40.おばあちゃん、啖呵を切る
「お嬢、落ち着いたか?」
エイブさんの膝の上で、お茶を飲む。
大きな手で、不器用なりに頭を撫でてくれる。
「うん、大丈夫」
「お嬢、屋敷の人間は誰も気持ち悪がったりしねーよ。驚きはしたがな。ここ最近のお嬢を見てたら、納得したんだよ。
ただ、みんな心配なんだよ。ウチの領なら守ってやれるが、学院に行くようになると守れないからな」
「そうそう、ただでさえ可愛いのに、とんでもないスキルと前世の記憶持ちなんて、誰でも囲いたくなるっすよ」
あー確かに、お父様たちも王宮にーとか言ってたわねぇ。
「でも、今日から護身術を訓練するんだろ?俺たちも何かあったら手伝ってやるからな」
「ん?俺たち?」
「あれ?知らないんすか?料理長は、元魔物討伐団。副料理長と俺は、元冒険者っす。ランクA止まりっすけどね。アニーは、サラと訓練中っす」
冒険者!?
ファンタジーきたーーーー!!本当にいるんだ。
ってか、ランクAって凄いんじゃないの?
「ランクAってスゴイね。でも、なんでココで料理人してるの?」
「あー、俺はアーサーと一緒にパーティー組んで、色々と旅しながら冒険者やってたんすけど、ランペイル領で依頼を受けた時に、私兵団と知り合いになって領民に対しての考えとか、仕事への姿勢とか色々聞いていたら感銘を受けて、ここの領地で根を張りたいって思ったんすよ。でも、ここの私兵団の実力が半端なくて、俺らじゃ足手まといになるなぁーって。だから、そいつらの後押し出来るならって、料理人として置いてもらってるんす」
「へぇ〜、そうなんだ。でも、自分の実力を見誤らないで、自分の出来る事を探してやるってスゴイね。縁の下の力持ちってことでしょ?その考え方が出来る2人を、私、尊敬するよ」
「っ!!」
ベンが急に背を向けた。
あれ?私、何か失礼なこと言っちゃったかしら?
えっ、どうしよう?
オロオロしていると、エイブさんに頭をポンポンされた。
「大丈夫だ、お嬢。ベンは嬉しいんだよ」
「嬉しい?なんで?」
ベンが振り向くと、目元が赤くなっていた。
「お嬢さんみたいに、面と向かって俺らの考えや行動を、尊重してもらった事ないんす。冒険者仲間からはバカにされるし、ランクAの持ち腐れだって言われるし」
「はぁー!?何?持ち腐れって、自分がどうしようが勝手でしょーよ!誰かの許可いんのかよ!!文句あんなら、師匠たちより上のランクS取ってから言えって!!どーせ、自分の実力じゃランクAも取れねー奴が言ってんだろうけどよ!」
「「……」」
2人の目がまん丸になってる。
はっ!!やっちまったーー!!
しっかりと前世の口調で、啖呵切っちまったー。
「おほほほ。私としたことが、つい心の声が……」
「「あはははーーっ」」
「お嬢、それが素なのか?それとも前世の名残りか?」
笑いすぎて涙目になっているエイブが聞いてくる。
「えっ?何の事でしょう?私には、わかりませんわ。おほほほ」
「お嬢さん、もう無理っすよ。あんだけ、しっかり啖呵切ってんだから」
んー、確かに、もう誤魔化せない。
それに、厨房の中だけでも、素が出せたら楽かも。
「ははっ、無理かー。えーっと、前世の名残りだね」
「お嬢、もう隠さなくていいぞ。厨房ではな」
「ありがとう、エイブさん。ここだけでも、楽になれるのはありがたい。前世では、平民だったのに……令嬢って超面倒くさい」
「あー、まー、そこは諦めろ」
「ははっ、だね。あっ、師匠、マジでカスの言ってることなんて無視しときゃー良いよ。どうせ負け犬の遠吠えなんだし」
「お嬢さん、カスって」
「あっ、えーっと、クズ?」
「あはは、あんま変わらねー。でも、ありがとうございます。何か吹っ切れました」
「なら、良かった。あっ、この口調の事は、お父様たちには内緒でお願い。バレたら、ヤバい」
「どーしよっかなぁー?」
ベンがふざける。
くーーーっ。弱味握られてしまったわ。




