376.Don't think ! Feel.
ランチを取りながら、アリーシャちゃんとその友達、男爵令嬢のリジーちゃん、平民のシーナちゃんから話を聞く。
「私達、バースとテトのすぐ後に教室を出ようとしたんです。そしたら、目の前を《火矢》が飛んできて、びっくりしてしまって。ザック先輩の声がして、バース達を見るとザック先輩に庇われてました。」
と、アリーシャちゃん。
「《火矢》が飛んできた方向は見た?」
と、聞くとアリーシャちゃんとリジーちゃんは首を横に振る。
「あの……私……。」
シーナちゃんは見たようだが、何か悩んでいた。
「どうしたの?何か見たの?」
「……でも、見間違いかも知れないし……。」
「大丈夫よ。見間違いでも良いから、見えたと思うものを教えてくれる?」
「私……ブラン男爵令嬢を見ました。で、でも、その、《火矢》を撃ったところではなくて……ザック先輩がうずくまっている方向を見て、笑っていたんです。野次馬の間からですけど。でも……私、怖くて……。」
間に座って震えているシーナちゃんを、アリーシャちゃんとリジーちゃんは、背中をさすったり手を握ってあげたりしている。
「じゃあさ、見たものではなくて、最近変わったこととかないかな?」
と、エドが3人に聞く。
「変わったこと……あっ、ラムディール殿下が週明けから来てません。」
「あっ、確かに見てないです。」
「先週まで普通に授業受けてました。」
と、アリーシャちゃん、シーナちゃん、リジーちゃんが言う。
今日は、風の日。前世でいうところの、木曜日だ。週明けからと言うと、もう4日来てないことになる。
「あっ、でも担任の先生が言うに、従僕さんから公務の為に休むって連絡があったようですけど。」
「従僕さんって、イデア様?」
「イデア様って、あの狼の獣人さんですよね?あの人じゃないみたいですよ?」
と、アリーシャちゃん。
「あっ、でも寮にも帰って来てないみたいだってクラスメイトの伯爵令息が話してましたわ。」
通常、王族は王城から通うところ、ラムディール殿下は無理言って寮生活をしていると聞いていた。
でも、アニア国からイデア様以外の従僕は連れてきていないって聞いてたのに……。
何かが、おかしい。
「3人とも、ありがとう。また、何か気付いたことがあったら、連絡くれるかな?」
「でも、決して危ないことはしないでね!」
「「「はい。」」」
私とベルのお願いにしっかり返事をしてくれたアリーシャちゃん達は、ダガーとブラッドが送って行ってくれた。
*****
「ただいま。」
「おかえりなさいませ、ジョアン様。」
転移扉を開けるとサラがいた。
「ザックの様子は?」
「ベルデの治療も終わり、左腕も問題ありませんが、念のため休んでおります。」
「そう、良かった。お父様は?」
「旦那様は、執務室でございます。」
「じゃあ、着替えてくるからお伺いをたてて。」
「かしこまりました。」
お父様は今なら会えると言ってくれたので、すぐに執務室へ向かった。
トントントン「ジョアンです。」
「入りなさい。」
「ただいま帰りました。」
「おかえり。」
お父様に促されて、ソファーに座ると対面にお父様も座り、グレイがお茶を入れてくれる。
「で、何か掴めたかい?」
「はい。まだ確証はありませんが……ザックを襲撃後、野次馬の中にキャンディ・ブラン男爵令嬢がおり、ザックの状態を見て笑っていたという目撃情報がありました。それから、週明けより、ラムディール殿下が登校していないようです。更に、担任には従僕と名乗る男性が、公務のために欠席する旨を連絡しているようです。」
「従僕……それは、イデア殿ではないのだな?」
「はい、情報提供者によると、獣人ではないと言ってました。」
「【魅了】にかからない為に、攻略対象者とタッグパートナーに魔法防御の魔道具を渡しているのを知っているね?」
「はい。ジュリー叔母様が付与した物ですよね?」
王命により、ジュリー叔母様が直々に魔石に付与し、ペンダントに加工して配られたことは聞いていた。
「ああ。それなんだが……ラムディール殿下のペンダントが寮の自室の机の上にあったそうだ。」
「えっ!?着けてないのですか?」
「そうらしい。渡す際も「自分は魔法に耐性があるから【魅了】なんぞには掛からないから、そんな物は必要ない。」と言っていたのを、どうにか説得して渡したと聞いた。持っていてくれたら、追跡できたものを……。」
私は、それを聞いて、あちゃ〜っと呟きながら額に手を当てた。
何で、身に着けないかな〜。もし【魅了】されてたら、自業自得じゃん。
しかも、GPS仕込んでいたのね。もしかして、それに気付いて身に着けなかった?
陛下達にも報告してくると、お父様は転移扉で王都へ向かった。それを見送り、サラと共にベルデの元へ向かった。ベルデは、演習場でバースとテトを指導しているそうだ。グレイの話では、ザックの怪我に責任を感じたバースとテトが自ら指導を願い、帰ってからずっと演習場にいるらしい。
演習場に行くと、目隠しをしたバースとテトが立っていた。その周りを、ベルデと様々な鳥達が囲んでいる。サラに聞くと、気配察知の訓練だそうだ。獣人として耳は良いものの、気配察知が出来ていない為、今回、自分達で身を守れなかった。そのせいでザックを怪我させたと責任を感じているそうだ。
気配を感じるためには、己のみに集中し、情報取得する基盤の、目、鼻、口、耳、肌、思考、心をフリー、執着しない状態にすること。目を瞑って集中し、自分を中点として空間が円形で広がるようにイメージする。私も最初は、色々と考えていた時もあったけど、慣れてくると『考える』より先に『反応』出来ていた。前世の有名な映画の、名台詞にもあった。
「Don't think ! Feel.(考えるな!感じろ。)」
ジークンドーの創始者の映画俳優で武道家だった、黄色のジャンプスーツの方の言葉。これは、「何も考えるな!感覚で勝負だぜ!」って、ことではなく、「自分の技をどうするかを考えるな。相手がどう出てくるかを感じて的確に対応しろ!」
って事。
ベルデの気配察知の訓練は、目隠しをしたバース達に鳥達が攻撃するようだ。鳥達の攻撃の間に、ベルデもどこからか出したプルーベリーを投げつけている。そのプルーベリーを鳥達が狙っているのもあって、バースとテトの周りはカオス。それでも、2人は攻撃を避ける。猫獣人なので跳躍力が凄い、しかも2人共目隠しをしているのに、ぶつかる事もなく避けていた。ベルデは、バク宙した2人の着地点にプルーベリーを投げる。それを察知して、身体を捻り着地点を変えていく2人。
「……ベルデの訓練、エグいな。」
「有効的な鍛練です。」
まあ、私の時もお祖母様が小石を投げつけるのを、避けてたけど……。最初のうちは、アザだらけだったなぁ〜。




