048 推しにデートに誘われる
「いい? 開けるよ?」
「うん。文ちゃんの手で開けてあげて」
ピリッと、新人賞評価シートが入った封筒のテープを破った。
中から1枚の紙を取り出し、思い切って開けた。
『落選』
……まぁ、わかってはいた。小説サイトで悪戦苦闘している作品が伸びないことは。
それでも悔しいものは悔しい!
「良いところと悪いところ書いてあるね」
「うん。良いところは『キャラクター同士のかけ合いが楽しそうで魅力的。キャラクターの可愛さをアピールしたいのが伝わっている』だって」
「文ちゃんの書く子たちはみんな可愛いもんね〜」
「いや〜それほどでも〜……うへへ」
ただ悪いところから目を逸らしてはいけない。むしろここを見て、改稿したりしなければならないのだ。
「悪いところは『キャラクターの行動原理が不透明、ストーリーに起伏がない、キャラクターが多すぎて動かしきれていない』」
「うーん、辛辣だねぇ」
「プロの目線だもんね。そうなるよね」
これがイラストだったら良かったのかもしれないけど、小説としての売り物価値はまったくないということだ。だってストーリーに課題がありそうだし。
「ねぇ文ちゃん! 思い切って友情をテーマにしてみたらどうかな?」
「友情?」
「うん。友情をテーマにしたら主人公が『友人を作りたい』っていう思いで行動できるし、ストーリーの起伏は喧嘩とかすれ違いとか、そういうところから生まれるでしょ?」
「確かに……でも私に友情なんて書けるかな。友達いな……少ないのに」
友達の前で友達がいないって言いかけた。どうも癖はまだまだ抜けないね。
「小説って体験したことや好きなことは書きやすいでしょ? だからさ、私とデートしない?」
「ど、どういうこと?」
「友達とデートして、あぁ友達とはこういう付き合い方をするんだなぁ……って学べたら最高でしょ?」
「た、確かに?」
「じゃあ決まりだね! 明後日とかどう?」
「いいけど未来ちゃんは大丈夫なの?」
「うん! 私もその日は空いているから」
「そっか」
「覚悟しててよね、文ちゃん」
「……え?」
そう言って未来ちゃんは帰ってしまった。覚悟? ……なんぞや。
◆
ひゃー、デートに誘うなんて転校してすぐの頃は簡単にできたのに〜。今じゃこんなに緊張しちゃうなんてなー。
でもなんとか誘えた! えらいぞ私!
……覚悟しててよね文ちゃん。私はこのデートで……もう告っちゃう気でいるんだから!




