42.鬼かしら?
朝食が終わり、待ちに待った護身術の練習の為、サラに案内され我が家の演習場に向かう。
演習場なんてあったのねぇ。
そう、私にとっては初めて行く場所。屋敷を出てからずっとキョロキョロしていた。何度か躓き、サラに注意される。
屋敷の裏手に、演習場はあった。
てっきり空き地みたいな、更地だと思っていたら、全天候型グラウンドみたいに、ちゃんと整地されたところだった。しかも、テニスコートのように、クレイとグラス(土と芝)の場所があった。
サラ曰く、どんな場所でも戦えるように訓練する為らしい。しかも、どんな気候条件でも対応出来る様に、属性を駆使して訓練するんだそうだ。
例えば…雨や雪面、アイスバーンなら【水】属性。
ぬかるみなら【土】属性。
強風の砂埃なら【風】属性。
炎天下なら【火】属性。
雷雨なら【水】と【雷】属性。
こういった訓練方法は、国内でもランペイル領だけらしい。そこで訓練されたウチの私兵団は、かなりの猛者揃い。
それもあって私兵団に入団希望者が多いらしいが、かなりの狭き門だということだ。王宮の騎士の中には、貴族の子弟なら入れるというようなところもあるらしいが、ここはそんなに甘い所ではないそうだ。
いくらウチの私兵団が貴族、平民関係ないって言ったって、そりゃ、ランクAの冒険者だって無理かもねぇ〜。
入るのも地獄、入っても地獄の私兵団ってみんな狂戦士なんじゃないかしら?
その演習場には、既にナンシー、ザック、アニーちゃんが待っていた。
まだ、講師の先生は来ていないようねぇ。
「お待たせしました」
「大丈夫ですよ、お嬢様。では、始めます。サラ」
「はい。宜しくお願いします」
「「お願いします」」
ん?どうした?
「お嬢様、訓練を始める前と終わった後には必ず講師に挨拶をするんです。今日は、初めてですので次回からお願いしますね」
えっ?ってことは、先生はナンシーってことかしら?
「はい、わかりました。あのぉ〜ナンシーが先生で間違いないですか?」
「はい、そうですよ、お嬢様。知りませんでしたか?私、こう見えて、元魔物討伐団員でしたのでお嬢様方を訓練する術は持っております」
マジですか!?
やっぱり怖い。もとい、強い人だった。そりゃ、あのグレイも敵わないわねぇ。
ここは、ちゃんと『礼に始まり、礼に終わる』だわね。
「宜しくお願いします!」
訓練は、基礎体力作りだった。
演習場を、3周走って、腕立て30回、3周走って、足上げ腹筋30回、3周走る。
これを週3回、1ヶ月。その後は、回数が増えるらしい。
優しいナンシーの正体は……鬼かしら?
サラとアニーちゃんは、以前より訓練してたようで私の訓練よりも、ハードだった。長い時間をかけて、終わったのは昼前だった。
お腹は空いているけど、疲れすぎて飲み物以外は無理。絶対、吐くわ。何より、まず動けない。私とザックが背中合わせで座っていると
「はい、どうぞ」
「あれ?アーサーさん?今日休みだよね?」
冷たい飲み物を渡された。
「きっと昼食は食べられないだろうと思ってね。ノエル坊ちゃんもネイサンも、最初はそうだったから。まっ、ジーン坊ちゃんは普通に食べてたけどね」
ゴクッ「美味しい。ミランジジュース、作ってくれたの?」
「いや、俺は運んだだけ。作ったのはベンだよ。あっ、あとコレも」
食べられるなら、とナババをくれる。
「ナンシーさんの訓練ヤバいでしょ?」
ボソッとアーサーさんが言う。
それに対して、ザックと私は無言で頷く。
「こればっかりは慣れるしかないね。頑張って」
アーサーさんは2人の頭をポンポンとして、屋敷の方に帰って行った。
慣れか。ってか、慣れるのかしら?
でも、やるしかないわよねぇ〜。基礎体力がつかないと、護身術習うまでいかないもの。
にしても、ジーン兄様は普通に食べてたんだ。
体力有り余っていたのかしら?




