笑顔で言われた。
もし、私が負けていたらどうしたのか聞くと
「その場合は、エグザリア王国の使者の辺境伯令嬢に対して演習とはいえ、勝手な憶測で罵倒をし3人で攻撃したと抗議しましたよ。でも父から「あのランペイル家の姫君が負けるわけない」と聞いていましたのでね、そこは心配はしていませんでしたよ。どちらかというと、ジョアン嬢がやり過ぎないかが心配でした」
レギンさん、人を使って部下の再教育させたってことか。
さすが、公爵家。ほんと、策士だわ。
料理したり、悪徳商人懲らしめたり、料理したり、料理したり、演習したりでツヴェルク国での滞在は終わりを告げた。
『結局、どこでも料理してるわ』
『ジョアンだから仕方ないわよ』
『そうそう』
『姐さんらしいっすね』
『そこがジョアン様のいいところですよ』
契約獣達は、ジョアンの性格を知り尽くしてる(笑)
ツヴェルク国編、終了です。
次は、どこへ行くのかな?




