418.ドーリさん
エットゥを出発して、3日目にようやくフェムに到着した。
国境の街のエットゥに比べて、街の大きさは小さく、見かけるのはドワーフ族の方が多い。この街で、イジョクさんのお姉さんは、旦那さんと共に防具屋さんを営んでいるらしい。
「えーっと、店の名前は『アルティ』で、さっき門衛さんに聞いたらここら辺のはず……アルティ、アルティ、アルティ……ふふっ。」
前世で見たインドのスポーツ、カバディを思い出したわ。
あのスポーツ、ずっとカバディ、カバディ、カバディ……言うから。
『1人で笑うの止めなさい。怖いわ。』
と、パールに注意された。
『見つけたっすよ。こっちっす。』
先を行っていたメテオが店を見つけてくれた。ちなみにメテオは文字が読めるわけではなく、メテオの背中乗ったベルデが読めるだけ。なのに、メテオは自分が見つけたように言っているので、ベルデに叩かれ素直に謝っていた。
カランカラーン。
扉を開けると、色々な防具が揃ってある。布で出来た冒険者初心者用から、鉄で出来た鎧のような防具まで。
「いらっしゃい。今日はどんなモノを?」
と、若い男性の店員さんが言う。
「えーっと、ドーリさんって方を探しているんですが。」
「えっ!?奥さんですか?ちょっ、ちょっと待ってて下さいね。」
そう言うと、奥に引っ込んでしまった。しばらくすると、先程の店員が明らかにドーリさんではない、ハンマーを持ったゴツい男性が一緒にやって来た。
「あんたか?ドーリに用があるってのは?あん?」
なぜか睨まれながら聞かれる。
「は、はあ。エグザリア王国から来たジョアンと言いますけど、あなたは?」
「俺は、ここの店主だ。で、人族のやつがドーリに何の用だ。」
なんで、初対面で喧嘩ごしなんだろ?
そんなに人族が嫌い?
私が黙っていると、店主さんがさらに詰め寄って来た。
「おい!何とか言ったらどうなんだ!!」
「ドーリさん宛に、手紙とプレゼントを預かって来たので渡したいだけですけど?」
「手紙とプレゼントだと?……ちっ!あいつ、また性懲りもなく。」
「は?」
「それを寄越せ!」
「いや、これはドーリさん宛なので、本人に渡します。」
「いいから、寄越せ!」
と、店主さんが掴みかかって来たところを寸前でかわす。
ガシャガシャーン。
「お、親方!!」
「う、うぅ……。このガキがー!!」
起き上がって更に私に掴みかかって来ようとした時、店の扉が開く。
カランカラーン。
「あんたー!?」
「ド、ドーリ……。」
ドーリさんが入って来たことで、店主さんの動きが止まった。
「あなたがドーリさん?」
「は、はい。あの、あなたは?」
「エグザリア王国のジョアンと言います。イジョクさんとガンダルさんから、お届けモノです。」
そう言うとストレージから、手紙とプレゼントを取り出す。
「「イジョクとガンダルー!?」」
それから店の奥に通されドーリさんからお茶を淹れて貰い、落ち着いたところでイジョクさんとガンダルさんが、ランペイル領にいる事など説明した。
「申し訳なかった。」ゴンッ。
店主さんは、テーブルに頭をぶつけながら勢いよく謝った。
「本当にごめんなさいね。ウチの旦那が。それに、弟達もお世話になっているようで。」バシッ。ゴンッ。
ドーリさんが追い討ちをかけるように、店主さんの後頭部を思いっきり叩いた。
ドーリさん、容赦ないな……。
「でも、どうしてあんなに威圧的だったんですか?人族に嫌な思い出でも?」
そう聞くと2人は顔を見合わせて頷くと、私に説明してくれた。
2人の話を要約すると……
人族の商人がイジョクさん達の姉であるドーリさんの事を聞きつけて、イジョクさん達を紹介しろと言って来たらしい。でも、何処で何をしているかわからなかった為に断ると、隠していると勘違いされ嫌がらせをしてきたと。店の前に誹謗中傷の書いた貼り紙を貼られたり、チンピラのような冒険者にクレームを入れるように仕向けたり。そして先日は、小包を開封するとホーンラビットの頭部だけが入っており、添えられた手紙には『お前もこうなるぞ』と。
「その商人は、貴族とも繋がりがあるようで、次に良い返事がない場合は店を潰すことは容易に出来るとも言われて……。」
なるほど。
それは、人族にいい感情がなくて当たり前だわ。
「その商人はどんな人か教えてもらえますか?」
ドーリさんと店主さんからの情報で、その商人は月一で店に現れ、今月はそろそろ来るころだと言う。恰幅のいいチョビ髭の年配の商人らしく、必ず護衛として冒険者を引き連れているそうだ。
「わかりました。とりあえず、この店に結界を張りますね。あっ、もちろん普通のお客さんや悪意のない人だけ入れるようにしますから。」
ウォン。
「「えっ!?」」
2人は今まで感じたことのない空気の歪みを少し感じた。
「結界って……ジョアンさん、あなたは一体……。」
「私はーー」
バチッ。「うわぁーーっ!」
私が改めて自己紹介をしようとした時、店の外で何やら騒いでいる。
「あ、親方ーーっ。奥さーん。」
と、先程の店員が店頭から呼んでいるので、私達は店頭に向かった。
「どうした?」
「あ、あの、いつもの奴が来たんですけど、扉を触ったら急に叫び声を上げて……。」
店員が店主さん達に説明している間に、私は外へと出た。そこには、右手を抑えて蹲っている冒険者風の大男がいた。
「どうしました?」
と、その大男に声をかけると、男の近くにいた仲間らしき小柄な男が代わりに答えた。
「俺らがそこの店に入ろうとドアノブを触ったら、コイツが吹っ飛んだんだ。どうなってんだ!!」
扉に張った結界が、大男を拒絶したようだ。
「あー、もしかしてどっかの商人にこの店で騒ぎを起こせとでも言われました?金でも掴まされて。」
「ど、どうして、それを……。」
同じく仲間らしい細い男が言う。
「バ、バカヤロッ!黙っておけよ!」
と、魔術師のようなローブを着た男が細い男を小突く。
冒険者風の男達は、ドワーフ族と人族の混合チームのようだった。そして、人混みの中にチョビ髭の商人もメテオが確認済み。




