420.からくり
今回は、いつもより短めになっております。
「ほう。さすがだな。」
ディーゼル侯爵は、感嘆の声を上げる。それを聞き、スカーフの男はニコッと笑うとおもむろに自分の髪の毛を掴むと、それを引っ張る。すると長さは同じでも掴んだ髪色とは違う髪が出てくる。
「ありがとうございます。ドミニクおじ様。」
スカーフと変声チョーカーを外し、半ば無理矢理【転移】で連れて来たエレーナ先輩のお父様のドミニクおじ様にお礼を言い頭を下げる。
「いや、確かに急にジョアン嬢の従者が現れて、連れて来られたのには驚いたが。結果的には感謝する。まさか、我が侯爵家の名前が使われているとはな。」
ドーリさんと店主さんに、話を聞いた時に、チョビ髭商人の後ろに付いているのがディーゼル侯爵家だと知った。もちろんそんな事は、信用していないのでベルデにちょっとお使いを頼んだ。それから、エットゥでお世話になったギルマス兼辺境伯のグレンさんにも連絡を取った。
「ガッハッハハハ。さすがイジョクに剣を作って貰っただけある腕前だな。流れる様な剣筋だったぞ、お嬢。」
「本当にのぉ。それに、この酒の旨いことと言ったら……くぅ〜。」
と、カウンター席から声をかけてきたのは、グレンさんとここの領主さん。2人には、ここの酒場を準備してくれたお礼としてどぶろくを進呈した。
「まさか、見にくるとは思いませんでしたよ。」
「いや、来るだろ。いい酒に、いいツマミそれに面白そうな余興があるって聞いたらよ。」
ここの酒場は、領主さんの道楽でやっていると言うことで貸切にしていた。そして、他の酒場には領主さんからお願いしてもらい、チョビ髭達が入ろうとすると「満席だ」と言ってこの酒場に来るように誘導していた。だから、この酒場にいるのは私とディーゼル侯爵、グレンさんと領主さん、ディーゼル侯爵家の私兵団そしてターゲットのチョビ髭達だけ。ちなみに【結界】を張った防具屋の扉に触ったのはベルデというのが、今回のカラクリ。
ちなみにツマミは、ガーニックセウユの唐揚げとジャガトフライ、ジャイアントスネークの鰻巻き。そして、夕食前に連れて来られた私兵団の皆さんには、カツ丼を振る舞った。米に抵抗があるかと思っていたら、カッター公爵家やディーゼル侯爵家をはじめとする友人の屋敷でも、最近では食事に出ているらしい。特に私兵団を持つ家では、安い上に腹持ちがいい米が大活躍しているそうだ。
まあ、私兵団の皆さん、エンゲル係数高そうだもんなぁ。
「しかし、グレン殿には無理を言ってすまなかった。……これは、グレン殿と領主殿にお礼として。」ドンッ。ドンッ。
お礼としてディーゼル侯爵が従僕から手渡された瓶は、もちろん酒だった。しかも、前世でもアルコール度数が96度と高く、ショットグラスに火をつけて飲む事もあるスピリタス。
「貴殿達の好きな酒がわからないもので、私の好きな酒を持って来た。」
と、ディーゼル侯爵。
あー、それが好きって……おじ様、かなりの酒豪なのでは?
と、思っているとディーゼル侯爵家の私兵団団長がコソッと「実は閣下の好みではなくて、奥様の好みの酒なんですけどね」と。
レティおば様が、ウワバミでしたか……。
んー、なんとなく、納得できるわ。
その後、ディーゼル侯爵家の皆様は、捕縛したチョビ髭達と共にベルデの【転移】で帰って行った。お土産として、おじ様リクエストのシュークリームを持って。
ちゃんと、エレーナ先輩達にもあげて下さいって言ったけど……。おじ様、目を逸らしたな。
*****
「ジョアンちゃん、本当にありがとう!!」
翌日、ドーリさんの所で事の顛末を報告すると、ドーリさんにガバッと抱きしめられてお礼を言われた。店主さんは店員さんと共にホッとした顔をして、肩を組んでいる。
「うっ……ドーリ……さん。……そろそろ……ギ……ブ。」
「あら、ごめんなさいね。」
と、ようやく解放してくれた。
さすがドワーフ、力が半端ないっす。
本来なら次は、イジョクさん達の妹さんの所に配達だったが、ドーリさんが届けてくれると言う事なので、遠慮なくお願いした。ということで、私達は王都に向かうことにした。ドーリさんによるとツヴェルク国の王都フンドレまでは、フェムの街から辻馬車で7日ほどかかるらしい。
「じゃあ、王都に向けて、しゅっぱーーつ!」
「ジョアンちゃん、気をつけてねー!!」
門まで見送りにドーリさんが来てくれた。ドーリさんは、私達が見えなくなるまで、ずっと手を振ってくれた。
そこから大小様々な街や村を経由し、時々、魔獣を狩りながら私達は王都を目指した。
「あっ、今更だけど、キラーアントとかの素材を鍛治ギルドに売るの忘れてた。」
『ホント、今更ね。』
とパールも呆れ顔だった。
『どっちみち、王都に行くまでに増えるんだから、良いんじゃな〜い?』
と、ロッソ。
「確かに、そうだよね〜。」
『相変わらず、面倒くさがりね。』
と、スノーが言う。
「そりゃあ、冒険者ギルドならまだしも、鍛治ギルドなんてどんな所かもわからないんだもん。一度で済ませたい!」
『握り拳を作って宣言するほどのことではないが……。』
と、ベルデは言うけど、気にしなーい。
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