392.後悔したくない
騎士団がジリジリと飴ちゃんに近づいて行くが、暴走した魔力で中々距離を詰められない。【火】属性の飴ちゃんの周りは、火の海となっている。その中心で飴ちゃんが、泣いている。
このままじゃ、飴ちゃんが殺される。さすがにそれは……。
転生して、前世のゲームと混同して周りに迷惑かけたり、ザックを傷つけたことは許されない事。
分かってる……分かってる事だけど、さすがに目の前で殺されるのは、あまりにも残忍じゃない?決して仲良いわけでもないし、私も危なかったけど……。でも、飴ちゃんをどうにかして助けたいって、無意識に思ってしまう。助けられないのは、重々承知しているけど……。
「パール……。私、行く。」
『あの娘の所へ行くと言うの?』
「うん。あのままじゃ、飴ちゃんが……ううん、私が後悔する。」
『本当に、ジョアンは人が良すぎるよ。』
「ごめん、ロッソ。」
『しょうがないわね。援護するわ。』
そう言うと、パールは私の頭から水を掛ける。
「ありがとう。じゃあ、行ってくるね。」
魔力の圧に耐えながら、一歩一歩ゆっくりと飴ちゃんに近づく。それを見ていた陛下達や騎士団は慌てる。
「ジョー!何をしてるんだ!!」
「ジョアンちゃん、離れて!!」
ジーン兄様とエリック様が叫ぶが、私は飴ちゃんから視線を外さず動きを止めない。
「っ!!……兄様!……お願い、私に任せて!」
そんな私を、拒むように飴ちゃんの《火矢》が飛んでくる。それによって、私のドレスに火が移りパールが消火してくれる。火の海になっているフロアも、私の歩く所をパールが消火してくれる。手の届く距離まで来た時には、ドレスは所々焦げ付いたり、破けたりしているが、アクセサリーの付与のお陰で私は無傷だった。
痛みに少し眉を寄せた顔をしながら、へたり込んでいる飴ちゃんの手にそっと自分の手を重ねる。
「っ!!」
私が近づいていたとは思わず驚く飴ちゃん。
「ブラン嬢、もう大丈夫、大丈夫だから。あなたは、1人じゃない。……落ち着いて、深呼吸を。ゆっくりでいいから。」
緊張がなかなか解けず最初はぎこちなかったが、徐々に落ち着いた深呼吸ができるにつれ、吹き荒れる魔力が薄まっていった。
「ほら、大丈夫だったでしょ。」
と、ニコッと笑う。
「どうして……。」
と、その呟きを最後に飴ちゃんは意識を失った。頭を打ち付けないようにフォローする。
私達を見ていた騎士団と魔術師団は近寄り、意識を失っている飴ちゃんの両手首に魔法封じの腕輪を着けていく。そして、騎士団によって運ばれて行った。
「「ジョアン!!」」
「「ジョー!!」」
私の元にお父様、お母様、ノエル兄様、ジーン兄様が駆け寄る。ノエル兄様は、すぐさま自分のマントを私にかけてくれた。
「どうして、あんな事をしたんだ!!一歩間違えたら……。」
「ごめんなさい、お父様……。」
「もう、無茶ばかりして……。」
と、お母様は優しく私を抱き締めてくれる。お父様は、私とお母様をまとめて抱き締めてくれた。
「でも、良くやった。」
「もう無茶しないようにね。」
と、ジーン兄様とノエル兄様は、私の頭を撫でて騎士団や魔術師団に戻って行った。
「ジョアンちゃん!」
「「「「ジョアン!!」」」」
「「「ジョアン嬢!!」」」
ベルデが結界を解除してくれたので、陛下達も私の元に集まってくる。
「何をしてるの!危ないでしょ!!」
と、凄い剣幕の王妃様。
「ごめんなさい。同郷として、どうにか助けたいって思って……。陛下、勝手な行動を申し訳ありませんでした。」
「いや、ジョアン嬢が無事ならいい。それより王妃、ジョアン嬢に着替えを。」
「ええ、そうね。誰かー。」
王妃様が呼ぶと、侍女トリオが私を案内してくれる。
念入りに洗ってもらい、ヘアセットからメイクまでしてもらう。そして、私にピッタリサイズのドレスを着せて貰った。しかもデザイン的に、ニッキーさんの店、グロッシー・バタフライのドレス。いつ用意したんだろ?
「ありがとう。」
と、侍女トリオに言う。
「どう致しまして。ただ、あんな無茶はもうしないで下さいましね。」
「本当ですよ!ジョアン様の側に行けなかった王妃様が、結界を出ようとして大変だったんですよ。」
「私達だって、出来ることなら側に行きたかったんですから!!」
と、侍女トリオに口々に言われる。
「ご、ごめんなさい。もう、無茶しま……気をつけます。」
「「「はぁー。」」」
あんな命の危機があったにも関わらず、しないと言わないジョアンに溜息しか出ない。
*****
会議室へ入ると、既に関係者が揃っていた。
「遅くなりまして、申し訳ありません。」
と、カーテシーをする。
「いや、構わない。身体の方は大丈夫かい?まずは、座りなさい。」
と、陛下。
「はい、ありがとうございます。身体は、ジュリー叔母様の付与したアクセサリーで大丈夫です。」
と、ペンダントを撫でながら言う。
「そうか。なら、良いが。……ライアン。」
陛下は、ライアンさんに指示すると、ライアンさんは会議室から出る。そして、しばらくするとライアンさんと共に料理長のアシュトンさん、侍女トリオがワゴンを押して戻って来た。
「軽食を用意した。食べれる者は食べてくれ。」
陛下が言うと、5人は全員に軽食を配膳した。準備してくれたのは、チーズとトメットのリゾット。小腹が空いている時には、ピッタリ。温かく美味しいリゾットに皆んな自然と口元が緩んでいるようだった。
「お茶漬けも良いが、リゾットも美味いな。」
と、陛下。
「ええ、ちょうどいい塩味とトメットの酸味が美味しいですわ。」
と、王妃様。
その2人の意見に、皆んな頷きながら食べ進め、気づくと全員が完食をしていた。
「落ち着いたところで、今後について話しておこう。まず、ブラン男爵については、取り潰し。庶子キャンディ・ブランについては、魔力暴走の為に処刑か終身刑となるが……。」
と、陛下は一旦話を止め、私を見て再び話し出す。
「幸いにも、ジョアン嬢の契約獣のお陰で王城も崩壊する事もなく、誰1人死ぬ事もなかった。よって、リーダス監獄での終身刑とする。」
「「「「「「「「「「っ!!」」」」」」」」」」
陛下の決定に、全員息を飲んだ。




