306.産後にエール
トントントントン……。
「いや〜、本当にジョアンちゃんとベルちゃんは、料理上手ね〜。ウチの娘達も、2人みたいだったら良いのにー。」
翌日の朝から、先輩のお母さんのご飯の準備を手伝っている。最初はクロエ先輩も参加していたが、私達とお母さんが打ち解けたことで参加せず、牛舎の方を手伝っている。
「でも、皆さん他のお手伝いしてるじゃないですか。偉いと思いますよ。それに、私達は普段から料理してるから。」
「でもね〜まさか、ご令嬢が料理出来るなんて思わないじゃない?」
「あー、それは確かに。」
「だからね、ちょっと心配だったのよ。でも、今は教えてもらう方が多くて、本当に助かってるわ。」
「母さん、お腹空いたー!」
「「私もー。」」
先輩の弟、妹たちがキッチンにやって来た。
「あらあら、まだ出来てないわよ。」
「あっ、じゃあ……はい、これどうぞ。おばさまも良かったらどうぞ。」
ストレージから小さめのおにぎりを出す。具はジェットブル時雨だ。
「「「美味しー!」」」
「あら、本当に。でも、これは、何かしら?」
「おにぎりです。米っていう穀物知ってます?」
きっと、バーストの時と同じ答えのような気がするけど、一応聞いてみる。
「米って……。あの家畜の餌?」
やっぱりかぁ〜。そういう位置づけよね〜。
なので、バースト領の米農家の皆んなと、同じ説明をした。
「じゃあ、牛達はこんな美味しい物食べていたのね〜。」
「「「ズールーいー!!」」」
牛達は与えられた餌を食べていたにすぎないのに、知らない所でズルいと言われ、ちょっと不憫だなと思い、私は苦笑いをした。
*****
夕食が終わり、ゲストルームに戻ってベルとまったりとくつろぎ話をしていると、外が何やら騒がしい。窓から顔を出すと、ちょうどクロエ先輩が牛舎に向かっているのがわかる。
「クロエ先輩、どうしたんですかー?」
「牛のお産が始まりそうなのー。」
そう言って、クロエ先輩は走って行った。
「ベル、行こう。」
「うん。」
牛舎に来ると、先輩のお父さん、お母さん、お兄さん2人、クロエ先輩、そしてスタッフの方が母牛の周りを囲んでいた。
「先輩!」
「ジョアン、ベル、来てくれたの?」
「はい。何か手伝えたらと思って。」
「ありがとう。でも、今は待つしかないんだけどね。」
「じゃあ、エール準備しておきますか?」
「「「「「「「エール?」」」」」」」
あれ?異世界では、産後の牛にビール飲ませないのかな?
前世で私が子供の頃、実家で飼っていた乳牛が出産したらビール飲ませてたんだけどな……。
「ジョアン、お祝いするほどのことじゃないのよ。出産なんて頻繁にあることだし。」
「あっ、いえ、人間がじゃなくて……。母牛に。」
「「「「「「「母牛にエール?」」」」」」」
「はい。あの……本で読んだんです。えっと……外国では分娩後の牛はお産によって体力が消耗して、脱水気味になるから。それと、エールは胃の消化を助けるから、飲ませると食欲が出て、その後の牛乳の出が良くなるって書いてました。」
「ジョアンちゃん、それは本当かい?」
お父さんに聞かれる。
「はい。本には、そう書いてました。何ていう本かは、忘れましたけど。……すみません、何か余計な事を言ってしまって。」
「いやいや、良いんだよ。実は、母牛が分娩後に乳が出ない事がよくあってねぇ。仔牛には、1週間は母牛の乳を飲まさないといけないんだが、水を与えても飲む気力もなくて……。ジョアンちゃんの言うことが正しいなら、試してみる価値もあると思うんだ。」
「でも親父、牛が酒飲んで酔っぱらって暴れたらどうする?」
ディックさんが心配そうに聞く。
「あの、牛の身体の大きさからエールの1杯、2杯ぐらいは大丈夫だと……書いてました。」
「じゃあ、飲ますとして……どうやって?」
「えっと、常温のエールを瓶にうつして、牛の口に瓶をさしこむんです。」
「なるほど。よし!クロエ、エールと何か空き瓶持ってこい。」
「わかった。」
それからしばらくして、仔牛が無事に産まれた。
「じゃあ、飲ますぞ。」
お父さんが恐る恐る、エールの入った瓶を母牛の口元に持っていくが、母牛は警戒して顔を背ける。
「んー、なかなか上手くいかないな。」
「あの……私にやらせてもらえませんか?」
「ジョアン危ないよ。」
「えっと、私のスキルに【アニマルトーク】っていうのがあって、触れた動物と会話が出来るので……その……母牛に説明してみます。」
「「「「「「「アニマルトーク!?」」」」」」」
まあ、知らないよね〜。私のオリジナルスキルだし。
でも、このままじゃ脱水症状になっちゃうから……。
お父さんからエールの瓶を受け取り、母牛に近づきそっと背中を撫でる。
「出産、お疲れ様。喉渇いたでしょ?」
『えっ!?なぜ、人の子がアタシと話せるの?』
「私のスキルのお陰なの。……これ、エールなんだけど飲んでみない?喉も潤うし、いっぱいお乳出るようになるよ。あなたの可愛い仔牛の為にも、ね?」
『ホント?じゃあ、ちょっと飲んでみるわ。あの子の為だもの。』
「ありがとう。じゃあ、瓶を口に入れるよ。」
グビッ、グビッ、グビッ……。
『あら、やだ。これ、美味しいわ。』
「おっ、なかなかイケる口だね〜。どう?もう1本。」
『うふふ、いただくわ。』
「どうぞ、どうぞ。」
グビッ、グビッ、グビッ……。
『あー、生き返ったわ。喉が乾いてしょうがなかったのよね〜。いつもの出産後は、バケツに水持って来てくれるんだけど、飲む気力もなくて……。ホント、今日は助かったわ。』
「良かった。出産は命がけだもんね。」
『そう言えば、あなた、見ない顔ね?』
「あっ、私?クロエ先輩の後輩なの。ここには、遊びに来てるのよ。」
『そうなのね。クロエが1番ブラッシングが上手なのに、学院に行ってからは、なかなか帰って来ないから、皆んな困ってるのよ。』
「そうなの?」
『そうよ。まぁ、でも最近はショーンが、クロエに習って上手くやってくれるから良いけどね。』
皆んなは、私の声は聞こえるが、母牛の言っていることはモウモウとしか聞こえない。だから、会話をしている私と母牛を不思議そうに見ている。
エールを飲ませ終わり、母牛との会話の内容を伝えると
「やっぱり、バケツから飲む気力がなかったのか……。ジョアンちゃん、ありがとう。これで、産後に体調不良になる牛が減るかもしれない。」
お父さんやスタッフの方に感謝された。
「私のブラッシング、褒めて貰えてたんだ。ありがとう、ジョアン。牛の気持ちがわかって嬉しいわ。帰省している間は、頑張ってブラッシングしないと。」
クロエ先輩からも感謝された。
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