028 推しには言わない
バスの座席的に八田さんと高畑さんは通路を挟むことになるから、未来ちゃんを独り占めできる状況になった。
「未来ちゃん、最近お仕事はどう?」
「順調だよ。文ちゃんのお陰でね!」
「そ、そんなこと……」
未来ちゃんに僭越ながらアドバイスした結果、お仕事も順調に進んでいるらしい。
未来ちゃんは順調か〜、ってことは順調じゃないのは……私の小説だけということになる。
基本的に毎日更新しているけど、ここ数日はブックマークが増えるどころか1件外れてしまった。ブックマーク件数が1ケタ〜3ケタの作者にとって、1つのブックマーク剥がしは結構メンタルに来るのだ。
何がダメなんだろう……やっぱり流行りの長文タイトルにするべきだったかな? でも今更変えると既存のファンの方が離れちゃうかもだし……。
「文ちゃん? 難しい顔してどうしたの?」
「え? ううん。何でもないよ」
「そう……?」
推しに悩みなんて晒すべきじゃない。たとえそれが読者さんだったとしてもだ。
バスがしばらく私たちを揺らしながら走ると、ついに海が見えてきた。
「海だ〜! ナガシマ来た感じが出るね!」
「といっても秋だから、海には入れないけどね」
「それでもテンションは上がるよ! ふふ、来年の夏は文ちゃんと海に行きたいな〜」
生水着の未来ちゃん!? 何それ鼻血出る……。
バスはだだっ広い駐車場に停まり、ついに遠足がスタートした。ただ先生たちからの注意事項として、デジカメが渡されるから最低3枚は写真を撮れとのことだ。どうやら卒アルに使うらしい。カメラの台数の問題で3人以上の班を作れってことだったんだね。
「じゃあアウトレットでも遊園地でもいいから、自由行動とする。集合時間は16時なので遅れないこと。解散!」
生徒たちは「どこ行く?」とテンションが上がりながら散らばっていった。
「私たちはどうする?」
「そりゃアウトレットっしょ。買い物一択!」
「えー? 遊園地じゃない?」
八田さんはアウトレット派、未来ちゃんは遊園地派か。
「まぁ時間はたっぷりあるし、まず遊園地行ってからアウトレットでいいんじゃないかな」
「えー、遊園地から?」
「買ったものを持って遊園地も大変じゃない?」
「……確かに。東山かしこじゃん」
「かしこ……?」
ギャルの八田さんからは時折よくわからない言葉が出てくるな。
ん……なんか高畑さんから視線を感じる。けど私が目を合わせたらすぐに避けてしまった。何か意見あったかな? でもごめん、それを汲み取れるほど私にコミュ力はない!
「じゃあ遊園地にレッツゴー!」
「ゴー!」
元気な2人が声を出し、元気でない2人は黙ってついていった。




