424.ツヴェルク国で謁見
翌日、ドゥリン公爵が王宮に仕事に行くので馬車に同乗させてもらい、ご丁寧に謁見の間まで案内してくれた。さすがに遠慮すると、「いーの、いーの。仕事はただの事務作業だから」と言っていた。
すれ違う人達が、驚きの表情で私達を見ていたので人族が王宮にいる事が珍しいんだろうなぁ〜と思っていた。
屈強な衛兵が両脇を守る、両開きの扉の前まで来ると公爵は
「じゃ、また後で〜。」
「あ、ありがとうございました。」
と、お礼を言うと公爵は微笑み去って行った。
中に入り、所定の位置で跪き頭を垂れ待っていると、正面にある玉座の脇の扉が開き、数人の足音が響く。
「女王陛下、こちらはエグザリア王国、ジョアン・ランペイル辺境伯令嬢です。ランペイル嬢、お顔をお上げ下さい。ようこそツヴェルクへ。私は宰相のロアール・アムンゼン。こちらが我が国の女王、レネ陛下です。」
頭を上げると、60代とは思えないホワイトゴールドの髪をアップにし、黒いドレスを着こなした美魔女がいた。女王陛下の玉座の一段下に宰相。そのもう一段下に両脇に2人ずつ男性が立っている。その中には、モズパパのドゥリン公爵もいて、こちらをニコニコと見ている。
いやいや、そこ、ただの事務作業の人が立つ場所じゃないですからーー!!
「あ、改めまして、私がエグザリア王国ランペイル辺境伯家が長女、ジョアン・ランペイルです。この度はお忙しい中、お時間をいただき誠にありがとうございます。」
「挨拶はこれ以上必要ないわ。楽にしてちょうだい。話はサブォイから聞いているし、エグザリアのレティからも連絡を受けているわ。本当は、こんな謁見の間ではなく応接室で良かったものを、この者達が煩くて……仰々しくなってしまってごめんなさいね。」
決して大きな声ではないのに、凛とした声で話す女王。
「はぁ〜。一応、他国の使者を迎える形式というものがあるとご説明したではないですか。……わかりましたよ。応接室へ向かいましょう。それで、良いですね。」
宰相は形式について説明したと言うが、女王は納得していなかった模様。ジト目で女王に見られて、宰相が折れる事に。
応接室に全員で移動をし、皇太后様よりの書状を女王に渡し、読んでいる間に宰相が他の男性達を紹介してくれた。
宰相と男性達は、王と共に建国した5人の長だった。
智の長の後継で、白髪に長い白髭でサンタクロースのような宰相のロアール・アムンゼン公爵。
武の長の後継で、スキンヘッドに焦茶色の髭でガタイがいい軍務大臣のゴルデル・グリーグ公爵。
癒の長の後継で、青い長髪を片三つ編みにしメガネをかけた財務大臣のモートン・ガルボルト公爵。
匠の長の後継で、赤い髪に顎髭強面のモズパパ、内務大臣のサブォイ・ドゥリン公爵。
緑の長の後継で、緑色の髪と髭で細い目の外務大臣のフルダ・バリゲット公爵。
モズパパ……内務大臣だなんて!!どこが、ただの事務作業なの!?
あの息子にして、この親ありだな!
「武闘会の招待状、しかと受け取った。10年ぶりの武闘会、楽しみじゃ。」
皇太后様よりの手紙を読み終わった女王が、楽しそうに言う。
「おお、武闘会ですか。それは、楽しみだ。それまでに、我が国での代表者を選び、鍛え直さねばならんな。」
と、グリーグ公爵。
エグザリア王国の武闘会は、王国の騎士団だけではなく各国の代表者10名も参加する。元々は、エグザリア王国内だけだったが来賓として来られた他国の王族の皆様が、我の国の者の方が強いと言い始めたのがきっかけで、他国の騎士団代表も参加する事になったそうだ。
「ところで、ランペイル嬢。お主は、たいそう料理の腕が立つと、レティからの手紙にあったが本当か?」
と、女王が聞く。
「ええ、エグザリア王国で ”食の女神” と言われているジョアン嬢の作る酒とツマミは最高でしたよ。」
と、私が答える前にドゥリン公爵が答える。
「なんじゃ、サブォイはもう食したのか。狡い、狡いぞ!ランペイル嬢、妾にも何か作ってくれないか?」
「おお、ではワシらもぜひご相伴に預かりたい。」
と、宰相が言うと他のメンバーも笑顔で頷く。
もちろん断れるわけもなく、私は女王の側近の方に王宮の厨房へと案内された。
昼食を作る前の休憩中だったようで、厨房内には少人数の料理人がいるだけだった。側近の方は、私に料理長を紹介してくれた。
「料理長をしているドルドだ。俺は敬語なんぞ話せねーが、悪く思わんでくれよ。」
「はい、全然構わないし敬語で話されるよりもその方が気が楽なんで。よろしくお願いします!」
「お、おう。まあ、頼むわ。」
側近の方が厨房から出ていくと、先程まで遠巻きにいた料理人達が近寄って来た。
「姉ちゃん、人族ってことはエグザリア王国か?」
「はい、そうです。一応、使者として来たんですけどね?」
「は?何でココにいるんだ?」
「さあ?何でだろ……。まっ、いいや。あの、申し訳ないんですけど厨房借りますね。」
「おお。それは構わねーが、陛下方に出すものは俺が味見させて貰うぞ。」
と、ドラド。
「ええ、それはもちろんです。……っと。」
ストレージから作務衣の上着を取り出し、ドレスの上から羽織る。更に、スカート部分が汚れないように前掛けも着ける。
もちろん、我が家の裁縫のエキスパートのミトさんが作ってくれた。
私が描いた雑なイラストでも、ちゃんと形にしてくれるミトさんは本当に凄いわ。
「お、おい。嬢ちゃん、今、どっから出した?」
「あー、ストレージですよ。私の便利なんですよ〜。」
最近、ストレージについては説明するのも面倒なんで、適当に『便利』の一言でぶった斬っている。
「さてと……あの、女王陛下と大臣様達って何が好きです?」
と、料理人達に聞くと、声を揃えて言う。
「「「「「酒!」」」」」
「あっ、ですよね〜。じゃあ、酒に合う料理が良いかな?ちなみに飲まれる酒の種類は?」
「種類か……陛下と宰相はワイン派。グリーグ公爵は度数が高いもの。ガルボルト公爵はウイスキー派。ドゥリン公爵は何でも飲むし、バリゲット公爵は東の国の酒を好むな。」
と、教えてくれた。
酒に強いのは、グリーグ公爵に聞こえるけど、コレ絶対モズパパが1番強いでしょ。
何でもって、ちゃんぽんでも勢い変わらなそう……。




