394.最後の晩餐の為に
「ハーイ!飴ちゃん、元気〜?」
「……ねぇー、やっぱその呼び方止めない?」
「え?なんで?良いじゃない。キャンディなんだから飴ちゃんでしょ?」
「……まあ、いいけど。で?今日は何?」
「今日は、天ざる蕎麦と鶏ごんぼの炊き込みご飯よ。小鉢は、切り干しデーコン(大根)の煮物とキューカン(きゅうり)の浅漬け。」
「イェーーイ!!」
貴族牢で対面し、前世のことを話してから仲良くなった。名前で呼ぶぐらいに。だからリーダス監獄に移送されるまで、日本食を食べさせてあげようと思い、陛下達にお願いをしてこうやって毎日届けて、柵越しだけど一緒に夕食をとっている。ちなみに朝食と昼食は、王城の料理長アシュトンさんにお願いしている。
「ん〜、天ぷらサクサクー。コンビニ弁当だとしなしなの天ぷらだから嫌いだったんだよね〜。」
「確かにね〜。でも、家で作らないの?」
「あー、ママ……前世のママは、揚げ物やると台所汚れるからって作らなかった。」
「何それ?じゃあ、唐揚げとかフライとかは?」
「モグモグ……買ってきたやつ。モグモグ……それはそれで、美味しかったけど。」
「はぁー。前世のご両親に説教じゃなくて、一度殴りたくなってきたわ。」
「キャハハハハ。是非お願いしたい!」
デザートにリモンのシャーベットを食べながら、飴ちゃんが話し出す。
「あのさー、キャサリーヌ様に手紙渡して貰いたいんだけど……良い?」
「キャシーちゃんに?もちろん。」
「直接謝れたらよかったんだけど、きっと無理だろうから……。」
飴ちゃんは、現実を理解して今までどれだけ周りに迷惑をかけたか、とても反省していた。だから、誰から言われることもなく、自分からキャシーちゃんに手紙を書いたようだ。
「こうやってジョアンと食べるのも、明日で終わりか〜。もっと日本食食べたかったなー。」
「最後の晩餐は何が食べたい?」
「ん〜お寿司!って言っても、この世界は生魚食べないもんね。」
「海に近い所では食べるよ?まあ、日本みたいに色々な魚の種類があるわけじゃないけどね。」
「うっそ!?でも、海まで遠いから無理ね。……じゃあ、カレーライス。」
「了解!デザートは?」
「何かケーキが食べたい……。」
「うん、わかった。じゃあ、また明日ね?」
「うん、バイバイ。」
*****
私はその足で、キャシーちゃんのいる離宮に向かう。
トントントン「ジョアンです。」
ガチャ「どうぞ、お嬢様が奥でお待ちです。」
扉を開けてくれたのは、カッター公爵家の時からのキャシーちゃんの侍女、ビビさん。
「ありがとうございます。あっ、ビビさん、これ良かったら。」
と、渡したのは私特製のドライフルーツのパウンドケーキ。
「まあ!ありがとうございます。」
いつもキリッとしてるビビさんが、ふんわりと優しい笑顔になる。ビビさんは、こちらで一般的なお菓子は、砂糖が多く甘すぎる為に嫌いだったらしいが、一般寮で私のお菓子を食べてハマったそうでちょこちょこ差し入れしている。
奥へ進むと、キャシーちゃんがソファーで本を読んでいた。
「ごめんね、キャシーちゃん。こんな時間に。」
パタン「いいのよ。今日も行ってきたんでしょう?どうだった?」
本を閉じて、キャシーちゃんが言う。
「うん。元気だったよ。あっ、コレ、飴ちゃんからキャシーちゃんにだって。一応、サーチしたから何も変な物は入ってないよ。」
と、手紙を渡す。
「私に?」
手紙を受け取り、首を傾げる。
「今、読んでも良いかしら?」
「うん、もちろん。読んであげて。」
私はビビさんが淹れてくれたお茶を飲みながら、キャシーちゃんが手紙を読み終わるのを待つ。
「……明日が最後なのよね?」
手紙を読み終わったキャシーちゃんが、顔を上げて聞く。
「うん。だから、明日朝一でファンタズモに行って、魚仕入れてくるわ。」
「ファンタズモ?魚?」
「うん。寿司が食べたいって言うから、新鮮な魚をね。」
「生の魚なんて食べれるの?」
「うん。美味しいよ。」
「そう……。あの……明日なんだけど……私も一緒に食事しても良いかしら?」
キャシーちゃんが恐る恐る聞いてくる。
「ん?手紙に何か書いてあったの?」
「あっ、何も変な事はなかったわよ。最初から、謝罪の言葉がずっと綴られていたわ。ただ、ジョアンのように私も出会い方が違えば仲良くなれたのかも知れないって思って……。」
「そっか。良いと思うよ。後で聞いてみるね。」
「ありがとう、ジョアン。」
それから、就寝時間までキャシーちゃんと明日のことについて話し合った。
*****
おはよーございます。ただ今、早朝の6刻。
冬季のこの時間は、まだ薄暗い。私は、眠い目を擦りながらも何とか準備をして、自室を出る。
「「おはようございます、ジョアン様。」」
扉を開けると、サラとベルデが立っていた。
いつからいたんだろ……。
一応、起きる時間は伝えていたけど。
「おはよう。」
2人に挨拶をしながら、リビングへ向かう。扉を開けると、フウちゃんとライちゃんが既にいた。
「姉様、おはようございます。」
「お姉様、おはようございます。」
「おはよう。」
私がソファーに座るとサラがカフェオレとサンドウィッチを私達の前に出してくれた。この時間だから、軽食までは期待していなかったので驚いた。
「ベンからです。」
わざわざいつもよりも早く起きて作ってくれたらしい。
「ありがとうって伝えておいて。」
私達は、ベンのサンドウィッチを食べながら、今日の予定を話す。
「ファンタズモに着いたら、すぐに魚を調達して、それからお屋敷ですか?」
と、フウゴ。
「んー、先に屋敷の方かな?」
「お姉様が、戻るのはいつぐらいですの?」
と、ライラ。
「遅くてもランチの後かな。」
ファンタズモには、私と双子ちゃんと契約獣達、そして双子ちゃん付きの従僕シンと侍女になったメーガン、そしてネイサンとザックの兄弟、バースとテトの双子で向かう。ただ、私と契約獣達は魚を調達したら転移で帰る予定。ネイサンとザックは、初めてファンタズモに行くシン、メーガン、バース、テトの指導役兼お目付役だ。




