026 推してる気持ち
自宅に帰った私はすぐにパソコンを起動した。
「モモは相変わらずすぐパソコンじゃん」
「これが楽しみで生きているから」
幼馴染の八田夕美……ユウは私の行動を笑いながらも、別に軽蔑したり否定したりはしない。
彼女は明るく気さくで友達の多い、私とは正反対の人物だった。それでも幼馴染である私と一緒にいることを選んでくれている。
「今日は配信するの?」
「うん」
配信とは私の動画サイトでのチャンネルで行われるゲーム配信のことである。3日に1回、いや2日に1回くらいのペースで配信しているのだ。
配信といっても顔を出して配信しているわけではない。最近流行りのバーチャル配信者というやつだ。
私の表情をアバターに反映してくれる機械の電源を入れ、いざ配信を開始した。
配信開始から約5秒でコメントが付いた。
『クロモモ様最強!』
「ありがとう」
クロモモとは私のバーチャル配信者としての名前だ。
配信を始めてから半年……割と人気が出てきて、今では登録者5万人を抱えている。
「今日はブラッドソウルを初見プレイしていくから」
『クロモモ様マジクール!』
『クロモモ様踏んでほしい!』
『クロモモ様最強!』
普段通りの話し方なのに、なぜかクールや女王といった別名がつけられるようになってしまった。ただの根暗なんだけど……
ユウは私の配信している姿を時折見たり、基本はスマホでファッションサイトを見たりしている。マイペースな過ごし方だけど、私の側には絶対にいるのだ。
今日プレイしているブラッドソウルはいわゆる死にゲーで、死んでなんぼのゲーム。だけどこのジャンルならいくらでもやり尽くしてきたし、私は死ぬことなく最初のボスに辿り着いた。配信開始からおよそ30分である。
『クロモモ様、マジプレイングぱねぇ!』
『上手すぎて草』
『クロモモ頑張れー』
『様をつけろよ不敬者が』
コメント欄は大いに盛り上がっている。それとは対照的に、ユウの方は退屈なのか私のクッションで寝てしまっている。自由な人だ。
なんで……なんでユウは私の側にいてくれるんだろう。
「……あっ」
そんな考え事をしていたら、最初のボスにやられてしまった。なんという不覚。
『クロモモ様マジか!?』
『クロモモ様珍しい!』
「……ごめんね、今日は体調が優れないからここで配信終わるね」
私はファンのみんなに謝罪して配信を切った。
クッションで寝ているユウはとても深く眠っている。本当、ずっと変わらないなぁ。
「……ずっと側にいてね」
私はユウの大きく見せびらかしているおでこにキスをした。
ユウがどう思っているかは分からないけど、私の中には確かに大きな感情が眠っている。でも、この気持ちは秘密にしなければならないものだ。
この、ユウを推す気持ちは。
明日の更新はお休みさせていただきます。




