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050 推し、弱る

 未来ちゃんは救急車で病院に運ばれ、私は待合室でずっと待っているしかなかった。

 少し遅れて未来ちゃんのご両親もやって来て、未来ちゃんの状態報告を待った。

 病室のドアが開き、看護師さんが出てくる。


「少し重めのインフルエンザですね。39.0℃ありましたが意識は戻っていますので安静にしてもらっています。念の為一晩泊まっていかれることをお勧めしますが」

「よろしくお願いします」


 未来ちゃんのお父さんが即決し、看護師さんは頭を下げて戻っていった。


「インフルエンザか。ここのところ仕事も頑張っているみたいだし、どこかで移されちゃったんだね」

「えぇ。文ちゃんごめんなさいね。帰ったらしっかり手洗いうがいしてね」

「は、はい」


 超難病とかじゃなくてよかった……けど39.0℃か。苦しいだろうな……。


「未来ちゃんに少しだけ会わせてくれませんか?」


 気がついたらそんなことを口にしていた。

 たぶんだけど、未来ちゃん今すっごい心細いと思う。

 ひと言だけ、ひと言だけ会話したい。

 その心を理解してくれたご両親が「5分だけだよ」と言って許可してくれた。


 病室に入ると、未来ちゃんは肩で息をしながらうなされるように寝ていた。

 苦しそうだ……こんな顔の未来ちゃん、見たことない。

 いつも笑顔で明るく元気な未来ちゃんからは想像もできない姿だ。

 私は未来ちゃんの手を取って、おでこに寄せた。


「文ちゃん……冷たい」

「ご、ごめんっ!」

「ううん。気持ちいい」


 春の末端冷え性は今の未来ちゃんにとって都合のいいものだったらしい。

 とにかく気持ちいいならと、未来ちゃんの手をぎゅっと握ってあげた。


「ごめ……んね。せっかく、たのし……かったのに」

「ううん。未来ちゃんが無理しているのに気が付かなかった私が悪いよ。オタク失格だ」

「……んふふ、文ちゃんはどこまでも私のオタクさんだぁ」

「え?」


 そう言い残して、未来ちゃんは寝てしまった。

 どこまでも未来ちゃんのオタク……か。

 その言葉にしっくりきた私と、ちょっと物足りない私がいる。

 未来ちゃんの手を離し、病室から出ようとした。その時……


「文ちゃん……好きだよ……」


 未来ちゃんの呟きが聞こえた。


「未来ちゃん……私もだよ」


 私はそう返して、病室を出た。


「ありがとうございました。未来ちゃん寝ちゃいました」

「そう。ありがとうね、文ちゃん。気をつけて帰ってね」

「はい」

「あら? 文ちゃん顔赤いけど……まさか移ったんじゃ」

「いえいえ! そんなことありませんよ……はは……」


 私はたぶん笑顔で病院を去った。

 そして普通に移っていた。2日後に38.2℃を記録。未来ちゃんより軽めだったので、ずっと自宅待機だ。

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