195.小さきもの
何かしらの生き物を助けるようです……。
はれて念願のDランカーになったジョアンは、入学まで残り半月、学院の準備を……な〜んてやるわけもなく、日々ギルドの依頼をこなしていた。そして、今日も……。
今日の依頼は、南の森クリムゾンウッズでホーンラビットの討伐。
《ホーンラビット》
一本角が額から生えた兎。体毛は白や茶色で、一番弱いタイプの魔獣。目が合うと突撃してくる。
肉はとても美味しい。毛皮は加工して装飾品に、角は毒消しの材料になる。
今回は、料理屋と防具屋、薬師から同時に依頼があったようでホーンラビットが大量に必要らしい。
今日の相方も、もちろんパール。
「さあ、着いた。ウサちゃん、いるかな〜?」
『ん〜、まだここら辺だといないみたい。』
「じゃあ、奥の方に行ってみようか。」
『了解。』
春の季のクリムゾンウッズは、木々が青々とした葉をいっぱい茂らせ、新緑の香りを含んだ優しい風が吹き抜けている。
「ん〜、春の森は気持ち良いねー。」
パールの背に跨った状態で、伸びをする。
『ホントだね〜。……あっ、あっちにいる。』
パールは走りながら話しているが、ちゃんと目的のモノは探してくれていた。
向かった先には、白いホーンラビットが。
こちらを見ると、キューっとひと鳴きして突進してくる。
「い〜ち。」
『あっ、こっちにも……にーい。』
ジョアンから少し離れていた所で、パールが茶色のホーンラビットを捕まえていた。
「じゃあ、この調子でどんどんいってみよ〜!」
『おー!』
小1刻間で、白いのが30羽、茶色のが20羽捕まえた。
予定していたより、早く終わったのでパールの案内でクリムゾンウッズの奥にある泉に来た。
「わあ〜……。」
連れて来てもらった所には、清涼な清水が湧き出る泉があった。信じられないほどの透明度。この世のものとも思えないエメラルドグリーン。よく見てみると、水の色ではなく底の砂の色だった。泉の周りには、色とりどりの花が。木の上では、小鳥たちがさえずり、なんとも神秘的な所だった。
「凄い綺麗な所だね〜。」
『でしょ〜。私が小さい時に、よくお母さんに連れて来てもらったの。』
「そうなんだ。……いいの?私がパールのお母さんとの思い出の場所に来て。」
『もちろん。確かに、お母さんとの思い出の場所だけど、これからはジョアンとの思い出の場所になったら良いなって。冒険者になったら連れて来てあげたいと思ってたの。』
「ありがとう、パール。」
『えへへ、どういたしまして。』
手を泉に入れると、雪解け水なこともあってとても冷たい。
そこでパールと一緒にティータイムをしていると、急に小鳥たちがさえずるのを止める。
周囲を見渡すと、風もないのに一本だけ揺れている木がある。
「ん?」
よく見ると、その木が泉の方へ向かって歩いてくる。
『あっ、トレント。』
《トレント》
歩く樹木。森を巡りながら外敵が森に入るのを防いだり、時には木々にその方法を仕込んだりするほか、草むしりや種まきなどを行い木々の面倒を見ることも。
堅固な岩でもたやすく砕く力を持っており、弓矢も毒も効かない。深手を負わせるには斧か、火を放つぐらい。
トレントは泉の所まで来ると、手の部分にあたる枝を上に上げる。そして、しばらくすると手を下ろすように枝を下に動かす。その動かす枝には、花でも葉でも実でもない何かがのっている。トレントは、何ものっていない方の手をーー枝だけどーーを、泉に入れて葉を濡らすとそっと何かを撫でる。また濡らして撫でる……。
「ねぇ、パール。あれ、何してるんだろ?」
『さあ?……聞いてみる?』
「へ?……話せるの?」
『話すって言うよりは、念話?』
「あー、なるほど。うん、じゃあお願い。」
そう言えばパールって、犬じゃなくて魔獣側だったなぁ〜と思い出しながら、パールの報告を待つ。
『ジョアーン、わかったよ。トレントが言うに、森を歩いてたらグッタリしてる小さきものを見つけたから、泉に連れて来たんだって。』
「パール?その小さきものを私が診ることできるかな?もしかしたら、助けられるかも知れないし。」
『うん、聞いてみるね。………うん……うん、わかった。ジョアン、トレントが人の子に助けられる可能性があるならって。』
「ありがとう。トレントー、側に行くよ。」
言葉が通じるかわからないけどトレントに声をかけると、空いてる枝をワサワサと手を振るように動かす。
ゆっくりと恐る恐る近づく私にパールは
『普通に近づいて大丈夫だよ。トレントには、ジョアンに何かしたら雷落とすって言ってあるから。』
「お、おう。あ、ありがとう、パール。」
ウチの子が、トレントを恐喝してました……。
トレントに近づくと、小さきものを持った枝をこちらに出してきた。その小さきものは、フロスティブルーの体毛で小さく丸まり、どこか苦しいのか呼吸が荒かった。
(状態を教えて……【サーチ】)
[小さきもの(仮)]
状態:毒。
補足:キラービーに刺された為、毒が身体に回ってる。
「ヤバッ。早く解毒しなきゃ。トレント、その小さきものを渡してくれる?治せるかやってみる。」
するとトレントが、さらに枝を突き出す。ジョアンは、そっと受け取ると
「わあ、超もふもふ。頬ずりしたい……。」
『ジョアン、まずは解毒。』
「あっ、はい……。」
ジョアンは小さきものを膝に敷いたタオルの上に乗せ、ストレージからスープ皿を出すと、そこに【アクア】で常温の水を出す。
「ねえ、解毒作用がある水よ。飲める?……あっ、パールお願い。」
『了解。』
パールが小さきものに飲むように言ってくれたことで、わずかに頭を上げて水を飲んでくれる。3分の1程の飲んだところで、また丸くなってしまったが、呼吸は安定したようだった。
再び【サーチ】をかけてみると
[小さきもの(仮)]
状態:健康だが空腹。
補足:ジョアンの水で、解毒完了。
「良かった。ふふふ。君、お腹空いてるの?でも、何食べれるかな?」
『何でも食べると思うよ?』
「そう?じゃあ、パンとホットミルク?」
先程のスープ皿にホットミルクとパンを入れる。即席のパン粥だ。
ミルクの匂いに反応して、小さきものが頭を上げる。パールが再び話をしてくれて、小さきものは恐る恐るパン粥を食べる。一口食べたことで美味しい物だとわかり、顔を皿の中に突っ込んで食べ始めた。




