404.ピグレート侯爵夫人
先週の金曜日は、予定もなしに投稿を休んでスミマセン。ちょっとバタバタしてまして……。
冬季の休みに入ると、夜会だけではなく日中のお茶会などの招待状も増えて来た。本日、お茶会に呼ばれたのはピグレート侯爵家。
ここの侯爵夫人は、未婚の者がいると誰かれ構わずくっつけようとするのがお好きなようで、度々お茶会やら夜会を開催して婚活パーティーのようなものをしているそうだ。しかも男性ならまだしも、女性は婚期を逃すことを良しとしない昔ながらの考えの方で、どうにかして縁繋ぎをしたいのだと。根本は親切心、世話焼き精神なのだろうけど、周囲からはただのお節介なお見合いババアだと言われている。しかも、侯爵夫人として情報は色々と把握しているようで、そこから勝手に相手を見繕うらしい。以前、デビュタント直後の令嬢にその父親と同世代よりも上の年齢の後妻を薦めたこともあったようで、評判はあまり宜しくない。
我が家には、ノエル兄様を筆頭にデビュタントしているにも関わらず婚約者もいない者が3人もいる。侯爵夫人曰く、この事は由々しき事態だと。何度も何度も招待されては断っているが諦めてくれず、さすがのお母様も一度だけ行けば諦めるんじゃない?という事で、今回参加する事になった。
華やかに着飾った男女が笑いさざめく声が、侯爵家のお茶会の会場に満ちていた。円卓と椅子が幾対も置かれ、一口で食べられる軽食や小さいが美しい気の利いた菓子にジュース、紅茶にワイン等が用意されていて、歓談やダンスに疲れた客達が思い思いに寛ぎ、言葉を交わしていた。
「まぁまぁまぁ、ようやくおいで下さいましたのね。わたくし、ずぅーっと貴女のこと待っておりましたのよぉ〜。」
そう言いながら、入場した私の元へやってきたのは、ふくよかな体型にお父様と同年代に見える方には派手と思われる薄いピンクのドレスに身を包み、クネクネと歩いて来るのはホストのピグレート侯爵夫人。
「ご招待頂きまして、ありがとうございます。」
「良いのよぉ〜。今日は、楽しんで行って頂戴ね。色々と用意してますから〜。では、また後で。」
そう言い残すと、次に入場して来た招待客の方へ向かって行った。
「ふぅ〜。」
挨拶があっさり終わった事に、安堵して力を抜くと先に入場していた友人達がやって来た。
「ジョアン、大丈夫?」
「たぶん、今回のターゲットはあなたよ。」
と、サンちゃんとレベちゃん。
「気を許したら、最後だぞ。」
「いいか、それとなくスルーするんだ。」
と、ボンとエレーナ先輩の弟のランス。
「えっ?えっ?」
皆んなに口早に言われ、私は理解が追いつかない。
情報通のレベちゃんの話だと、ピグレート侯爵夫人は侯爵家の出身で、一時期は陛下の婚約者候補にも名を連ねた方だった。でも、その陛下は騎士団に所属中に前世の記憶持ちである平民の王妃様と出会い婚約。婚約者候補の中でも、とりわけ上昇志向だったピグレート侯爵夫人は、その後、宰相補佐官だったヨシーク公爵令息ーー現・宰相様ーーや第二騎士団団長だったディール侯爵令息ーー現・エレーナ先輩の父ーーにアプローチするも袖にされ、そして家格を下げ第二騎士団副団長だったランペイル辺境伯令息つまりウチのお父様にアプローチをするものの袖にされ、ようやく縁を結べたのがピグレート侯爵令息だったそうだ。ピグレート侯爵令息は、その当時身体が弱く学院にも通っていなかったそうだが、夫人のご実家のツテで宮廷に所属する高位魔術師を紹介し、無事に病は完治。そんなことがあって、夫人と結婚に至ったそうだ。
いやいや、陛下がダメなら宰相様、元騎士団団長そしてお父様って、どんだけアグレッシブ!?
ピグレート侯爵は、学院にも通ってなかったみたいだから、夫人の性格とか知らずに結婚したんだろうな〜。
「……それでね、その……言い難いのだけど……前のお茶会の時に、私が辺境伯に嫁いでいたら娘が【無】属性になることも、行き遅れることもないのに、って仰ってて……。」
と、レベちゃん。
「へぇ〜。……それで?」
「えっと……あの子が幸せになるには、私の力が必要なのよ。だから、しょうがないけれど愛息の相手にでもどうかと思って、って……。」
と、サンちゃん。
「しょうがないけどって……。ちなみに、その愛息?どれ?」
「「「「アレ。」」」」
と、4人の視線の先を見ると、そこには侯爵夫人そっくりなふくよかな……もといデブが冬なのに汗だくでワインをガブ飲みしていた。
「ゲッ、嘘でしょ?」
「「「「いや、本当。」」」」
招待客が揃うと、楽団が演奏し始め、各自思い思いにダンスをしたり軽食を摘んだりし始めた。私も、皆んなと共に軽食をテーブルでとりながら歓談していると、侯爵夫人がこちらに向かって来るのを感じた。
「うわっ、こっちに来てるでしょ。」
「正解。よくわかったな、背後から来ているのに。」
と、ボン。
「いや、私、騎士科だしギルドランクも上がっているから、気配察知とか出来るから。」
「「「「あぁーなるほど。」」」」
「あらあら、なんです?皆様、お若いのだから座っていないで、踊ってはいかがかしら?」
「ありがとうございます、侯爵夫人。ちょうど久々に友人達と出会えましたので、語らっていたところですわ。」
と、やんわり断る。
「確か……こちらの御三方は文官科、ディーゼル様は魔術科、ランペイル嬢は騎士科でございましたわね。」
「ええ。ですから、積もる話もいっぱいありましてーー」
「わたくしの愛息も騎士科の卒業生なんでございますのよ〜。今は、第一騎士団におりますの。わたくしが言うのもなんですけど、学院の頃から出来が良くて、今も騎士団団長からの覚えも宜しいんですのよ〜。」
と、私の話に食い気味で息子自慢をしてきた。私達のうんざりした顔も気付かないぐらいに熱く語っている。
*ピグレート侯爵夫人が、自分の息子を『愛息』と言っているのは、あえてです。誤字ではありません。
ちょっと、お花畑の住人よりの人です。
誤字脱字の報告、ありがとうございます。
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