401.最後の晩餐
飴ちゃんとのお別れ会です。
ちょっと短めですが、ようやく乙女ゲーム関連の話が終了となります。
侍女トリオから湯浴み&マッサージを念入りに施され、着飾った私はグッタリしていた。
「ジョアン、いい加減慣れなさいよ。」
「無理!」
「もお、ほら、そろそろ時間よ。行きますよ。」
キャシーちゃんに言われ、私はなんとかソファーから立ち上がり飴ちゃんの最後の晩餐に向かう。明日にはリーダス監獄に向かう飴ちゃん。次に会えるのは……いつになるのかわからない。
最後の晩餐といっても、食事する場所は貴族牢の中。キャシーちゃんを連れて入ると、飴ちゃんの笑顔が固まり、立ち上がると柵の前まで来る。
「カッター公爵令嬢様、今まで本当に申し訳ありませんでした。」
と、頭を下げて謝った。
キャシーちゃんは一瞬驚いたものの、すぐにいつもの微笑みで飴ちゃんに話す。
「ブラン男爵令嬢様、頭を上げて下さい。顔を見せて下さいませんか?」
キャシーちゃんの言葉に、飴ちゃんは顔を上げる。
「……許しますわ。これから、貴女にとって辛い生活が待っていると思いますが、きっと今の貴女なら大丈夫ね。顔つきが違いますもの。」
そう言われて、飴ちゃんは自分の顔を両手で挟む。
「前の飴ちゃんは、化粧のせいもあるけど、目つきが悪かったよ。でも、今の飴ちゃんは、穏やかな目をしてる。」
「えっ!?嘘。そうなの?」
「ええ、だから貴女を許すことができます。」
「あ、ありがとうございます。」
「良かったね?飴ちゃん。」
「うん。」
いつものように柵の前にテーブルと椅子を設置し、テーブルの上には、握り寿司とお吸い物、鶏肉とゴンボの煮物、天ぷらの盛り合わせが並ぶ。
「わぁ〜、寿司だ〜!!本当に作ってくれたのね。お昼はカレーだったし。美味しかったわ。」
「約束したからね。」
「コレが、お寿司というものなのね?……本当に魚を生で食べるの?」
「うん。あっ、安心して朝一で買って来たけど、ちゃんと【クリーン】もかけて貰っているから。」
「「「いただきます。」」」
「んー美味しい!今世でお寿司が食べれるなんて思わなかった。」
「……あら、本当に美味しいわ。魚が生で食べれるなんて知らなかった。」
「口にあったんなら良かった。おかわりあるからね。」
それから、しばらく3人で寿司を黙々と食べた。もちろん皆んな、おかわりした。
デザートに、シフォンケーキと紅茶。
「ジョアン……。」
紅茶を一口飲んで、飴ちゃんが私を呼ぶ。
「なーに?」
「その……色々とありがとう。ここに入ってから、日本食を食べさせてもらって、今世で1番の思い出になった。」
「そっか……。なら、良かったわ。リーダス監獄で料理するかも知れないでしょ?……はい。餞別。」
ストレージから、鍵付きのノートを取り出し飴ちゃんに渡す。ノートを開けて見た飴ちゃんのバッと勢いよく上げた顔は驚いていた。
「こ、これって……。」
「日本食のレシピ集。材料とか調味料は、リーダス監獄にあるものを確認しているから、セウユやメソ、えっと醤油や味噌はないみたいだから、塩味のリーダスver.だけどね。」
「ありがとう!頑張って作ってみるわ。」
喜んでくれた飴ちゃんは、レシピノートを胸に抱き締め少し涙目だった。
「では、私からはこれを。」
扉の近くにいたキャシーちゃん専属侍女のビビさんから、何かの包みを受け取り飴ちゃんに渡す。
「えっ?あ、ありがとうございます。あの、開けても?」
「ええ、ぜひ。」
飴ちゃんが包みを開けると、そこにはレターセットが何種類か入っていた。
「それで、私達に手紙を下さいませんか?」
「あ、あたしが?」
「ええ。何でも構わないのです。楽しかったことでも、嫌なことでも。私も出来る限り返事を書きますわ。」
「うぅ……。あ、ありがどう……ございまずぅ。」
とうとう飴ちゃんの涙腺が崩壊してしまった。
翌日の早朝、飴ちゃんは第一騎士団と共にリーダス監獄に旅立った。
本当は、見送りたかったけれど、飴ちゃんからの強い要望があり誰1人見送ることが出来なかった。でも、宰相様から聞いた話では、長かった髪を肩まで切り、平民服を着た飴ちゃんは背筋を伸ばし馬車に乗る前には立ち会いの宰相様とリバークス侯爵に一礼をしてから乗り込んだそうだ。その顔は、学院にいた時とも捕らえられた時とも違った、しっかりとした眼差しだったそうだ。そして、少ない手荷物の中には私とキャシーちゃんからのプレゼントが入っていたと。
そして、飴ちゃんには伝えてはいないけれど、リーダス監獄での行動は逐一報告されるようになっているらしい。そして、1年後なら面会が可能かも知れないと。それも、今後の飴ちゃんの行動次第なので、どうなるかわからないけど。
でも、それを聞いて安心した。きっと、今の飴ちゃんなら大丈夫。何かあったら手紙を書くって言っていたし、私もまた料理のレシピ本を送ると約束しているから。だから、来年の面会が出来る日まで、私は楽しみに待とうと思う。
後に、飴ちゃんがリーダス監獄の厨房で、笑顔で見たこともない美味しい料理を作り、殺伐とした監獄島に穏やかな空気が流れるようになったことを、この時の私は……いや、誰も思ってもいなかった。
誤字脱字の報告、ありがとうございます。
ブクマやポイントでの応援、とても励みになっております。
╰(*´︶`*)╯♡がんばります




