405.コブちゃんとの再会
「は、はぁ……そ、そうなんですね。」
そんな事に、全く興味ないから早くどっか行け!
香水の付け過ぎで鼻曲がるわ、口呼吸、口呼吸。
「ええ、そうなの。ですからね、きっとランペイル嬢とも話が合うと思うの。貴女は、お祖母様であられるリンジー様と同じように近衛隊希望なんでしょう?でも結局、婚期の事も考えると、女性の騎士なんてお相手探しに所属するだけでしょう?でしたら、貴女には勿体ないとは思うけど、わたくしの愛息をどうかと思いましてね。」
「……ありがたいお話ですけれど、私には恐れ多い事でございます。それに……私の希望は近衛隊ではなく、第二騎士団ですわ。」
「まぁ!!第二ですって!?あの魔物討伐団だなんて……。なんて事でしょう!!あんな野蛮な所に、令嬢を……。あぁ、やはり子爵家出の母親ではちゃんとした教育が出来ませんのね。あの時、わたくしがスタンリー様からのアプローチを受け入れていれば、貴女をあんな魔物討伐団に行きたいなんて言わせませんでしたのに……。わかりましたわ。わたくしが貴女の母親代わりになりましょう。いえ、わたくしのコブちゃんと結婚すれば、本当の親子ですわね。どうせ【無】属性なのだから嫁ぎ先などもありませんでしょう?貴女にコブちゃんは勿体ないですけれど、貴女を助ける為ですもの涙を飲みますわ。まずは、コブちゃんを紹介しますわね。コブちゃーん!コブちゃーん!ちょっとこちらにいらしてー!!」
侯爵夫人は1人捲し立てるように話し、息子を呼ぶ。侯爵夫人の声が先程から興奮して大きくなり、周りの視線がこちらに向いている。
私は、侯爵夫人に対する怒りを抑える事に必死だった。
「ジョアン、一通り魔道具で撮っているから。」
と、隣に座っていたランスが小声でいい、胸元のピンブローチを指差す。それを確認して、私は頷く。
ーーベルデ?聞こえる?
ーージョアン様、全て聞いておりました。排除致しますか?
ーーううん。でも10分後に迎え、お願い。
ーーかしこまりました。
従僕として連れて来ていたベルデに、念話でお願いする。
その声に、ドスドスと音を立てるようにやって来たのは、先程確認した侯爵令息。
「ハァ、ハァ……母上、お呼びですか?ハァ、ハァ、ハァ。」
近くで見た侯爵令息は、2mはあるであろう高身長で横にもデカい。ジャケットの中は、侯爵夫人とお揃いの薄いピンク色のシャツを着ているが、所々にワインのシミがある。
「あぁ、コブちゃんに紹介しようと思ってね。こちら、ランペイル辺境伯令嬢のジョアン・ランペイル嬢。【無】属性だけど器量は良いから、貴方の相手にどうかと思ってね。あぁ、もちろん正妻ではなくてよ。正妻は、ちゃんとした娘を探すわ。どうかしら?」
そう言われた侯爵令息は、ニヤニヤしながら私のことを足先から舐めるように見て顔を見た瞬間に動きを止めた。
「お、お、お前は……。」
ん?どっかで会ったかな?こんなデブ息子。
でも、確かに見た覚えもあるような?ないような?
「あら?コブちゃん、ランペイル嬢を知っているの?」
「は、は、母上、こいつですよ!!お、俺を馬鹿にしたような戦いを仕掛けて、ひ、卑怯な手を使って勝ったヤツは!!」
「まあ!!なんですってー!!」
ん?戦った?この人と?どこで?
学院じゃないし……。
「ジョアン、もしかして姉上と共闘した時に対戦した?」
と、ランス。
エレーナ先輩と共闘……。キャシーちゃんの護衛決める時?
「あっ!あの時の。」
「ランペイル嬢、貴女でしたの?わたくしのコブちゃんに怪我を負わせたのは!!」
「いえ、あの……でも、怪我は治療されましたよね?」
「治療したから良いってことではないでしょう?貴女、謝ることも出来ないのかしら?本当に、これだから育ちの悪い母親を持つとーー」
「ここで、私の母は関係ないですよね?」
「まあ、口答えするのね。謝らないような子供は、育てた親が悪いのは決まっているでしょう!」
ヤバい、このオバハン殴りたい!
落ち着け、落ち着け、私。深呼吸だ!
「ふぅ……失礼ですが、侯爵令息様と対戦したのは陛下や宰相様の許可があってのことです。……それに、謝るにも侯爵令息様は気を失い、その後騎士団にも伺ってもおいでにならなかったのですが?他の方にはその時に謝罪をしたのですが、謝りたいからとお名前やお屋敷を聞こうにも『気にしなくて良い』と言われては、私にはどうすることも出来ませんわ。」
「だ、誰がそんなことを!?」
と、唾を飛ばしながらデブ息子が聞いてくる。
唾飛ばすなや!汚いやっちゃなー。
口元緩いのか?だからワインも唾も飛ばすのか。
「あの時の打ち合いの審判官ですが?」
「まあ!なんて事?審判官からして、わたくしのコブちゃんを蔑ろにするだなんて抗議致しますわ!!誰ですの?」
「宰相様ですが?」
「えっ?」
「ですから、宰相様であられるホルガー・ヨシーク公爵様ですが?……ともかく、先日の事は謝ります。強者を用意したのでどの様な手を使っても構わないとのことでしたが、少々やり過ぎたようです。申し訳ありません。」
と、頭を下げる。
「ま、まあ、謝るなら許しますわ。ね?コブちゃん。」
「あ、あぁ、母上が言うなら許す。」
おいおい、デブ息子。しれっと侯爵夫人の手を握ってんなや。マザコンかーい!!
ってか、気づかないかな?暗に弱かったって言ってるのに。
心の中でツッコんでいると、侯爵夫人から耳を疑うような言葉を聞く。
「ともかく、これから貴女には侯爵家のしきたりを一から覚えて貰いますから。」
「は?」
理解が追いつかないんですけど?なんで私が?
「これだから頭の弱い子はダメね。先程言ったでしょう?貴女はコブちゃんの側室になるのよ。」
「いえ、先程お断りしましたが?」
「侯爵家からの申し出を断る気?本当に、貴女みたいな子は、教育しがいがありそうだわ。」
開いた扇子で口元を隠しているが、どう考えても馬鹿にされている。
「大変申し訳ありませんが、もう一度申し上げます。私はこちらに嫁ぐ気は一切ありません!ご了承下さい。」
と、頭を下げる。
「な、な、な、なんですって!!」
怒りで顔を真っ赤にした侯爵夫人は扇子を閉じて、その扇子を持った手を振りかぶり私を打とうした。が、一向に衝撃が来ない。そっと頭を上げると私の前にベルデが立っていた。
次回の更新は、金曜日を予定しております。




