387.元魔物討伐団レディースとの再会
王城での夜会は、デビュタント以来。相変わらず、きらびやかなホールには宮廷楽団の演奏が流れ、入場してくる参加者を迎え入れていた。その中、私はヴィーのエスコートでお父様、お母様と共に入場する。
「ジョアン、上位伯爵家までだから変な輩は少ないと思うが、なるべく知り合いの所にいろよ。」
と、隣を歩いているヴィーが目線そのままに私に話しかけてきた。
「うん、わかった。」
私もそれに倣って返事をする。
先に入場していたバースト家やレルータ家と話をしていると、私達の入場から程なくして、ディーゼル侯爵家が入場してきた。ディーゼル侯爵家からは、お父様の元上司のドミニクおじ様とレティおば様、エレーナ先輩とエスコートするのは細身のイケメンさん。ちなみに嫡男のメルヴィンさんは近衛隊でお仕事中。
「やあ、スタン。変わりないか?」
と、ニカッと笑いながらお父様の肩をバシバシと叩いているドミニクおじ様。
「……ええ、お陰様で。ディーゼル侯爵様も相変わらずですね。」
「ごめんなさいね。あら?ジョアンちゃん?まあ、大きくなって。エレーナの後輩なんですって?」
と、レティおば様。
「はい。ご無沙汰しております、レティおば様。エレーナ先輩には、公私共にお世話になっております。」
「そうそう、紹介するわね。末っ子のランスよ。ジョアンちゃんと同じ学年だけど、魔術と魔道具しか興味がなくて一般科では、ずっとBクラスだったから知らないわよね。」
「ディーゼル家、次男のランスと申します。ジョアン嬢のことは、武術のクラスで一緒でしたよね?話したことはないですけど。」
メルヴィンさんと同じ、錆色の髪の毛は天パなのかクルクルしたクセがある。瞳はエレーナ先輩と同じ、切れ長の茶色の瞳。そして、黒縁のメガネをかけている。
「はい、一緒でしたね。身体能力が高かったので、同じく騎士科に進むものだと思っていましたわ。」
「えっ?覚えてくれていたんですか?」
「ええ、マッさ……マヌエルさんとよく話に夢中になっていましたよね?」
「あ〜、確かに。魔術の話に夢中になってよく武術の先生に怒られていました。」
「ちょっと、ランス!そんなことしていたの?だから、Bクラスなのよ!」
「いや、姉上!今は、Aクラスですから!」
エレーナ先輩とランスーー同じ年だから、お互いに呼び捨てで呼ぶようになったーーと話をしていると、リバークス侯爵家の入場がアナウンスされる。
美丈夫のリバークス侯爵がエスコートするのは、これまた美女。カズール先輩はいないようで、ちょっとがっかり。リバークス侯爵は、何人かと挨拶を交わしながらこちらへとやって来た。
「こちらにいらっしゃったか。私の妻がご挨拶をしたいと言うのでね。」
いつもは、眉間に皺が寄りがちなリバークス侯爵も奥様の前だと違うらしい。とてもにこやかな笑顔だ。
「皆様、ご無沙汰しております。……ジョアンちゃん、覚えているかしら?」
と、微笑む美女。
えっ?カズール先輩のお母様だよね?私、面識あった?
でも、どこかで会ったことのあるような……。
「あっ、もしかして……エマ様?元魔物討伐団で、お父様の部下でいらした。」
「うふふ、そうです。エマ・リバークスですわ。まぁまぁ、本当に大きくなられて。マーガレット様に似てお美しくなったから、ランペイル辺境伯もご自慢でしょう。」
「エマ?ジョアン嬢を知っているのかい?」
と、リバークス侯爵。
「ええ。あなた、覚えていませんか?昔、元魔物討伐団の女性団員がランペイル家でお茶会をした時の事を。」
「あー、確か、そんな事があったな。近衛隊であったランペイル前辺境伯夫人からのご招待で。」
「その時、ジョアンちゃんともご一緒したのよ。ね?」
「はい。」
その後、宰相様、ホークス公爵家が入場し、宰相様の奥様を見ると、これまたエマ様と同じ、元魔物討伐団のレディース、オリビア様だった。
「ジョアンちゃん、元気だった?大きくなったわねぇ〜。……旦那様から聞いたわ。本当に色々とありがとうね。ジョアンちゃんのお陰で、今のホークス家があるのよ。感謝してもしきれないわ。」
「オ、オリビア様!?頭を上げて下さい。私は、ただ自分が食べたい料理を作って、差し入れただけですから。それに、オリビア様やエマ様とのお茶会で、私の目標が出来たのですから感謝するのは私の方です。ありがとうございます。」
と、今度は私が頭を下げる。
「目標って……ジョアンちゃん、あなた……。」
と、エマ様。
「はい。今、騎士科です。在学中はノア先輩とカズール先輩に、良くして頂きました。」
「あら?カズールが?」
と、なぜか驚いているエマ様。
「ノアからは聞いているわ。なんでもジョアンちゃんから色々と美味しい物を食べさせてもらってるって。ごめんなさいね。昔から、美味しい物に目がない子で。きっと、ホルガーの血ね。」
「あら、オリビアだって昔からジョアンちゃんのレシピの料理食べていたのでしょう?私なんて、先日、ヴィックからジョアンちゃんの料理を食べたこと聞いて、2、3日口聞かなかったのよ。そしたら、ダッシャー商会のケーキを買ってきてくれたわ。あそこのケーキも、ジョアンちゃんのレシピだって調べたみたいで。」
ホルガーおじ様、本当に差し入れ持ち帰っていたんだ……。
そして、リバークス侯爵、ダッシャー商会のケーキのレシピが私のって、どうやって調べたんだろ?まさか《カラス》使ってないよね?
「えーっと、私のレシピで良かったらお教えしますよ?」
と、提案すると、いかに私のレシピの料理を食べたか話していた2人が同時にこちらを向く。
「「ぜひっ!!」」
「は、はい。」
「ほら、オリビアもエマもそんなにジョアンちゃんに群がらない!困っているでしょう?」
と、レティおば様が助けてくれた。その後ろでは、エレーナ先輩とランスが笑っている。
「まあ、レティ様?私、知っているんですよ?エレーナ様経由で、ジョアンちゃんのスイーツを何度も食べている事。」
と、頬を膨らませるエマ様。
「な、なんでそれを……。ヴィクターね?後でシメる……。」
レティおば様とリバークス侯爵は同級生で、一般科の時は互いにライバル視をしていたほどの間柄らしい。
「でも、いつもドムが一人占めするのよ。ねぇ?」
と、エレーナ先輩とランスに同意を求めるレティおば様。
「確かに、いつもお父様が一人占めしてますね。あの頭であの顔なのに。」
「ホント、大人気ないよね?あんな図体なのに甘い物好きって。」
と、エレーナ先輩とランス。
なかなか辛辣なコメントをする姉弟ですね。
これは、レティおば様の教育の賜物ですか?
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