411.苦痛なお茶会 side ベル
ジョアンが旅立った後の、王都での話です。
ジョアンが旅立ってから1週間がたつ。
3日空けずに文を飛ばしてくれるから、何の心配もしてないし、何だったら羨ましいと思う。私も、こんなお茶会になんて出ないで付いて行きたかった。
今回のお茶会も、例のピグレート侯爵夫人が誰も聞いてもいないのにベラベラと話している。話をかけられている人達の目が、どんどん死んでいってる……不憫だとは思うけど、皆んな関わりたくないから助けることも出来ない。私もお母様も叔母様でさえ視線を合わせない様に気をつけている。話している内容は、いつも通り嫡男の自慢から始まり、最終的にジョアンやランペイル家を虐げる話に変わる。ここら辺にくると、私と叔母様は拳を握り締め早く終わることを祈っている。
でも、今日はいつもとは違った……。
今回のお茶会の主催者は、カッター公爵家。キャシーちゃんの実家だ。お茶会が始まる時刻よりも1刻前に、私とエレーナ先輩、レベちゃん、サンちゃん、ランス、エドにカリムがカッター公爵家に呼ばれた。もちろん同伴者であるお母様や叔母様も。それは、私の家だけではなく皆んなの家も同様に。そこで、ランスが魔道具で録画したピグレート侯爵家のお茶会の映像を初めて見た。そして全員、驚きそして強い怒りを覚えた。叔母様とランスのお母様のディーゼル侯爵夫人の、今にも殴りかかりに行きそうなところをなんとか抑えた。
「お茶会よりも先に皆様に集まって頂いたのは、この映像を見て貰いたいからですの。」
そう切り出すのは、キャシーちゃんのお母様、カッター公爵夫人。
「最近、なにやら社交界を賑わせている方がいらっしゃるとお聞きしたものですから、気になって情報を取り寄せたら……ねぇ?本当に、あの侯爵夫人には、昔も今も呆れてしまいますわ。」
カッター公爵夫人は、上品に扇子で口元を隠しているが、目は怒りに満ちていた。後から聞いた話では、ジョアンから聞いていた話だけではなく、カッター公爵にも色目を使っていたそうだ。
「それでね、キャサリーヌから聞いた話では、今、ジョアン嬢はさるお方のご依頼で、他国に行っているようですの。まぁ、このまま社交界にいても、面白半分で話かけたり、謂れもない非難をされますからね。わたくし、ジョアン嬢の汚名を晴らすべきなのは、今ではないかと思うの。さるお方もこの件については、ピグレート侯爵夫人にとてもご立腹でしてね。是非とも協力したいと申し出てくれましたの。それで、早速本日のお茶会にもご招待致しましたの。先に、皆様にお会いしたいというので、集まって頂きましたの。」
あっ、やっぱりキャシーちゃんにも文が届いていたのね。
さるお方って、やっぱり王妃様よね?前世からの知り合いって言っていたし。
と、考えていると公爵家の侍女が、お客様の来訪を告げにカッター公爵夫人に耳打ちした。それに対して、カッター公爵夫人は頷き、私達に許可を得てキャシーちゃんと共にお客様をお出迎えに応接室を出て行った。
しばらくして、カッター公爵夫人とキャシーちゃんと一緒に応接室に入って来たのは、王太后様と王妃様、そしてその後ろには女性の近衛隊の方が。私達は、一同に立ち上がると頭を下げた。
「皆様、頭を上げてちょうだい。」
王妃様の言葉に私達は頭を上げると、先程までカッター公爵夫人とキャシーちゃんが座っていた位置に王太后様と王妃様がお座りになっていた。私達は頭を上げお母様達は座り直したが、私とエドとカリムはソファーの後ろに立った。それは、騎士科として学んだこと。同じ場所で要人がいる場合は、勧められたとしても断り、いかなる状況にも咄嗟に対応出来る様にしておくこと。立ったままの私達を見て、近衛隊の方は頷く。この対応は間違えてはいないようだ。
「カッター公爵夫人、無理を言ってごめんなさいね。皆様も、驚かせてしまったわね。遠くの地にいるわたくしにまで、王都の騒動は聞こえてしまってね。本当、どうしようもない人はいつの時代にもいるものよねぇ。しかも、わたくしの大切な親友であるリンジーの可愛いご令孫を侮辱するなんて……。」
と、王太后様は言う。
「お義母様、こちらにいるご令息ご令嬢は、ジョアンちゃんのご学友ですのよ。それに、そちらでお立ちになっているレルータ伯爵令息、スミス伯爵令息、バースト伯爵令嬢とは騎士科でもご一緒ですのよ。」
と、王妃様が王太后様に私達を紹介されたので会釈をする。
「まあ、ではわたくしの後輩ですのね。」
と、王太后様は微笑まれた。その微笑みは、女の私でさえ頬を赤くするほどだった。
なんて素敵な笑みなんだろう。
これが、ジョアンの言っていた『美魔女』ってやつなのかな?
「では、ジョアン嬢が安心して戻って来れるようにしなくてはね。アミー、アレを。」
「はい。……皆様、こちらをご覧になって。」
と、王妃様が取り出したのは1枚の手紙。それを、代表してカッター公爵夫人が読み上げる。
『己を鍛えるために、家出します。
昨日のお茶会にて、【無】属性だからとピグレート侯爵夫人及び侯爵令息から、謂れなき誹謗を受けました。私だけなら我慢も出来ましたが、誹謗は私の愛する家族や果ては尊敬し誇りを持って勤めている女性騎士まで。その場で、2人に対し力を持って制圧することは簡単に出来そうでしたが、そう考える自分が弱い事に気付きました。このままではいけないと思い、契約獣と共に出て行きます。
我儘な娘で、本当に申し訳ありません。
ジョアン・ランペイル』
私やエド達が困惑している中、王太后様は優雅にお茶を飲んでいた。王妃様は、もう1つ包みを取り出しテーブルへ置く。キャシーちゃんが、その包みを開くと紐で縛られた髪の毛。それはジョアンの髪色と同じもの……。
「「「「「「「「「「っ!!」」」」」」」」」」
嘘でしょ?だって、ジョアンは依頼で他国に行くって手紙だって……。それに、令嬢の証である手入れの行き届いた長い髪を切るなんて、ジョアンどういうこと!?




