382.頬張りすぎ
私は、アラン兄様と一緒に王城の厨房へ向かう。
「アラン兄様、何が良いと思う?」
「やっぱり肉だろ。」
「さすがに、それだけじゃあ……他は?」
「この前の、ナポリタンとかはどうだ?」
「肉にナポリタン……あっ、トルコライスだ。」
「トルコライス?」
「うん。ナポリタンとトンカツとピラフって言う、炊き込みご飯をワンプレートにするの。」
「トンカツ、良いな。」
王城の厨房へ行くと、既に連絡があったようで料理長のアシュトンさんと料理人達が待っていてくれた。
「ジョアンちゃん、待ってたよ。」
「こんにちは、アシュトンさん。急にごめんなさい。」
「良いんだよ。こちらとしても、勉強になるからさ。で?何作る?」
前向きなアシュトンさんに、私も嬉しくなる。
「今日は、ナポリタンとトンカツとピラフのワンプレート、トルコライスを作ろうと思います。」
「ナポリタンってのは、スパゲッティのトメットソースだな。トンカツはわかるぞ、フレッド殿下が好きだからな。ピラフってのは何だ?」
「炊き込みご飯だよ。よし!作ろう!!」
「「「「おー!!」」」」
「ピラフの材料は、エビ、タマオン、キャロジン、ピッパー、米。まずは野菜は微塵切りにして下さいね。」
「「「「了解。」」」」
その間に、私はエビをストレージから出して殻を剥く。その殻と頭は、ビスクスープにする為に取っておく。
「野菜終わったぞ。」
「じゃあ、それをバターで炒めて火が通ったら、米を入れてまた炒めるの。」
「ご飯じゃなくて、米?そのまま?」
「そう。後で、スープを入れて炊くの。」
「なるほど。」
炒めた野菜と米に、コンソメスープと塩、胡椒を入れて、蓋をして弱火で炊く。炊けたらバターを追加して蒸らせば出来上がり。蓋を取ると、湯気と共に良い匂いが漂よう。
「……はい、味見どうぞ。」
「「「「美味い!!」」」」」
「じゃあ、他のも仕上げしちゃおう!」
「「「「おーー!!」」」」
皆んなで手分けして、サラダやナポリタン、トンカツ、ビスクスープを仕上げていく。
出来上がったものを1つの皿に載せていけば完成。
*****
「本日は、ナポリタンスパゲッティ、ピラフ、トンカツのワンプレート、トルコライスとエビのビスクスープです。」
先程の会議室に、侍女トリオに運んで貰いセッティングをしてもらう。
「トルコライスって、確かどこかのローカルフードだったわよね?」
と、王妃様。
「そうです。大人のお子様ランチみたいですよね?色々と食べられて。」
「「「「「美味い!!」」」」」
「「「「「「うっま!!!」」」」」」
「これが……。」
初めて私の料理ーーと言うか、前世の料理ーーを食べたリバークス侯爵は、目を見開いている。
「どうだ?リバークス侯爵。ジョアン嬢の料理は?」
「ええ、とても美味しいです。それにしても、これが米とは……。」
王家やランペイル領、バースト領で、主食になりつつある米も、他ではまだ餌枠。どうしても信じられないらしい。
「父上、信じられないですよね?俺も、初めはそうでしたが、米は腹持ちも良いんですよ。」
と、カズール先輩が言う。
「何?腹持ちも良いのか、だとすると……。」
と、何やら考えはじめたリバークス侯爵。でも、口に運ぶ手は止まらない。
良かった〜。口に合ったみたいで。
カズール先輩のフォローにも感謝ね。
食事が終わり、テラスに移動し、少しだけと言いつつ陛下が侍従にお酒の準備をさせる。準備されたのは、いつだったか王妃様に頼まれてプレゼントしたカクテルセット。秘書官さんがシェイカーを上手く使い、皆んなにカクテルを作り侍従が配っていく。
「まずは、スクリュードライバーです。」
低音ボイスのイケオジ秘書官、ライアン・フラガーさん。
カクテルの作り方を教える時に、幼い子供の私の話を真剣に聞いてくれて、誰よりもカクテルにハマった人。元々、魔物討伐団で、グレイと同期らしい。当時、陛下ーーその時は殿下ーーにも物怖じせずに自分の意見を言っていたことを評価され、陛下が退団する際に秘書官として引き抜かれたそうだ。
「あ、美味い……。酒とジュースを混ぜただけで、こんなに飲みやすくなるのか。」
リバークス侯爵は料理に続き、カクテルも気に入ってくれたようだった。
「しかし、もう少し強くても良いな。」
ボソッと呟くリバークス侯爵に、ライアンさんはニヤッと私にだけ笑いかける。
「ドライマティーニです。」
次に出したのは、辛口で強めのカクテル。
「「「「ん!!美味い!!」」」」
陛下、宰相様、リバークス侯爵、お父様が声を揃える。
私はそれを横目にストレージから、カクテルに合うつまみを出す。出し始めると、皆んなテーブルの上を凝視し始める。
「えっと、こちらからラムブレープとクリームチーズのカナッペ、アサリの酒蒸し、パスタフリット、エビとキノコのアヒージョです。」
おつまみの簡単な説明を終えると、皆んなの前に6個に仕切りのある白い特殊ガラスーーマッさん作製のスライムガラスーーの皿を配る。それに合わせて、侍女トリオがカトラリーを並べる。
「ジョアン嬢……これは一体?ガラスでも陶器でもないようだが?」
と、陛下。
「これは、こちらにいるマヌエル様に依頼して作ってもらいました、特殊ガラスです。落としても割れないので、私の店では透明なものをショーケースやテラス部分の窓にこちらを使っています。」
前世のホテルバイキングなどで使われる仕切り皿。色々な食べ物を小分けに出来るから、どうしても作りたかった。
「特殊ガラス……原料を聞いても?」
と、リバークス侯爵がマッさんに聞いている。平民のマッさんからしたら、高位貴族からの問いかけに緊張しているものの何とか話していた。もちろん、作製工程は内緒。というか、私との神殿契約があって話せない。
「スライムからこんなに丈夫な物が……。王妃、前世では普通なのか?」
と、陛下。
「んぐ?…………は、はい。原料はスライムではありませんけど、似たような物は多かったですね。」
危うく喉に詰まりかけたが、何とか飲み込んで答える王妃様。
王妃様、口に頬張りすぎるから話しかけられても、すぐに対応できないのよ!皆んな、苦笑いしているじゃない!
今回もリクエスト頂きました《トルコライス》を登場させて頂きました。ありがとうございます。
寝る前に確認して、予約投稿するのですが……毎回、お腹空いてしょうがない。ハイ、完全なる自爆です。




