023 推しの手を取り
「はぁ、はぁ……ふぅ、未来ちゃんは有名人だから、あぁいう所に行く時は気をつけないとね」
「そ、そうだね……」
なんか未来ちゃんの歯切れが悪いな……あっ!
勢い余って気が付かなかったけど、私は未来ちゃんの手を思いっきり握って走っていたみたいだった。
それに気がついた私はパッと手を離す。
「ご、ごめんなさい勝手に……」
「う、ううん! 文ちゃんの手小さいんだね。可愛い」
「いやそんな……」
身長が未来ちゃんより小さい分、手も小さいだけな気がする。公式プロフィールによると未来ちゃんは158センチあるんだよね。だから私とは8センチ差だ。
そんな未来ちゃんはどこか満足そうな表情をしている。
「……うん。今日はありがとう文ちゃん。すごく楽しかったよ!」
「よかった。これでテストも赤点回避できていたらもっといいんだけど」
「もー! 今はテストのこと忘れたかったのに〜!」
「ご、ごめんなさい……」
真面目に未来ちゃんの点数を心配しての発言だったけど、少し説教くさかったかな。
「いーや許さない! ……でももし遠足の班一緒になってくれたら許してあげるかも?」
「え……」
未来ちゃんは少し頬を染めて振り返りながらそう言った。
未来ちゃんと遠足の班を一緒に? そんなのなんという光栄なことか。
「ダメかな?」
「ふふっ、未来ちゃんは私が断るとでも?」
「あー、文ちゃんが私より優位に立とうとしてるー!」
「何それ……」
未来ちゃんのことが好きだということは、未来ちゃんが一番理解してくれているはずだ。それを分かって、未来ちゃんは遠足の班を一緒になりたいと言ってくれたのだろう。
私は未来ちゃんのことならなんでも知っていると思っていた。でもそれはプロフィール上のことだけ。本当の未来ちゃんは……少しズルい子なのだ。
「じゃあ帰ろっか。また月曜日になったら遠足のこと、詳しく教えてくれると思うよ」
「うん! テスト返却は嫌だけど、遠足のことを聞くのは楽しみだな〜」
鼻歌混じりに帰路に着く未来ちゃんは可愛らしいの塊だった。
遠足、私もめっちゃ楽しみになってきた。最近学校のこともポジティブに考えられる。それは言うまでもなく、未来ちゃんのお陰だろう。
だからこの週末なんてあっという間にすぎて、月曜日を迎えた。未来ちゃんの笑顔で始まる1週間は最高だね。
「はい、じゃあ金曜日に迫る遠足だけど、班は最低でも3人からだからな。よろしく」
「…………ふぇ?」
先生からの言葉に、私の中で何かがぐるぐる回るような感覚を味わった。




