406.報告
私の盾になったベルデは、侯爵夫人の振り上げた手を掴み
『ジョアン様に対して、何をなさるんですか。』
と、冷ややかな声で言う。それに対して、イケメン従僕風のベルデに頬を染める侯爵夫人。
「な、何よ、貴方は!は、離しなさい。娘が娘なら、使用人も使用人ね。この事は、抗議いたしますわ。……ま、まぁ、ランペイル嬢が嫁ぐ際に、貴方も我が侯爵家に来るなら考えても宜しくてよ。」
と、ベルデに対して流し目で見ながら言う。
「いえ、それには及びません。これで、失礼します。ベルデ。」
『はい。ジョアン様。』
ベルデにエスコートされて帰る際に、チラッと友人達の方に目をやると。4人共、小さく頷く。
私は王都の屋敷経由でジェネラルに戻ると、すぐにお父様とお母様に報告する。もちろん2人共、私が受けた侯爵家からの侮辱に激怒した。
「何が『スタンリー様のアプローチ』だ!!いつ、誰がした?あんなデブスに!!しかも、勝手に名前呼びしやがって!!」
「子爵家出の何が悪いのよ!侯爵家出だって万年Eクラスの馬鹿のクセに!!」
「……旦那様も奥様も、少々お言葉が乱れております。」
と、グレイが言うが、2人共怒りは収まらない。
「それで、ランスが魔道具で録画しているようです。それを確認して頂ければ、私に非はないと思うのですが……。私の言動と行動、そしてベルデに対して、きっと侯爵家から何らかの抗議があると思います。申し訳ありません。」
と、2人に頭を下げる。
「いや、ジョアンに非はないだろう。ただ、あの人は昔から被害妄想が酷いからな。」
「ええ、そうでしたわね。当時もレティ様やオリビア様、私から虐められただの何だのって、ぬかし……いえ、ほざいてましたからね。」
「……奥様、言い直しても代わっておりません。」
と、ナンシーが言う。
トントントン「失礼致します、ザックです。」
「入りなさい。」
ガチャ「旦那様、ディーゼル侯爵家のご当主がご令息と共に、王都の屋敷にお見えですが、いかがいたしましょう。」
「「「えっ?」」」
お父様達と顔を見合わせる。
今、話していたところに、なんてタイムリーな。
もしかしてランス、あの後すぐに来てくれたのかな?
「今から、向かう。ジョアン、一緒に来なさい。」
「はい。」
私とお父様は、慌ただしく王都の屋敷に転移扉を使って向かった。
*****
「やあ、スタン、ジョアン嬢。先触れもなく悪いな。ランスに聞いたら、すぐにでも耳に入れた方が良いと思ってな。」
「こちらこそ、ありがとうございます。先程、ジョアンから話を聞いてランス殿に魔道具の映像を見せてもらえるよう連絡するところでした。」
ドミニクおじ様とお父様が話している間、私はランスと話していた。
「大丈夫か?」
「うん。お父様達に話したら、私以上に怒っていて逆に冷静になれたわ。あれから、どうなったの?皆んなは大丈夫だった?」
「あぁ、夫人も令息もなんとか平常心を保ちながら、ホスト役をこなしていたけど、全員が見ていただろう?だから、続々と帰る人間が多くて、俺達もすぐに帰ったよ。残ったのは派閥の人間が少しだけだろうな。レベッカ嬢達も心配していたから、後で連絡しておいた方が良いぞ。」
「そうなんだ。レベちゃん達に心配掛けちゃったな。」
「まぁな。だが、アレはあっちが悪い。家格が下だからと言って蔑ろにしすぎだ。女性騎士に対しても馬鹿にしすぎだ。姉上が聞いたらと思うと恐ろしい。」
私の知っている騎士科の女性の先輩は、エレーナ先輩とクロエ先輩だけど、確かジーン兄様の同級生は女子生徒が多かったって聞いたわ。しかも、ジーン兄様にも引けを取らない実力だとか……。
その場で、ランスの撮った映像を見るとお父様は歯を食いしばって映像を睨みつけ、ドミニクおじ様は不愉快そうにムッとしていた。
「コイツ、相変わらずワケのわからない事を言っているな。」
と、ドミニクおじ様。
「ええ、学院時代の時から変わっていないようですね。こう言ってはなんですが、ピグレート侯爵は何故あの様なのと結婚されたのでしょう?」
と、お父様。
「あぁ、当時聞いた話しでは、ピグレート侯爵の治療代で傾いていたのを持参金で持ち直したとかだったような……。まあ、夫婦仲は嫡男が産まれた段階で終わっているそうだがな。」
「あぁ、なるほど。だから侯爵ご自身は領地から出てこないのですね。」
「……お父様、申し訳ありません。」
「何がだい?」
「私が堪える事ができたなら、もう少し穏便に出来たと思うのですが……。自分の事は何と言われても良いのですが、お母様や第二騎士団、そして女性騎士を馬鹿にされるのはどうしても許せなくて。」
と、膝の上の拳を硬く握り締めると、お父様の温かい手が優しく包んでくれた。
「ほら、力をぬいて。爪で傷ついてしまうよ。それに、ジョアンは堪えた方だよ。私なら、その場を火の海に変えてしまうだろうね。」
「ガッハッハハハ、確かにな。私なら殴り倒していただろうよ。」
と、ドミニクおじ様。
「父上、それはさすがに……。」
と、呆れているランス。
「ともかくこの事はピグレート侯爵家に抗議すると共に、陛下と宰相に報告しておこう。」
「スタン、陛下と宰相の所に行くなら私も一緒に行こう。ランスは、家へと帰りレティとエレーナに報告を。」
「はい。わかりました。」
と、今後の予定がどんどん決まっていく。
「ジョアン、私はこれから王城に行ってくるよ。だから、マギーへ伝えておいて貰えるかい?」
「はい、お父様。」
私だけ、ジェネラルの屋敷に戻るとリビングにいたお母様に報告をした。
「そう。わかったわ。……ジョアン、あなたが気に病む事ないのよ。」
「……はい。でも、陛下や宰相様、ドミニクおじ様にも迷惑をかけてしまって……。」
「そうね。ジョアンに、気に病むなと言う方が難しいかも知れないわね。ジョアンは、色々と考えすぎるから。」
お母様は、紅茶を飲みながら何やら考え始めた。
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