367.初接触
事態が動いたのは、アニア国のラムディール殿下が学院に来ることになった前日のランチタイムの食堂でだった。
いつも通りに、キャシーちゃんと騎士科4人で食堂に入ると、既に飴ちゃんと先日も一緒にいた令息達が何やら騒いでいた。その中の1人の令息が私達を見つけると、駆け寄って来る。私は、念のためにキャシーちゃんに結界を張る。
「カッター公爵令嬢、酷いではないですか!!キャンディ嬢に謝って下さい!!」
と、捲し立てる。
「……なぜ、わたくしが謝らないといけないのか、理由をお伺いしても?」
「なぜって、貴女でしょう?キャンディ嬢の制服にブレープジュースをかけたのは!」
「「「「「は?」」」」」
令息の言い分に、私達は同時に首を傾げる。
いやいや、今、授業が終わって食堂へ来たところですけど?
1年よりも2年の授業が多少長いの知らないの?
「……それは、いつのことでしょう?」
「いつって……さっきですよ!授業が終わった後に、すぐ食堂へ来た私達が食事を取りに行っている時に、1人になったキャンディ嬢の元へやって来てブレープジュースをかけたんでしょう!」
「それは、あり得ませんわ。だって、2年生の授業は今終わったのですよ?時間的に無理でしょう?」
「で、では、誰かにやらせたんです!例えば……そう、ランペイル辺境伯令嬢に。あの人の使用人が同じ1年だとわかっているんです!あの獣人がやったんだ!!」
「ジョアンの屋敷の使用人……。と、言ってますけど?」
と、キャシーちゃんが私の方へ声をかける。
「我が家の使用人のバースとテトがやったと?」
「そ、そうだ!」
「それは難しい話ですね。今頃、バースとテトは父と共に、王城へ行っているのですから。」
「なっ!」
今日、バースとテトはお父様と共にアニア国の方々に挨拶をしに朝から王城へ行っている。早朝から念入りに湯浴みされ、ぐったりしつつもちゃんと朝食を食べたと、ザックから聞いたので間違いはない。
「……もう良いです。」
か細い声で令息に話しかけて来たのは、飴ちゃん。その後ろには他の令息達。今は悲しげな表情をしているが、私達のやり取りを聞きながら、悔しそうに下唇を噛んでいたのを前衛の私とエレーナ先輩は見逃しはしない。
「いや、しかし……。」
「もう、良いの。あたしが悪いんだわ。男爵令嬢とは言え元平民だし……。殿下と仲良くしているのがいけないのです……。」
「「「「「……。」」」」」
えっ?いつ、殿下と仲良くなったの?
《影》からも《カラス》からも、そんなこと聞いてないけど?
確認した方がいいのかな?
チラッとキャシーちゃんを見ると、覚悟を決めたのかキャシーちゃんが飴ちゃんに聞く。
「殿下と仲良くとおっしゃってますけど、殿下とどこでお会いになったのですか?」
「……最初は、夏休み中に王都のパン屋さんで会いました。その後は会えてなかったんですけど、昨日またバッタリ寮の前であったんです。」
「「「「「……。」」」」」
パン屋さんに一般寮ーー文官科と一般科は同じ寮ーーの前?
絶対、アルバート殿下でもフレッド殿下でもないよね?あの2人が一般寮に用事はないし、まして市井のパン屋には行かない。誰かと間違ってる可能性あり?
「あの、お会いした殿下という男性は、どのような外見でした?」
「えっ、誰?まさか……ランペイル辺境の?」
「……何か?」
「あっ、いえ、随分とお痩せになられたんですね……。」
いえ、昔から変わりませんが?
「あっ、えっと、外見ですよね。えーっと、金色のふわふわした髪の毛に、黄色の瞳。笑うと八重歯が見えて、格好良いだけではなく可愛らしい方ですわ。」
「……その方が、自分は殿下だと名乗ったのですか?」
「いえ、あたしが気付いてつい『殿下』と呼んでしまったのです。でも、殿下は咎める事なく、内緒だよと微笑んでくれましたわ。……だから、キャサリーヌ様はあたしの事が目障りなのですわ!!」
「「「「「っ!!」」」」」
最後になぜか勝ち誇った顔でそう言い切ったことに、周りもザワザワしている。でも、それは内容ではなく、許しもないのにキャシーちゃんを名前呼びした事。通常であれば、許可がなければキャサリーヌ様ではなく、先程取り巻きの令息が言ったように、カッター公爵令嬢と呼ばなければならない。にも関わらず、一男爵令嬢が許可もないのに公爵令嬢を名前呼び。今日までの理解不能な行動と言動、それから皆んなが知っている外見ではない殿下のこと、最後に今の名前呼び、そりゃザワザワするのも当たり前。
「……わたくしは、名前も名乗っていない貴方に名前呼びを許可したこともありませんが?先程もジョアン様に対して失礼な言動もありますし、男爵家は公爵家や辺境伯家よりも偉いんですの?」
「ひ、酷い……。あたしは仲良くしたくて、名前呼んだのに。それに、ランペイル辺境伯の娘さんが痩せたから、凄いなーって褒めたのにぃ。」
娘さんって……間違いはないけど。
仲良くしたいなら、名を名乗れや!
キャシーちゃんも私達も、怒るよりも呆れてしまった。そして、凄い疲労感。
「……もう、良いですわ。名も知らない方と話しても疲れるだけ。皆様、行きましょう。」
「「「「はい。」」」」
飴ちゃんがまだ何か言いかけていたが、それを無視して私達は食堂を出た。中庭へ出て周りに誰もいない事を確かめると【ディメンションルーム】を展開する。ちなみに、ディメンションルームに入ると《カラス》の皆さんは、他の任務や報告、一時休憩が出来るとメテオ経由でお礼を言われた。今も、メテオ経由でディメンションルームに入る事を伝えると、接触があった事を報告してくると伝言があった。
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