403.いい意味で腹黒とは?
夜会も終わりに近づき、そろそろお暇しようかと4人で相談していると、入口付近が俄かに騒めく。中には、黄色い声もチラホラと。私達も、そちらに顔を向けるとキャシーちゃんをエスコートして入って来たのはアルバート殿下だった。その後ろには、キャシー兄のルーカス様もいるし、アラン兄様とレオさんもいた。
キャシーちゃんといるアルバート殿下は、私達に気付くとルーカス様に何か話している。ルーカス様は頷くと、私達の方へ向かってくる。
「皆さん、楽しんでいらっしゃいますか?」
と、ルーカス様。
「はい。ご招待頂きましてありがとうございます。」
「ジョアン嬢、そして皆さん、殿下がお呼びですのでこちらへ。」
「……拒否は?」
「ふふっ。それは、難しいかと。……殿下も、きっとジョアン嬢は拒否するだろうから、その時は無理矢理連れて来いと言っております。」
「……行きます。」
「お連れしました。」
「おお、皆、楽しんでいるか?」
「ええ。ですが、そろそろお暇しようかと……。」
「私が今来たのにか?」
「……で、何か御用でしょうか?」
「お前、スルーしたな。……まぁ、いい。ジョアン嬢、アランドルフとダンスした事ないだろ?」
「殿下!?」「えっ!?」
アルバート殿下の言葉に、私とアラン兄様は驚く。でも、言われた様に、確かにアラン兄様と踊ったことはない。
「しかし、殿下!私は貴方様の護衛です。側を離れることはできません。」
「大丈夫だ。一時、アランがいなくてもここにいる騎士科の者がいる。」
「「「っ!!」」」
いきなり自分達に話が回ってくるとは思わず、ベル、カリム、エドは固まる。
「それに、ジョアン嬢なら私達に結界を張ることも容易いだろう?」
「ええ、まぁ。」
「じゃあ、楽しんでおいで。」
と、片手をヒラヒラとさせて送り出された。
アルバート殿下に言われては断ることも出来ず、私は皆んなに結界を張ってアラン兄様のエスコートでホールの中央付近に立つ。
「アラン兄様、踊るのいつぶり?」
「あー、学院ぶりかも……。」
「マジで?私も得意じゃないよ?」
「まあ、なんとかなるだろ。呼吸を合わせればいいんだからな。」
そう言いながら、アラン兄様はスッと左手を私の背中に添える。騎士服を着ているアラン兄様は、どこから見てもイケメンさん。しかも、どんな女性が声をかけたりしても靡かないで有名な『氷の貴公子』。だから、そんな事をすると周りから声が聞こえるわけで……。
「「「「「キャーーッ!!」」」」」」
「「「「「いやーーーっ!!」」」」」
「えーっと、相変わらずモテモテですね。」
「……そんなモノはいらない。ともかく、あっちは気にするな。」
「あははは、了解。」
アラン兄様の右手に自分の手をのせて踊り始める。曲調はワルツだけど、曲の中盤からなぜかテンポが速くなってきた。
「あれ?コレってもっとゆっくりだったよね?」
「ああ。たぶん、殿下のイタズラだろ。」
「あの、腹黒め!」
「ジョアン不敬だぞ。」
「でも、事実だよ。」
「……いい意味ではな。」
「いい意味で腹黒って何?」
「……まあ、気にするな。」
「そう言えば、私にきている釣書を審査してるって聞いたよ?」
「してるが?今のところロクなのはいないから安心しろ。」
「それで、私がずっと独身だったらどうするのよ。」
「その時は……俺のところへ来ればいい。……ほら、ラストだ。」
「えっ!?……キャッ。」
アラン兄様は、更に腰を引き寄せ持ち上げそのまま3回クルクルッと回る。
「「「「「キャーーッ!!」」」」」」
「「「「「「おおーーっ!!」」」」」」
黄色い悲鳴と感嘆の声が聞こえる中、曲が終わりアラン兄様は私をゆっくりと下ろす。エスコートされ皆んなの所に戻ると、皆んなから笑顔で迎え入れられる。
「2人共、なかなか良かったぞ。」
「ええ、とても楽しそうで見ている方も楽しくなったわ。」
と、アルバート殿下とキャシーちゃん。
「あの状況で最後にリフトをするなんて、俺にそんな技術も勇気もない……。」
「俺もだ。ロンゲスト殿、格好良すぎ。」
「私なら、絶対顔が引き攣るわ。」
と、エド、カリム、ベルが話している。
そんな中、ルーカス様が一歩前に出てくる。
「では、私もたまには踊りましょう。……ベル嬢、お相手願えますか?」
「えっ!?わ、私ですか?」
「ええ、是非。」
そう言うと、ベルに向かい手を差し伸べた。ベルは困惑したものの、なんとかルーカス様の手を取った。
「よ、よ、よ、宜しくお願いします。」
「はい。もちろんです。」
ルーカス様にエスコートされてホールに向かう2人を、またも周囲はザワザワとする。
「驚いた。ルーカスが、自分から動くなんて……。」
「ええ。しかも、微笑んでいましたわ。」
と、アルバート殿下とキャシーちゃん。
「えっ?」
私が2人の言葉に不思議そうに首を傾げると、キャシーちゃんが説明してくれた。
「ジョアンは早々に気を許した人間に入ったから知らないと思いますけど、兄は身内と気を許した人間にしか微笑みませんわ。特に、女性に対しては変に勘違いされては困ると言ってましたし。」
確かに、仕事中のルーカス様は無表情というか、一切感情を見せていなかったような……。
「それは、ベルに対して気を許したという事?」
「ええ、たぶん。」
と、私とキャシーちゃんが話しているとアルバート殿下は違う見解を言う。
「いや、あれは気を許したというよりベル嬢に対して、少なくとも好意を持っている方じゃないか?」
「「えっ!?」」
改めてルーカス様とベルを見ると、ちょうど踊り始めたところだった。ベルは、緊張のせいで俯いていたがルーカス様に何か言われて真っ赤な顔をしながらも、顔を上げてルーカス様を見た。2人は目が合ったようで、ルーカス様までが頬を染め、ベルは更に耳まで赤くなっている。
「「「「「「「……。」」」」」」」
私達は、もしかしたら恋に落ちる瞬間を見たのかも知れないと思うほどに、2人はずっと見つめ合っていた。しかも凄い事に、テンポの速い曲にも関わらずちゃんと踊れていて、さらに何か会話をしているようで時折2人で微笑んでいた。
周囲も踊る前は嫉妬の視線でベルを見ていた令嬢も、ダンスをしている2人を見て、いつしか羨望の眼差しで見ているようだった。
ダンスを終え、2人が戻って来た。
踊る前のような緊張した堅い空気ではなく、とても穏やかでいて微笑ましい空気の2人に私達は拍手を送った。
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