155.梨の子
私達がスノーちゃんで近づくと、魔物討伐団や冒険者たちが構える。それをエルさんをはじめとした私兵団が止めてくれる。
「エルさん。」
「ジョアン様……マイクがウォーグウルフに噛まれて……。」
「マイク!?ちょっとどいて、マイク……今助けるから。【ファーストエイド】……これで傷口は大丈夫。【アクア】……ノエル兄様、これをマイクに飲ませて。」
「これって……スキルの重複にならない?大丈夫?」
「でも、死ぬよりは……。アクアの水、毒消しになりますから。ノエル兄様……。」
「わかった……。ほら、マイク飲んで。」
ノエル兄様はアーサーと共にマイクになんとか飲ませる。
しばらくすると、青白かった顔に赤みがさしてきて呼吸が正常に戻る。
「良かった……。」
「ジョアン様、ありがとうございます。」
私兵団とアーサー、ベンが私に頭を下げる。
「ううん。他にケガしてる人とかいない?」
そう見渡していると、1人の冒険者が近寄ってくる。
「あの……誰でも治してくれるんすか?」
「はい。私で出来る事なら。って言っても、応急処置しか出来ませんけど。」
「んじゃ……ほら、来いって。」
「いや、俺は良い!誰だか、わからない子供に何ができる!!しかも魔獣を操るヤツだぞ!!」
「おい!!この方はなーーー」
「ジェイコブさん、私が……。名前も名乗らずに申し訳ありません。私は、ランペイル家が長女、ジョアンと申します。そして、そこにいる魔獣は、私が契約するペガサスです。以後お見知り置きを。」
「「「「「「「「えっ!!」」」」」」」」
治療を拒んでいた冒険者だけでなく、他の冒険者や魔獣討伐団も驚く。
「すいません。俺たち、ランペイル領には初めて来てて、まさか、領主様のお嬢様なんて知らなくて……。」
最初に話しかけてきた冒険者が謝る。
「いいえ、しょうがないですよ。実際、誰だかわからない子供ですし。ともかく応急処置をしましょう。」
「ああ……その、すまねー。」
「いえ、こちらこそありがとうございます。討伐お疲れ様です。【ファーストエイド】。……痛み止めと止血だけなので、また痛むようなら診てもらって下さいね。」
「……あの、そこの担架のやつも俺のせいなんだ。俺がウォーグウルフを仕留め損ねて、俺を助ける為に……。」
「そうだったんですか……。でも、あなたが無事で良かったです。」
「えっ?でも、そいつと知り合いじゃあねーのか?」
「知り合いというか、我が家の使用人です。良かったと言ったのは……もしこの討伐で冒険者を辞めるようなことになったり命を失うような事があったら、いくら魔獣のせいだからとは言えランペイル領にいい印象は持ちませんよね。あなただけじゃなく、あなたのご家族やご友人も……。私は我が領に来て頂いた人たちに、また来たいって思ってもらいたいんです。
それに、我が家の使用人は家族も同然です。その家族が人を守るためにケガをしたのならば、私は尊敬しますよ。勇敢な家族がいてくれるから、安心して生活出来てますし。あっ、あとウチの家族は心身ともに強いですから大丈夫です。ウォーグウルフなんかには負けませんから。あなたが、気に病む必要はないですよ。」
そう言って、冒険者の手をギュッと握りニコッとわらう。
「うぅ……ありがとう。ホントに……俺、どうしたらいいかわからなくて……。すまねー……。」
私の手を握ったまま、膝から崩れ落ち泣き出す。
「大丈夫ですよ。あなたは悪くないんだから。……ねっ、マイク?」
「っ!!」
冒険者が顔を上げて後ろを振り返ると、先程まで寝ていたはずのマイクがベンの肩を借りて立っていた。
「ジョアンちゃんに、そこまで言われたら寝てらんねーって。えーっとボスコだっけ?ジョアンちゃんの言う通り、お前が悪いわけじゃねーし、冒険者の暗黙の了解だろ?俺のことは、気にすんな。……それよりジョアンちゃんの手を握ったままのことを気にしろ!!ノエル様が冷静に怒ってる。」
「「えっ!?」」
私とボスコがノエル兄様を見ると、腰に手を当ててこちらを笑顔で見てる。でも、目は笑ってない……。
「うるさいよ、マイク!でも……そろそろジョーの手を離してね?」
「は、はい!!すいません!!」
バッと手を離すボスコ。
「他には?大丈夫?……なら、ジョー帰るよ。父上たちに知らせないと。」
「はい。あっ……ご飯準備してますから、皆さん我が家に来て下さいね。……スノーちゃん帰ろ。」
スノーちゃんに乗って、ノエル兄様と飛び立つ。
「いやあ、陛下には聞いていたが……。ペガサスとは、すごいものだな。年始のパーティーでは、無邪気な子供だと思っていたが……。」
魔物討伐団の団長ルークが呟く。
「団長……ここで下手なこと言わないで下さいよ。上層部だけしか、あの子のこと知らないんですから。バレたら、スタンリー様どころかランペイル一族を敵に回しますよ。」
「いや……それは困る。」
ルークとジェイコブが小声で話している所へ、団員が何人かやって来る。
「団長、あの子って確か……梨なんですよね?」
「梨のくせにペガサスと契約してるのか?」
「梨の子がペガサスと契約出来るなら、俺、ドラゴンと契約出来るんじゃね?」
「確かにな。」
「「「あっははは。」」」
「おい!!お前ら、梨だと【無】属性をバカにするような言い方をするな!!」
「いや、副団長。だって貴族のくせに梨って。ウケるじゃないっすか。」
「俺なんて平民でも属性持ちっすよ?」
「あ〜、お前達そんな事言ってると後悔するぞ……。」
「団長〜、事実を言っただけですよ。なぁ?」
「そうですよ〜。いや〜、領主様も可哀想に。梨が産まれてくるなんてな。」
「嫁の貰い手もないだろうしな。」
「お前ら……。知ってるか?俺が入団した時に、在籍してた凄腕の先輩団員のこと。」
「あぁ、アレですか?その当時の副団長と班長3人だけでドラゴンを倒したってヤツ。知ってますよー。『ドラゴンハンター』って絵本になってるぐらいじゃないですか。」
「あっ、でもアレって魔術師団も2人補佐にいたとかって聞いたけど?」
「あー、確かに魔術師団もいたな。」
「それがどうしたんですか?団長?」
「そのドラゴンハンター全員、さっきのお嬢様の関係者だよ。副団長は領主のスタンリー様、班長3人は家令、メイド長、料理長だよ。ちなみに、あそこからずっとこっちを見ている私兵団のメンバー全員も俺らの先輩だ。」
「で、ちなみにドラゴンハンターと一緒にいた魔術師団はお嬢様の母親と伯母だよ。……お前ら、終わったな。」
「「「「「えっ……。」」」」」
「話は終わったか?ルーク、ジェイコブ。」
「「はい、エル様!!」」
「じゃあ、帰るぞ。ジョアン様が待ってる。……その後、そいつらちょっと貸せ。大切な話があるから。」
「「もちろんです!!」
「「「「「ひっ……。」」」」」
「……ルークとジェイコブはきっとナンシーさんからの話があるから。」
「「ひっ……!!」」
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