428.ツヴェルク国、王宮魔道具部門
モズパパの案内で、馬車に乗った。魔道具部門は、開発や研究を行うので騒音や臭いが周囲に漏れても大丈夫なように、王宮とは違う建物にあるそうだ。
しばらくして、馬車が止まる。
モズパパのエスコートで、馬車を下りると目の前には思ったよりもこじんまりとした白壁の平屋の建物があった。
「さあ、行こうか」
モズパパの後について、建物に入ると正面には受付カウンターがあり、モズパパは魔道具部門の部長にと取次ぎを依頼した。
「じゃあ、ここで待つのもあれだから、食堂で待とうか」
と、モズパパは再びエスコートをし受付カウンターの右側の通路へと進む。食堂は、学院の食堂のようにテラス席もあり、ランチ時もあってか席がほぼ埋まっていた。しかし、内務大臣のモズパパの登場で、入り口近くで食事をしていた人が「すぐ空きます」と残りわずかなパンを口に詰め込み、バタバタと席を譲ってくれた。
「タイミング悪い時に来てしまったようだ。彼には、悪い事をした」
と、モズパパが顎髭をポリポリと掻きながら、苦笑いをする。
「えっと、フレーバーティーでも飲みます?」
と、提案するとモズパパは首を傾げる。
「その……フレーバーティーとは?」
「紅茶に果物や花の香り付けをした紅茶です。……これは、リップルティーです」
と、ストレージからティーポットとティーカップを取り出す。
「ほお〜。リップルのいい香りだ。これは、エグザリア王国で販売しているのかい?」
「いえ、私が作りました。作ったといってもリップルを茹でたお湯で紅茶を淹れただけですよ」
「なんと、そんな簡単な方法でここまで美味しい紅茶になるのかい?我が家でも試してみよう」
お茶請けに出した塩バタークッキーを食べながら、モズパパと歓談をしていると、食堂の扉が開き1人の男性が私達の近くへやって来た。
「あー、何?そのいい匂いの紅茶?ズルくない?」
そう話しかけて来たのは、モズの次兄さん。
あれ?と私が驚いていると、それに気付いた次兄さんは
「父上、ジョアンちゃんに俺のこと説明しなかったのか?」
と、モズパパに聞く。
「ん?ああ、会えばわかると思って説明してないな」
「ったく。横着すぎるよ。……改めまして、王宮魔道具部門の部長をしている、セックル・ドゥリンだ。で?その紅茶は何?」
「リップルティーです。……どうぞ」
席へついたセックルさんにも紅茶を渡す。
「へぇ〜、初めて飲んだけど砂糖を入れなくても甘い感じがするね」
「これはリップルを茹でたお湯で淹れた紅茶だからな。砂糖を入れなくても美味いんだ」
と、モズパパ。
「何で父上がドヤ顔かわからないんだが?じゃあ、他の果物でも同じ作り方なのかい?」
「いえ、ミランジのように果汁が多いものは、紅茶に果汁を入れるだけですから、リップルよりも簡単ですよ」
「「なるほど〜」」
「で?どうしてここへ?お茶しに来たわけではないだろう?」
一通り紅茶とクッキーを堪能したセックルさんが聞く。
「あっ、私がツヴェルクに来るまで集めた素材を買って欲しくて、公爵様にお願いしたんです」
と、私はエットゥで鍛治師ギルドを勧められた件を簡単に説明した。
「例えば、どんなものがあるんだい?」
と、セックルさん。
「えーっと……キラーアントとハイキラーアント、キラービー、アウルベアとかですね」
「おお、中々いいものがあるね。だが、残念だ。エグザリア王国からだから、カルキノスとか期待したんだけどな」
「セックル、それは無理な話だろう。ツヴェルクまでは、内陸を進んで来るのだぞ」
と、モズパパ。
確かに、ツヴェルクまではずっと内陸を進んで来るので、本来であれば海にいるカルキノスの素材を持っているはずはない。でも……
「ありますよ?蟹さん」
と、言ってみる。
「えっ!?あるの?」
「はい。ランペイル領は海辺の飛地もあるので」
ファンタズモで、ベルと共に討伐したカルキノスの味を気に入った私は、定期的にカルキノスを討伐していた。イジョクさんに素材をあげることもあるけど「毎回はいらん」と断られてからは何かの役に立つかと思いストレージに入れっぱなしになっていた。
「欲しい!欲しい!いや、是非売って欲しい!!」
と、セックルさんが叫ぶ。
「は、はい。」
「いや、ジョアンちゃん。助かるよ。じゃあ、早速素材を見せて貰ってもいいかな?」
「えっと、ココでですか?」
「ん?何か問題ある?」
「あー、ちょっと量が多くて……」
さすがに食堂で出すのは忍びない……。
しかも入り口付近だから、きっと扉を塞いじゃう。
「じゃあ、そこのテラスでどうかな?」
「たぶん……大丈夫です」
ということで、テラスに移動する。テラス席の前には、芝の広場がありそこでシートを敷いてランチを取ったり、昼寝をしたりするそうだ。ちょうど広場に誰もいなかったので、そこで出すことにした。
テラス席には、食堂内で私達の話を聞いていた職員達も集まって来ていた。
「じゃあ、出しますね〜」
私は、芝に手を翳して……キラーアント150、ハイキラーアント100、キラービー200、アウルベアの腕、足を20ずつ、そしてカルキノスを1、2……
「ちょっ、ちょっとジョアンちゃん!?」
「はい?」
セックルさんの呼びかけに、返事をして動きを止める。
「あのさ、どれだけ出すのさ」
「えっ!?あれ?……出し過ぎちゃいました?」
周りを見るとセックルさんやモズパパだけではなく、野次馬で見ていた職員達も顎が外れんばかりに口を大きく開けてフリーズしていた。
「はぁー、モズがジョアン嬢が規格外って言っていた意味がわかったよ」
と、モズパパ。
「あー、なんかすみません」
先程出した素材は、野次馬の職員達の手で素材保管庫に運ばれている。この建物は平屋に見えたが、研究室や保管庫などは全て地下にあるらしい。それも、元々ここが鉱石の発掘した跡地だったから。だから地上にあるのは、食堂だけらしい。食事だけは日の当たる所でということらしい。
「いやいや、こちらとしてはありがたい限りだよー。冒険者ギルドに依頼しても中々手に入らないし、しかもここまで状態の良い素材じゃないからね。本当に助かる。しかも、カルキノスが3体も」
と、満面の笑みのセックルさん。
「喜んで貰えて良かったです」
「ちなみに、ちなみにだよ?ビッグボアの角も持っていたりとかする?」
「はい。……どうぞ」
「おおー。マジか!?」
セックルさんと野次馬で見ていた職員達から、手を振って見送ってもらい私とモズパパは苦笑しながら魔道具部門の建物を出た。




