39.おばあちゃんの知恵袋
今日から護身術の訓練が始まる。
昨日は楽しみすぎて眠れなかった、なのに、また6刻前に起きてしまった。
長年の習慣って、抜けないものね〜。
さっ、朝の散歩に行きましょう。って、言っても1人だから、屋敷の中だけど。
自室を出て、歩いていると侍女達が窓ガラスを一生懸命拭いていた。
「おはよう。みんな朝からお掃除、お疲れ様〜」
「あっ、お嬢様おはようございます。早いですね」
早朝から汗だくね。
「あのね、窓ガラス拭く時に、飲み終わった茶葉を使うとキレイになるよ」
「「「えっ!?」」」
「えーと、飲み終わった茶葉を、もう一度煮出して、それで拭くと汚れがつきにくくなるの。あと、玄関とかは煮出した後の茶葉をまいて、ほうきで掃き取ると良いよ。茶葉の湿り気のおかげで、ホコリが立たず楽に掃除ができるんだよ」
82才、おばあちゃんの知恵袋だよ。
紅茶は毎日、何度も飲むから茶殻もいっぱいあるだろうしねぇ。
「私、ちょっと厨房行ってきます」
1人の侍女が厨房へ走って行った。
散歩を再開しましょう。
浴室の前を通ると、これまた侍女達が汗だくで掃除してる。
「おはよう〜。朝からお掃除、ありがとう」
「あっ、おはようございます。お嬢様」
一生懸命、鏡を磨いている侍女が挨拶をしてくれる。
「鏡、ジャガトの皮で磨いて、水で流すとキレイになるよ」
「「えっ?」」
「ジャガトで磨くと、曇り止めにもなるんだって」
「ありがとうございます。ちょっと厨房、行ってきます」
そろそろ、厨房に行こうかなぁ。
「おっはよーございまーす」
「おう、お嬢。今日も早いな」
エイブさん、朝から声デカいな。
「で、お嬢、朝から何やった?」
「ん?何やった?って?」
「さっきから、侍女が入れ替わりやって来てゴミ持って行ってんすよ。お嬢さんでしょ?」
「あっ。いや、掃除のコツを教えただけで……」
「「あぁー」」
「はぁー、相変わらず規格外だな、お嬢は」
エイブさんが呆れた顔をする。
いやいや、役に立つこと教えただけじゃない。
解せぬ。
「あはは、お嬢さん。そんなに顰めっ面してたら、可愛い顔が台無しっすよ」
そう言いながら、頭をポンポンする。
「なぁーお嬢、その掃除のコツってのも前世の知識なのか?」
「っ!!」
えっ?どうして知ってるの?
エイブさんは料理長だから良いとして、ココで言って良いの?師匠いるよ?
私が動揺してオロオロしてると、フワッとした浮遊感の後、視界が高くなった。エイブさんに抱っこされていた。
「大丈夫だ、お嬢。昨日の夜、使用人たちが呼ばれて旦那とグレイさんから説明があったんだ。だから誰もお嬢のこと、変に思わねーよ。安心しろ」
「……気持ち悪くない?」
ヤバい。泣きそうになってる……。
頑張れ、5才の身体。
「何言ってんすか?逆に、俺は尊敬するっすよ。色んな料理やらお菓子やら知ってて。お嬢さんの方が、師匠っすよ」
「うぅ〜、あ、ありがどぉ〜」
ダメだ。涙腺崩壊。




