045 推し、怒る
「未来ちゃん! 明けましておめでとう!」
「うん。明けましておめでとう、文ちゃん」
……何だろう。いつもと変わらない未来ちゃんのはずなんだけど、どこかちょっと違う気がする。
目は少しだけ暗い気がするし、無理して笑顔を作っている気がする。なんでお前にそんなことが分かるんだって? そりゃオタクだからよ。何回未来ちゃんの笑顔を見ていると思ってるのさ。
「あ、あの……未来ちゃんこのお正月に何かあった?」
「え? 何でそう思うの?」
そう言う時ってだいたい何かあった時のやつだ!
「あ……いや……オタクの勘ってやつで……」
「なるほどね、私を推している文ちゃんには私のことなんてすぐに分かっちゃうわけだ」
「そ、その通り! だって推しだもん」
「でも私には文ちゃんのこと、分かってあげられなかったよ。ごめんね」
「え……どういう……」
未来ちゃんは少し悲しそうな顔をして、スクリーンショットを私に見せてきた。
その画面を見た瞬間、背筋が凍る思いがした。
「私の推し、文ちゃんだったんだね」
えへへ、と力なく笑う未来ちゃん。
その画面には、私がこの前送信してすぐに取り消しした感想への返信メッセージが表示されていた。
まさかあの一瞬で見られているなんて……!
「み、未来ちゃんこれはその……」
「……どうして黙っていたのかな?」
「何も深い意味はないんです……ただ未来ちゃんに褒められるのが気分よくて、一度黙っていたらその後もずるずると……」
「文ちゃんが作者さんだったら私は『花森学園:高等部』を褒めないと思ったの?」
「だって……こんな私が作者だって知ったら……」
パチン! と乾いた音が教室に響いた。
頬を叩かれたこと、それを自覚するのに数秒かかった。
優しく叩かれたから全然痛くない。痛いのは、心だ。
「見くびらないでよ……私は文ちゃんのこと、『こんな』だなんて思ってない! 大好きな友達が大好きな作品を作ってる! こんなに素敵なことってないよ!」
「未来ちゃん……」
「もう隠し事はなし。……叩いてごめんね」
「ううん。私の方が悪いし……痛くないから」
未来ちゃんの優しい手が私の頬を撫でた。
何をビビっていたんだろう。こんなにも私を大切にしてくれている人が読者なのに、なんで黙ろうとしていたんだろう。
「未来ちゃん」
「ん? どうしたの?」
「私、もう未来ちゃんから逃げないから」
「うん。全力で向かって来てね、私のオタクさん」
無謀な夢……私の作品がアニメ化して、未来ちゃんに声を当ててもらう。
夢からも、未来ちゃんからももう逃げない! 全身全霊で向き合ってやる!
明日の更新はお休みです。




