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コミカライズ連載中【WEB版】享年82歳の異世界転生!?〜ハズレ属性でも気にしない、スキルだけで無双します〜《第11回ネット小説大賞 金賞受賞》  作者: ラクシュミー


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400.腹黒決定

「あー、やっと戻ってきた。」

王宮の厨房に戻ってきた私達を見て、モーリスさんが言う。それにつられて扉を見た他の料理人達も安堵の表情。

「遅いから、何かあったのかと思いましたよ。」

「あー、あったと言えばあったな。」

と、アシュトンさん。

私は苦笑するしかない。それを見て、皆んなが首を傾げるので、寿司とお吸い物の準備をしながら説明した。


「「「「「あー、やっぱり近衛兵舎か〜。」」」」」

と、皆んなが声を揃える。どうやら遅くなる原因に心当たりがあったようだ。

「いや、でも見てみたかったですよ。ジョアン様が、アイツらを負かすところ。」

とモーリスさんが言うと、また皆んな同じように頷く。仲良しすぎでしょ。

「いやいや、私が負かしたわけじゃないですよ。私は、正当防衛。最終的に引導を渡したのは、ディーンさんですから。」

「まっ、ディーンもアイツらをどうにかしたいって愚痴ってたから、ちょうど良かったのかもな。」

「確かに。あのディーン副料理長のことだから、執務室で厨房の様子窺っていたりして……。」

「「「「………。」」」」

モーリスさんの言葉に、私以外の料理人達が無言になる。


問題行動のある料理人、しかも貴族令息をどうにか追い出したいと思っていたところに、私がやって来た。しかも、様子を窺っていたら、私に暴力を振るおうとして返り討ちにされた。それを、近衛隊のリュークさん達の前でやったから、証人もバッチリ……。ディーンさん、腹黒人間決定だな。


「ん?ってことは、私、いいように使われた?」

そう言う私から全員が視線を逸らす。やっぱり、そういうことらしい。

「まっ、いいや。そんなことより、寿司だよ。寿司!」

「あっ、いいんだ……。」

「えっ?だって、私がディーンさんなら、使えるものは使うもん。それに、私に被害はないからね。」

「でも、暴力振るわれたじゃないか。」

と、アシュトンさん。

「でも、きっちりお返ししたし。私としては、アラン兄様にバレなかっただけで万事OK!」

と、作業をしながら言う。皆んなが無言なのに気づき、顔を上げると皆んな苦笑い。私が首を傾げると皆んなが私を見ているようで、私の後ろを見ているのに気づいた。


「何が、万事OKなんだ?」


私はゼンマイ仕掛けの人形のように、ぎこちない動きで後ろを振り返ると、そこにはアラン兄様が立っていた。その横には、リュークさんも。

「ア、アラン兄様……。ど、ど、どうしたんでございまするか?」

「ジョアンちゃん、動揺し過ぎて話し方おかしくなってる。」

と、アシュトンさんが小声で言ってくるが、もう、それどころじゃない。

「悪い、ジョアンちゃん。バレた。」

と、リュークさん。

リュークさんとレオさんにはアラン兄様には内緒にと言っておいたのに、問題児が居なくなってスッキリしたからなのかディーンさんがアラン兄様に「お陰で掃除が出来ました。さすがランペイル家」とペラペラ話したらしい。


おのれ、ディーン。

この恨み、晴らさでおくべきか……否、面倒だからやめとこ。

また、ハーブ貰えば良いや。今度は……


「って、聞いているのか?ジョアン!」

「はい!もちろんです!!」

余計な事を考えていたせいか、正座をさせられて、アラン兄様の為になるお話が延長したのはいうまでもない。


パンッ「さっ、気を取り直して、寿司握っていこー!」

私が、柏手を打ち空気を変えて言う。

「ぶふっ、さっきまで怒られていた人とは思えないな。」

「まあ、それがジョアン様の良いところでしょうね。」

「メンタル強っ。」

「男前っすね。」

「さすがだ。」

と、皆んなが口々に言うけど、気にしなーい。

「じゃあ、まず私がやってみるね。……まず、手を軽く濡らす。あっ、濡らしすぎはダメだからね。で、右手で酢飯を……このぐらい取る。だいたい10gかな?それを軽く握る。左手でネタを取ったら、その上に酢飯をのせて半回転させて軽く握る。はい、出来上がり。」

「「「「「おぉー。」」」」」

「コツは、あまり酢飯を握らない事。」

「おにぎりまでは、力を入れなくて良いってことだな。」

「そうそう。」


それからひたすら皆んなで握り寿司を作る。私はその作業を皆んなに任せて、ストレージからイジョクさんに作ってもらったナイフを取り出す。それを使いキューカン(きゅうり)と厚焼き卵を飾り切りにしていく。前世、一時期テレビで見た飾り切りにハマり、何度も練習した。ついでに、ストレージから取り出したデザート用のフルーツも切っていく。

「うわっ!」

集中していたからか、顔を上げると皆んなが私を囲んで私の手元を見ていた。

「キューカンをこんな風に切った事ない。」

「イチベリーがバラだ……。」

「リップルはイエウサギ?こっちのミランジは、鳥だ。」

「初めて見た……。」

「なんて器用な。」

ちなみにイエウサギとは、小型サイズの大人しいウサギの魔獣だ。大型のは角の生えたホーンラビットで、こちらは人を襲うぐらいに凶暴。美味しいけどね。


握り寿司ができ、お吸い物も作り終わり、デザートのシフォンケーキは家で焼いてきたから、あとは先程のフルーツを生クリームと一緒に飾るだけ。

「じゃあ、皆んなで一旦お茶ーー」

「あっ、いましたー!……ジョアン様、お着替えしますよ。」

「へっ?」

厨房に入って来たのは、侍女トリオの1人ピアさん。そこへやって来たのは、同じく侍女トリオで来春にはアーサーとの結婚が控えているセーラさん。

「アシュトン料理長、もうこちらは大丈夫ですよね?」

「あっ?ああ、大丈夫だが。」

「じゃあ、行きますよ。お着替えしましょう、ジョアン様。」

「いや、あの、今、皆んなでお茶を……。」

「はいはい、お茶は逃げませんからね〜。」

「えっ、あーー。いやーー助けてー。」

と、私は2人に両腕を取られて引き摺られるように厨房を出た。


「……普通、ご令嬢って着飾るの好きなんじゃないんですか?」

「まあ、普通はな?」

「でも、ジョアンちゃんだしな。」

「「「「「あー、確かに。」」」」」

と、アシュトンさんをはじめ料理人がお茶を飲みながら、話していたことは私は知らない。




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