416.チーズポンム
イジョクさん達を見送ってーーといっても執務室から【転移】したけれどーー再び、執務室にはグレンさんと私とパールだけ。
「感謝する。久々にアイツらの元気な顔見れた。」
と、頭を下げるグレンさん。
「いえ、でも本当に内緒ですよ。」
「もちろんだ。バレたら俺も責任を取らないとならなくなるからな。」
そろそろ帰ろうかと思うと、グレンさんが胸元から装飾され、柄の部分に紋章がある短剣を出した。
「これをお嬢に渡す。」
「は?これは?」
「我が家の紋章が入った短剣だ。これを見せれば、俺の家の者だという証明になる。余程のことがなければ丁重に扱われるはずだ。」
「えー!?何で。」
「これから王都に行くんだろ?なら、あった方がいい。武力なら心配はいらんが、他国の人間に当たりが強い所もあるからな。」
「ありがとうございます。じゃあ、お礼にコレを。」
と、ストレージからどぶろくを取り出す。
「コレは?」
「私の作った、濁り酒です。ガンダルさんからは、お墨付きを貰いましたよ。」
「あの酒豪が、お墨付き……。ありがたく貰う。」
*****
冒険者ギルドを出た後は、ロッソの希望の屋台巡りをした。
屋台では串焼きや魔獣の煮込み、揚げジャガトなどツマミになりそうな食べ物が多く、それより多いのはお酒を販売している屋台。さすがドワーフの国。まだ、昼だというのに飲んで赤ら顔の人が多い。そして、そんな酔っ払いをターゲットにしたスリも多く、先程から私にもぶつかって来ようとするが、寸前のところでかわすので、もれなく舌打ちされる。
『ジョアン、あった。あそこ行こう。』
私の肩の上からずっと何かを探していたロッソが、私の頬をペチペチ叩きながら言う。ロッソが指す方向を見ると、1つの屋台があった。近づくと、その屋台からは甘い匂いがする。
「すみません。これは、何ですか?」
店員のお姉さんに聞く。
「いらっしゃい。これは、ポンムというお菓子よ。」
よく見ると、生地をたこ焼き器の様な鉄板の窪みに入れて焼き、火が通ると生地が膨らむ。いわゆるベビーカステラだ。
「じゃあ、それをーー」
「20個買ってくれたら、3個オマケするわよ。」
「マジで!?じゃあ、30個でオマケ5個に!」
「ん〜、特別よ。じゃあ、300Dね。」
「ありがとう。早速……ん〜、ふわふわで美味しい〜。」
ちょうど店の隣にベンチがあったので、そこで焼きたてのポンムを食べていた。
「ふふふ。お嬢さん、美味しそうに食べるわね。」
「いや、だって美味しいですもん。この、優しい甘さが好き。」
「嬉しいわ〜。でも、みんなお菓子よりツマミの方が好きでね〜。中々、売れないのよ。」
と、お姉さんが嘆く。
「じゃあ、ツマミにしちゃえば良いのに。」
「どういうこと?」
と、首を傾げるお姉さん。
「例えば、中にチーズを入れるとか。生地の甘さとチーズの塩気で合うと思うんですけど。後は、トメット入れたり。」
「あら、それ美味しそうね。ちょっと、やってみようかしら?
チーズ買ってくるわ。」
「えっ!?」
私が驚いてある間に、お姉さんは何処かへ走って行った。
「どっか行っちゃった……。」
『モグモグ……大丈夫じゃない?誰も……モグモグ……来ないし。』
と、ポンムに夢中なロッソ。その横では、近くの串焼き屋で買ってきた肉を、頷きながら食べるパールとメテオ。
しばらくすると、お姉さんが戻って来た。
「ごめんね〜。チーズとトメット買って来たわ。」
そういうと、手際良くチーズポンムとトメットポンムを焼きだした。周りの生地から溢れたチーズの香ばしい匂いがしてきた。
「まずは、試作品第一号ね。はい、どうぞ。」
「えっ?私も良いの?」
「もちろん!考案者だもの。どれどれ……あつっ……ハフハフ……あっ、ヤバッ。コレ、美味しいわ。」
「あっつ……ウマッ……良いですね、コレ。」
焼きたてのチーズポンムは、ひと口食べるとチーズがいい感じに伸びる。それも、また面白いし、冷めたらきっとそれはそれで美味しいはず。
「トメットは……あーっつ!!コレは、トメットの汁が出て危険ね。口の中がヒリヒリするわ。」
「あー、火傷ですね。コレ、飲んで下さい。」
ストレージから出したのは、【アクア】の冷水。トメットの汁で火傷するのは予想出来たのに、教えなかったのは私の落ち度だから、治療ぐらいはさせてもらう。
ゴクッゴクッ「あら?ヒリヒリしなくなったわ。ありがとう。」
「どういたしまして。ん〜、作る手間や材料費を考えたりすると、まずはチーズだけの方がいいですかね?」
腕組みをしながら話すと、お姉さんはこちらを見て驚いている。
「お嬢さん、冒険者だと思っていたけど、何か商売でもしたことがあるの?」
「あー、はい。自分の所の領で、少し。あっ、チーズポンムが軌道に乗ったら、中身をソーセージや串焼きの肉か煮込みの肉でも良いかも知れないですね。もしそれをするなら、どこかの屋台と卸す契約とかをしてーー」
と、1人で話しているとガッとお姉さんに手を握られる。
「お嬢さん!!凄いわ!!」
「へっ!?」
色々と提案した事で、店員のお姉さん、ナールさんからとても感謝された。
「売れるかしら?」
店頭には、新商品チーズポンムと目立つように書いたが、皆んなチラッと見るだけで立ち止まってはくれない。
「ん〜。ナールさん、試食してもらいましょ!」
「試食?」
「はい。お試しで食べてもらうんです。」
「そうね。このまま、ボーッとしてるよりは良いかも知れないわ。」
ナールさんが作ったチーズポンムを、一つずつ串にさしてお皿に並べた。
「新作のチーズポンムでーす!あっ、そこのお兄さん、試しにおひとついかがですか?お試しは無料ですよー。」
「んあ?チーズポンムだと?」
呼び止めたおじさんは興味を示してくれた。
「はい。ほんのり甘い生地にチーズの塩気がマッチしてますよ。はい、どうぞ。」
「お、おう。……ん?美味い!!これは、酒にも合うな。よし!姉ちゃん、これを10……いや、20くれ。」
「はい、まいどあり〜。ナールさん、20個でーす。」
「は、はーい。」
私が男性をターゲットにする横で、ベルデが女性をターゲットにしていた。お陰で、先程まで閑古鳥だった屋台は、長蛇の列となった。
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