049 推しとデート
わー推しとデートだぁ……なんて思いながら1日を過ごし、気がついたら待ち合わせの時間になっていた。
人間の慣れは怖い。推しとのお出かけさえ、慣れ始めている自分がいる。
ただ胸の高揚感だけはまだまだ初心な反応を示してくれた。
「文ちゃーん!」
「未来ちゃ……ん……?」
3月下旬。春になったとはいえ、まだまだ肌寒い。
そんな中、未来ちゃんは機能性0、見た目極振りの服装でやってきたのだった。
「待たせちゃったかな?」
「そんなことどうでもいいよ! 寒くないの?」
「えー? こんなのへっちゃらだよー」
「いやちょっと薄着過ぎないかな……」
「そうかな?」
そうだよ! 心配になっちゃうよ!
「もー、文ちゃんお婆ちゃんじゃないんだから」
おば……お節介すぎたかな。
「ほら早く行こっ! デートの時間は有限なんだから!」
「ちょ、ちょっと!?」
私は未来ちゃんに手を引かれ、まずは大きな池に連れて行かれた。
アヒルボートとはまたテッパンなデートコースだ。
「えへへ……なんか自然に2人きりっていいね」
「そ、そうだね」
「あれ? もしかして船とか怖い?」
「もう未来ちゃんには隠し事とかできないね。私泳げないから」
「そうなんだ〜」
事情を理解した未来ちゃんは減速してくれた。
その後アヒルボートから降りたら忙しなくカラオケに入ってしまった。3時間みっちりで。
「未来ちゃんの歌、楽しみだなぁ」
「ふふ、私歌って苦手なんだよねぇ」
「そうなの? でも3曲出してたよね?」
「あれは編集さんがすごいだけだよ。聴いててね」
未来ちゃんが歌い始めると、確かに生歌は若干怪しい気がする。特別苦手ってわけじゃないと思うけど……
機械採点では86点。うん……普通だ。
「じゃ……はい、文ちゃんも……歌って」
「……? う、うん」
私もマイクを受け取り歌っていると、隣から未来ちゃんの鼻息が聞こえてきた。
そんなに興奮するような歌じゃないと思うんだけどなぁ。
私の歌に機械は87点を付けた。素人としてはまぁまぁじゃない?
「どう? 未来ちゃ……えっ?」
歌い終わって振り返ると、未来ちゃんは息を切らして倒れていた。
疲れて寝ているとかじゃない。汗をかき、息を切らして、体には熱を帯びている。
「未来ちゃん……」
私は数秒間、何もできずに未来ちゃんを見つめた。




