28.普通って何?
「美味いな、このギムレットってやつ」
「そうですね。レイムジュースでさっぱりとしてます」
「お嬢さん、美味いっす。お代わりして良いっすか?」
パシンッ。
あっ、今度は師匠が叩かれた。
「ベン、まだ仕事中だ。終わってから飲め。…俺だって、我慢してるんだ」
「おつまみも、作って良いですか?」
「何作るんだ」
「今日は簡単に、カリカリチーズを」
そう言って、冷蔵庫からプロセスチーズを出して5mmぐらいに切る。それをフライパンで両面焼くだけ。
あ〜ら、簡単。おつまみの出来上がり〜。
「どうぞ、食べてみて下さい」
「んー、これは酒に合う!!」
「こんなに簡単なのに、うっまっ」
「お嬢様〜、美味しいですね〜」
カリカリチーズはアニーちゃんも試食出来るからねぇ。
「じゃあ、アフターディナーの前に作って持って行けば良いか?」
「でも、その時間、使用人の皆さんの夕食ですよね?私が持っておきます」
「ん?持っておくって、今作ったら、カクテルは温くなるし、チーズは冷めて美味しくないだろ?」
「あっ、えーっと…コレがあります」
「コレ?どれ?」
「えーっと、【ストレージ】」
目の前に、ポッカリ穴が開いた。
「うおっ!?お嬢、ストレージも持ってんのか」
「でもお嬢様、ストレージって収納出来るだけだから、やっぱりカクテルは温くなるし、チーズは冷めて美味しくなくなりますよ?」
「あっ、あの、私のストレージ、時間停止機能付きなんで」
「「「はぁーーーーーっ!?」」」
「あの〜、そのストレージって何ですか?」
アニーが聞く。
「あー、ストレージってのは空間収納って言って、何もない所に色々収納できるんだけど、普通、時間停止ってのは出来ないから、冷えてるカクテルを入れたら温くなるし、熱々のチーズも冷めて硬くなるんだよ。普通はな、普通は!」
エイブは、頭を掻きながら言う。
何度も、普通って言わなくて良いじゃないのよ。
まるで私が普通じゃないみたいよ、その言い方だと。や〜ねぇ〜。
ってか、普通って何よ?
ストレージSは一般的ではなく、他からみると普通じゃないのだが、ジョアンの基準では普通なのだった。
「だが、ストレージのもっと性能がいいスキルに、ストレージSってのがあって、それだと時間停止機能がついてるんじゃないのか?で、お嬢はそれなんだろ?」
「はい。ストレージSです」
「お嬢様、スゴいですねぇー」
「えへへへ」
普通じゃないって言われても、褒められると嬉しいのは5才の身体だから。…と言うことにしましょ。
「と言うことで、私のストレージに入れてお父様たちに出しますね」
「お嬢さん、お父様たちって、誰っすか?」
「お父様とお母様とグレイ」
「何でグレイさんもなんすか?」
「ん〜賄賂?」
「何で、賄賂なんだ?」
「だって、きっとお父様とお母様の次に怒らせたらいけない人だから?」
「「「ぶっ!!!」」」
エイブ、アーサー、ベンが吹き出す。
「「「あっははははーーーっ!!!」」」
「間違いないなっ」
「確かに怒らせたらいけない人です」
「さすがっす、お嬢さん」
あれ?私、間違ってないわよね?
グレイってば、笑顔でも目が笑ってない時あるし、笑顔でお父様に仕事させるし。
私の経験上、怒らせたらいかん人よ。
上司にもいたもの。普段、温厚そうな人が怒りMAXになると、怖いのよねぇ。いつも怒っている人の方が、単純でわかりやすいのよ。




