399.正当防衛
「おい!!聞いてんのか!口の減らねーガキが!……ガシャン……クッ。」
近寄ってきた料理人は私を突き飛ばそうといていたらしいが、アラン兄様とヴィーにもらったペンダントの付与のお陰で突き飛ばそうとしていた料理人が逆に跳ね返され、作業台に背中を強打したようだ。
「あの、大丈夫ですか?」
「ガキ!お前何をした!」
「いや、俺は何もーー」
「嘘を言え!今、隊の方を呼んでくる!動くなよ!」
と、1人が走って行ってしまった。
ヤバい……。わたしに非はないけど、ここでアラン兄様が来ちゃったら……ヤバいわ。
どうしよ、どうしよ。
そろりそろりと出口に歩みよっていたところを見つかり、扉の前に陣取られてしまった。
「逃げんじゃねーよ!」
しばらくすると、料理人に呼ばれた近衛隊が2人面倒くさそうにやってきた。
「あっ、リューク様。コイツです!」
「ん?こんな子供に突き飛ばされたっていうのか?逆ならまだしも……。」
「えーっと、俺はレオだけど、君は……えっ!?あれ?」
連れて来られたのは、休みだったのかラフな格好をしたリュークさんとレオさん。レオさんは私の目を見て何かに気付いたようだったので、素知らぬ顔で名乗る。
「えっと、ジョ……ショウです。」
「……ショウ君があの料理人を突き飛ばしたの?」
「いえ、あの人から突き飛ばーー」
「黙れ!!嘘を言うな!!」
と、料理人達からヤジが飛ぶ。
「黙るのはこの子じゃなく、お前だが?」
リュークさんが料理人達を見ると、黙り込む。
「いいぞ、坊主続けろ。」
「あっ、はい。突き飛ばされそうになったんですけど、ペンダントのお陰で助かったんです。」
「ペンダント?見せてみろ。」
と、リュークさんに言われたので胸元からペンダントを出す。
「ん?あれ?これって……。おい、これどうした?」
「従兄弟に貰いました。」
「従兄弟……。ん?んーー!?あれ?もしかしてジョーー」
「ショウです!!」
「お、おう。だな、ショウだったな。ちなみに、ここにはなんで来たんだ?」
「王宮の厨房で作ったスープを持って来たんですけど。」
「あっ、これか?」
「はい。米に合うんで、そのことをお伝えしたら、近衛隊では米なんか出さないし、そんな物持って帰れって言われて……。ね?アシュトン料理長?」
「えっ?あっ、はい、その通りです。」
「このスープは、アシュトン料理長が?」
「いえ、ジョアンちゃんが……。」
と、チラッと私を見る。
「でも、持って帰ります!こちらの料理人の方が言うには、ど田舎の辺境伯の娘が作った物なんて、近衛隊の方の口には合わないし、忖度で美味いって言ってるだけらしいので。忖度されるぐらいなら、自分達で食べます。」
どんがら汁の入った寸胴鍋を、手をかざして一瞬でストレージにしまう。それを、見た料理人達は息を呑む。そんなことを出来るのは、高位魔術師だけだと思っていたから。
「それから、どこにあります?」
と、料理人達に向かって言う。
「な、何がだ?」
「配給されている分の米です。どうせ近衛隊に使わないのなら回収しても構いませんよね?」
「は?米、ここにもあるのか?なんで出さないんだ?」
と、リュークさん。その言葉に、料理人達は視線を逸らす。
「『我々のような上位貴族は米なんか食べない』んですよね?だから、持って帰るので出して下さい。」
パントリーから、米を持って来たので受け取ろうとすると、右手首を掴まれる。
「このクソガキが!調子のってんじゃねーぞ。平民のくせに!」
と、手首を掴まれ持ち上げられる。
「「「止めろ!」」」
と、アシュトンさん、リュークさん、レオさんが言うが料理人は言うことを聞かない。
「リュークさん、これって正当防衛ですよね?」
「えっ?まあ。……ほどほどに。」
「はーい。……フッ。」
「うっ……。」
背の高い料理人に持ち上げられていたので、左手の手刀で首に一撃を込めて意識を刈り取る。
パチパチ、パチパチ……。
拍手の音がする方を見ると、1人の顎髭の料理人が立っていた。
「いや、なんとも手際の良い。……初めまして、副料理長のディーン・ウィステリアと申します。」
「あっ、ご丁寧にありがとうございます。えっと……ショウと言います。」
「フッフッフッ、そうですか。ちょっとお話をしたいので、場所を移しましょう。アシュトンも良いかい?出来ましたらリューク様、レオ様も。」
厨房の奥にある扉を開けると、料理長の執務室のようで、中に入るように促される。最後のレオさんが入ると「ちょっとお待ち下さい」と、ディーンさんは再び厨房へ行った。扉を挟んで聞こえてきた声は
「言い訳はいらん!……コイツをさっさと起こして、出て行け!!問題を起こしたら、次はないと言っていただろうが!!既に、お前らの家には連絡をしている。荷物をまとめて立ち去れ!」
ディーンさんが戻って来ると、手にはティーカップとティーポットののったトレイがあった。
「お待たせ致しました。」
ティーカップを配られ、飲んでみるととても良い香りのハーブティーだった。
「……美味しい。」
「我が家で摘んだレモンバームです。お口にあって良かった。」
あっ、ハーブの名前は前世と同じなんだ……。
確かに、紫蘇もシソだった。
「あー、で?ショウって……ジョアンちゃんだよな?」
と、リュークさん。
「はい。そうですよ。ウィステリア様、改めてご挨拶致します。……ランペイル辺境伯家、長女、ジョアン・ランペイルと申します。勝手な事をして、申し訳ありませんでした。」
「いえ、あれはウチの料理人が悪かったんです。あの4人以外はちゃんとした料理人ですから。」
「ところで、なんでジョアンちゃんが変装までして兵舎に?」
と、リュークさん。
「えっと、興味本意です。各兵舎を見てみたかったんですけど、兄様達が皆んなダメだと言うから。」
「あー、なるほどな。わからないではない。」
「ですよね?ジョアンちゃんを令嬢の格好のままだと、ダメだってんで変装したんだよ。」
「アシュトン……それでも、危なかったろ?もう少し考えろよ。俺宛に来てくれたらいいものを。」
「すまん、ディーン。」
アシュトンさんとディーンさんは、同期らしく男爵家と伯爵家だとしても気のおけない友人らしい。
「ところで、先程のスープって本当に持って帰るのか?」
と、リュークさん。
「でも、近衛隊にはそぐわないんじゃ……。」
「ジョアンちゃんの料理を食べ損ねたとなると、アランが荒れる。頼む、置いて行ってくれ!」
「ランペイル嬢、私からもぜひ!アシュトンから、ランペイル嬢の料理の腕は聞いていますし、米に合う料理というのも気になります。」
そこまで言われたら、私も鬼じゃない。しばらく料理の話をして厨房に移動し、ストレージから寸胴鍋を取り出して私とアシュトンさんは兵舎から出た。
アシュトンさんがグッタリしているので、べっこう飴ジョアンSPをあげた。今から、寿司握らないといけないからね〜。
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